とある白姫の誕生秘話52_お姫さんと俺5

──久々に一緒にログインしようっ!!

…と、それが錆兎に言えた精いっぱいだった。


…え?ここまで来てネトゲ??

と、思われるであろうことはわかる。
自分でもそう思う。

でも少なくともディスプレイの向こうとはいえ、他人様の目があれば、さすがに襲わずにすむだろう。
大切な恋人をいきなり襲ってしまうリスクを負うよりは、空気が読めない男と呆れられる方がまだマシだ。

…と、判断しての言葉なのだが、錆兎の恋人様は、意外に素直な性格だった。

一瞬びっくりしたようにぽかんとしたが、すぐ

「確かにっ!久々ですし、いきなりウサさんとバカンス来てます♪なんて言ったら、大騒ぎですね」

と、飽くまでユウモードで、しかし楽しげな顔でいそいそと、あとで届けようと思って義勇の分もそのままベッドラックに置いておいたノートPCに向かう。


ああ、確かに大騒ぎになるだろう…と、錆兎はそこで自分の提案が巻き起こす事態に気づいた。

まあ別に自分が“お姫さん”を狙っている輩から敵対心をビシバシ向けられるなんて言うのは、本当に今更なので、全然構わないのだが。

むしろ暴言を吐かれるのも久々で懐かしいくらいだ。

そう考えるとがぜん楽しくなってくる。

「お姫さんと恋人になったぜ!!って自慢するのも楽しそうだしなっ!!!」
と、錆兎も並んで座って、自分のノートPCを開いた。





そして実に数カ月ぶりのユウのログイン。

ギルドメンバーのログにその名がログインしたという文字が流れると、大騒ぎだ。

『ユウさん!!もう引退しちゃったのかと思いましたっ!!おげんきでしたか?!!』
『ユウさんだーー!!!!』
『おひさしぶりですーー!!!』

ざ~っと流れるギルド会話。

『ウサさん、このところずっと待ってたみたいだから、嬉しいっしょ』
と、ほぼ同時にログインしたウサにかけられる声。

その言葉に義勇は少し伺うように錆兎に視線を向けた。
それに対しては錆兎は

「ああ、俺がちゃんと言うから、お姫さんは気にしないで良い」
と、声をかける。

そして…爆弾発言をかました。

『実はな、あれは俺も一緒にログインしなくなると色々騒がれるかなと思ってログインして放置してたわけなんだけどな』

『え??』
『ええっ?!!!』
『どういう意味よっ?!!!』

ギルドメンの反応にニヤニヤとしている錆兎を義勇は、一体どういう風に話を持って行くつもりなんだろうか……とばかりに不思議そうに見あげた。




──俺な、実は数カ月前に偶然お姫さんに会ったんだ。

いきなりの爆弾発言。

「「「「えええええーーー?!!!!」」」」

驚いたのはギルドメンだけではない。
隣で義勇も驚いた。

が、後者はその後に続く錆兎の話で、ああ、あれか…と、納得する。


『休日にな、友人と買い物行った時に、チンピラに絡まれてる子達を助けたんだけどな。
その片方がお姫さんにそっくりだな~とか思ってたら、もう1人に、「ユウちゃん」とか呼ばれているわけだ。
で、それだけならすごい確率の偶然かもと思うわけなんだが、そのユウちゃんって呼ばれた方の子はもう片方の子を「ミアさん」とか呼んでて、もうこれはーーー!!!!って思うだろう?』


うああああーーーー
と、ディスプレイの向こうであがるギルドメンの驚きの声。

『でな、どうしても気になって、その時はもう落ちつかないから帰るって言われたんだけど、どうしても確認したい事があるから、非通知や捨てアドで良いから連絡くれないかって、自分のメルアドと電話番号を渡したんだ。
で、自分、実は…って打ち明けたら、これが、もう奇跡っていうか…本当にお姫さんでな』

『まじっすかっ?!!!
ユウさんのキャラ激似ってことは、すごい美少女ってことですよねっ!!
そっか~~世の中にはこのレベルの美女って存在するんですねぇ…』

『ミアさんもキャラそのままだったり?』
『もうこれ確率すごすぎて運命感じますね』
『その後、会ったりしてるんですか?』

などなど矢継ぎ早に投げかけられる言葉に、錆兎は楽しげな笑みを浮かべながら答えている。

『お姫さん、絶世の美少女。
ミアも結構まんまだった。…けど、これはここだけの話な?
リアルに抵触するのはアレだし、特に女の場合は色々馬鹿な輩が寄って来るから』

『もちろん!単なる自分的好奇心なだけなので、そのあたりはわきまえてます』

『そそ、確率すごいなって俺も思った。
宝くじに当たるよりすごいよな?
あと…その後な、その後は……』

と一瞬言葉を切って、錆兎はちらりと義勇に視線を向け、そしてまたディスプレイに視線を戻した。

『その後は?』
と、その間を待ちきれず聞いてくる面々に、いたずらっぽい笑みを浮かべながらちゃかちゃかとキーボードに指を滑らせた。

『なんと、今お姫さん、俺の隣でPC向かってる!!』

『えええーーーー!!!!!』


『まじ?!!』
『もちろん!!』
『え?え?なに?どうなってんの??』
『えっとな、今バカンス一緒に来てる』
『なに?!いつのまにかリアルでつきあってたりとか?』
『そそっ。リアル恋人。こっちいる間に指輪買いに行く』
『うあ~~!!!おめでとおぉぉ~~!!!!』
『リアル式には呼んでとは言えないから、せめてイルヴィス婚しましょうよ!
参列してえ!!』
『あーー!!いいね、それっ!!!』
『リアルでも結婚予定の新郎と新婦が付き合う事になったきっかけは、新郎がStkrから新婦を助けた事でしたって感じですねwww』
『ギルドメンはみんな知ってる例の奴な?wwww』

などとギルド会話で大盛り上がり。

「イルヴィス婚、良いかもな。
リアルだと俺は良いけど義勇は周りにバレるの怖いってことなら、式あげるにしても大勢に祝福されてにぎやかにってのは無理だしな。
申し込むかっ」
 と、隣の義勇に言いつつ、錆兎はその返事を待たずに、申し込み手続きを始めた。




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