突然そんなメールが来た。
以前…似たような事を言われた事がある。
あれは確か錆兎と出会ったオンラインゲームでのこと。
錆兎はすでにレベルも高くてとても強くて…レベルの低い義勇達を連れていたらレベルの高い敵を狙えない。
経験値を稼げない。
お荷物だ…というような事を言われた気がした。
それでもあれはゲーム内のことで、一所懸命やればいずれは追いつくことだった。
でも今来たメールはリアルの生活の事を言っている。
【君…お荷物だよね。気づいてない?】
なんてタイトルがすでに攻撃的で、開かないほうが良いと思っているのに、開いてしまった。
そこには錆兎がいかにすごい人間かが書いてあった。
海陽学園では新米の教師よりも偉い生徒会長。
その中でも能力の優劣は学園祭の準備の時に訪ねてくるOBの質でわかるという。
毎日3人までと決まってるが、会長が凡才な場合はそれはせいぜい民間企業の管理職レベルだが、錆兎は歴代の海陽の会長の中でもかなり将来を嘱望されている優秀な人材だから、初日から財務省、MAT、警視庁本庁。
翌日からもそのクラスの人間が訪ねてきていた。
それがどういう事かというと、研究職、医療関係なら理系、官庁系なら法学部と、選ぶ学部によって将来が決まるため、優秀な人材が大学の方向性を決める前に、自分の側に抱え込める学部に進ませたいがために来ているということらしい。
もちろんOBとはいえ引っ張れるレベルの人間がやすやすと来られないから下の人間が来るが、実際は上の権限のある奴からの命令で来ている事がほとんどだ。
つまり…錆兎は国を背負ってたつクラスの人間が取り合いをしている人材ということである。
そんな錆兎と釣り合うほどの何かがあるわけではなく、ただ善意に甘えているだけの義勇はただの寄生どころか、錆兎の人生の足をひっぱっているとメールで言われた。
誰だか知らないが、匿名だからいい加減な事を言っている…というには、あまりにも的を得ていて、義勇の心に突き刺さった。
そうか…義勇は錆兎といてとても幸せだったけど、そのために錆兎の人生を犠牲にしてしまっていたのか…
そう思ったらどうして良いかわからなくなった。
でもとにかく錆兎からは離れてやらないといけないと思う。
だって錆兎は優しいから、義勇が側にいればどうしたって自分を犠牲にしても面倒をみてしまうだろう。
幸いにして錆兎と一緒に生活する前に住んでいたマンションは分譲で、鍵は持っているから物理的に身を寄せる場所はある。
寒さや雨露をしのがないとならない意味というのはあまり見いだせないのだけれど、それでも義勇がそのあたりでのたれ死んだりしたら、錆兎だって寝覚めが悪いだろう。
こうしてマンションにいったん戻ることにして、閑静な住宅街が広がる駅で降り、人通りが少ないのにホッとする。
気が緩んだ瞬間、それに比例して緩む涙腺。
マンションに付くまで我慢しようと思っていたのに、視界がぼやけて涙が頬をこぼれ落ちた。
ポケットから白いハンカチを出して目元にあてた瞬間、上着の内ポケットの携帯が振動する。
ディスプレイを見ると錆兎からだ。
…出たくない…出たらきっとまた甘えてしまう…
それでも出るまで鳴らすつもりなのだろう、いつまでも途切れない着信音に、しかたなく通話をタップすると、
『もしもしっ!義勇っ、今どこにいる?!何かあったのかっ?!!』
と、必死な様子の錆兎の声。
どんな状況でも錆兎の声はやっぱりカッコいい…好きだな…と思う。
この声をもう聞けなくなるのか…と思うとまたこらえていた嗚咽がこみ上げてきた。
そんな状況で随分と集中力を欠いていたのだろうか…それとも本当に気配もなく現れたのだろうか…
目の前にス~っと白い手袋をした手が伸びてくるまで、義勇は背後に現れた影に気づかなかった。
『クリスティーヌ……捕まえた……』
どこからか聞こえるしわがれた声…視界が揺れる…
次の瞬間、カクリと膝が折れ、力の入らなくなった手から携帯が落ちた。
『義勇っ?!どうしたんだっ?!!誰かいるのか?!!返事をしてくれっっ!!!!』
耳からはるか離れていても聞こえるくらいの音量で叫び続ける錆兎の声。
それを遠くに聞きながら、義勇の意識は闇へと落ちていった。
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