ファントム殺人事件_Ver錆義4_ショッピング


「村田ァ、これで買うもん、全部かァ?」

「うん、それで全部。ホント、助かったよ、不死川。
注文しとくのすっかり忘れててさ、ネットで届けてもらったら実行委員が使うまでに間に合わないから、もう最悪買うだけ買って、タクシーで学校に帰ろうかと思ってたんだけど」

「そんなタクシー代まで予算でんのかよ?」
「いや?忘れてたの俺だから自腹で…」

「ばぁか、そこはタクシーよりも他の奴を捕まえろよ。
俺がたまたま帰ってたからいいものの、お前、本気で一人でコピー用紙1包500枚を10包、5000を持ち帰るつもりだったのかよ」

「だって今日は煉獄と錆兎は外出許可出てたからいないだろうし、宇髄が俺のポカのために動くと思う?

「あ~駄目だなァ、あいつは動かねえ。
お前のとかなんとかより、こんな地味なことのために動くことはしねえなァ、確かに。
でも手伝ってくれって頼めば手は貸さねえけど万札くらいは寄越したかもしんねぇぞォ。
金持ちのボンボンだから」

「はは、ありえすぎてわらえない…」


そんな会話をしながら、双方当然のように私服で2500枚のコピー用紙の入った箱を担ぎながら歩く男子高生二人組。

用紙が切れていたのを忘れてて、学園祭の実行委員に今日の午後に印刷したいと言われて慌てて駅前の文具屋まで買いに来た生徒会会計の村田と、たまたま地方にある実家での法事その他を終えて寮に戻るためにそこを通りがかった同じく副会長の不死川。

一箱でもヒーヒー言っている村田とは違い、こちらは軽々と箱を肩に抱えあげている。

これで二箱とか無謀だろ。
いくら駅の隣とはいえ、タクシー乗り場までも運べないだろうが、と、呆れて言いつつ、ふと、今回は乗ることは当然ないタクシー乗り場に目をやって、その先の駅の1点に目を止めた不死川は、

「ちょっとこれ見とけ。すぐ戻る」
と、用紙の箱を地面に置くと、そちらに向けて走り出した。



お嬢様っぽい制服の女子高生を囲む若い男3人。
女子高生は困ったように首を振っているので、どう見てもナンパだろう。

「ぉおい?お前ら何してんだぁ?」
と、そこに不死川が割って入ると、男たちはヒィッ!と悲鳴を上げて、逃げ去った。

ハッキリ言って不死川は人相は怖い。
顔を斜めに横断するような大きな傷があるからだ。

それは幼い頃に事故から兄弟のことをかばって出来た傷なので、不死川からすれば勲章のようなものなのだが、初対面の人間にはもれなく怯えられる。

しかしナンパには困ったように泣きそうな顔をしていた女子高生は、不死川には特に怯えた様子もなく、

…ありがとうございました…

と、蚊の泣くような声で言いながらもペコリと頭を下げるので、てっきり新手の怖い人だと警戒されると思っていた不死川は拍子抜けしてしまう。

「…あ~、なんつ~か、このあたり男子校多くて男多いからな。気ぃつけろよォ」
と、ぽりぽりと頭をかいていると、あちらから血相を変えて走ってくる顔見知り。

「不死川っ!!すまん、助かったっ!!」
と、たどりつくなり言うのは、自分の学校の生徒会の会長だ。

女子高生はそれにホッとしたように駆け寄って、その腕の中にすっぽりと収まる。
なるほど、今日の錆兎の外出許可はこのためか…と、不死川は納得した。

「お~。俺は良いけどよォ。このあたり男子校多いし一人にしてやんなやァ。
ナンパ野郎が群がってきて危ねえだろうがァ」

と言うと、

「ああ、切符買ってたんだが、こんな短時間にナンパされるなんて思わなかった。
本当にすまん。助かった」
と、錆兎はまた不死川に言ったあと、女子高生を見下ろして、ごめんな?と謝っている。

錆兎も不死川と同様に、顔の口元から頬にかけてうっすらではあるが幼い頃の事故で残ったという傷がある。
女子高生が顔の傷で不死川を怖がらなかったのは、そのためだろうか…。



その女子高生は女子にしてはスラリと身長は高めだと思うが、180ある錆兎と並んでいるせいもあって、小さく見える。

真っ白な肌…長いまつげに縁取られた切れ長で大きめの綺麗な目。
鼻も唇も小さく整っている、清楚な感じの人形のような正統派美少女だ。

どこかたおやかで儚げな印象を受けるその女子高生を、さすが錆兎が選ぶだけあってすごく良い趣味だなとは思う。が、もちろん思うだけ。

不死川はこう見えて良識派で、他人のものには興味は持たない主義だ。

なにより錆兎自身も顔の傷があってもそれを含めて男らしく整った顔立ちをしている美丈夫なので、お似合いだと思う。

「ちゃんと大事にしてやれよォ。じゃ、俺は村田待たせてっから、これでなっ」
と、自分が言うまでもなく、大切そうに少女を抱え込んでいる級友を微笑ましく思いながら、不死川は軽く手をあげて村田の方へと走り戻っていった。



「村田ァ、悪ぃ、待たせたなァ」
「いや、俺は手伝ってもらってる側だし。それよりなにかあった?」
「ん~、あった…なァ。錆兎が彼女連れてた」

「ええーー!!!マジっ?!!!俺にも言ってくれれば良いのにっ?!!!
どんな子だった?!美人?!!」

「お~。なんつ~か…日本人形みたいなすっげえ綺麗な顔立ちしてた。
でもって、なんだろうなァ…大人しそうで清楚な感じっつ~の?
なんか、錆兎の彼女~って感じだったわ」

「ええー!!余計に見たかった!!」
「あ~でもなんか大事にしてるっぽいから、変な反応すると生徒会クビじゃすまねえぞォ」
「う…それは……」

苦笑いする村田。
そんな村田の反応に笑う不死川。

「ま~あれだ。俺らは女よりまず、成績維持と校内の位置の維持が先だろォ。
俺は特に、良い成績で高校卒業して、良い成績で有利な学部にあがって、良い仕事みつけて下の兄弟助けてやんねえとだしなァ」

できればこのまま特待生で授業料免除キープで、と、言う不死川。

容貌は恐ろしげだが、実は下に兄弟が多くいるので自身には金がかからないように、校内で奨学金が出る特待生でいるためにと常に勉強。学年で3番から落ちたことがないという努力の人である。

(…それでいて…ちゃんとこういう時に率先して手伝ってくれるんだから、いいヤツだよなぁ…)

と、村田は当たり前にまた重たいコピー用紙の箱を抱えて隣を歩く不死川を見て、しみじみと思ったのだった。




と、そんな不死川と分かれて、電車に乗る錆兎と義勇。

「あいつは副会長の不死川だ。
見た目はちょっと怖そうだが、気のいいやつだぞ」
と、やはり当たり前に義勇を座席に座らせて自分はその前に立って話す錆兎。

「うん。良い人だったな。さすが錆兎が役員に選ぶだけはある」
と、義勇もそれにそう返す。

海陽学園は生徒会長が他の役員を選ぶというから、生徒会役員が素晴らしいということは、すなわち錆兎の人選が素晴らしいということだと思うと、ついつい笑みがこぼれた。

互いに満面の笑みで話す、名門進学校の生徒会バージョンの制服を着た男子高校生と名門お嬢様学校の制服を着た女子高生。

しかもどちらも驚くほど整った容姿をしているとなれば、電車内でもそれとわかるほどに人目をひいている。

もちろん互いにのみ意識を向けている2人は気づくことはないが…


こうして目的の駅で降りると、2人はしっかりと手を繋いで宇髄オススメのブティックへ。

もちろんレディース。
義勇はまったく臆する事なく入っていくが、錆兎には敷居が高い。

しかし入り口で躊躇する錆兎のジレの裾をきゅっとつかみ

──錆兎が…選んでくれる服が着たいって言った
と、ぷくりと頬をふくらませる義勇に陥落。

中に入って女性店員に囲まれた時には羞恥で死ぬかと思った。


しかも
「これ…店員のセンスで選んでもらったほうが良くないか?」
と、逃げ腰になるたび、店員にまで
「彼氏さんに選んで欲しいですよねぇ」
と義勇と一緒ににこやかに言われてしまう。

こうしてああでもないこうでもないとあれこれ悩んで色々着てみて、結局ミスコン用にはシンプルな白いブラウスと紺の長めのフレアスカート、それにカーディガンを買って、何故か店員に強固に勧められてざっくりとした大きめのセーターとショーパンまで買ってしまった。

しかし、買ったと言ってもお支払いは宇髄らしい。
なんと店員は宇髄の彼女の一人だったと、支払いをしようとした時に知った。

最初の時点で言ってくれ~!!と声を大にして叫びたかったが、おそらくそれも面白がりの宇髄の指示なのだろうからと、ぐっと飲み込む。


もう一着買わせたのは、
──女性らしい立ち振舞いを勉強するために、当日まで少し街で出歩いてみると良いですよ?
…という理由からだそうだ。

面白がっているのは確かだが、それでも宇髄も生徒会の体面というものは考えてくれてるのだろう。
本当に至れり尽くせりである。



さて、目的が済んだところでどうするか…となった時、義勇がキラキラした目で錆兎の腕を引っ張った。

「ん?」
「今、スタバで限定フレーバーが…」
と、言われて目の前のショップに目をやれば、季節限定もののフラペチーノがブラックとレッドの2種類。

「これ…飲んでみたかったんだ」
と嬉しそうに言われたら、もう素通りという選択肢はない。

自分は本当に義勇に甘い…と思いつつも、錆兎は当然のようにスタバに寄って、ブラックとレッドの2種類のフラペチーノを買うと、適当な席についた。



「で?どっちを飲む?」
と両方の乗ったトレイを前に聞けば、

「レッドがいい」
と、義勇がベリー系のフラペチーノに手を伸ばすので、錆兎は残ったブラックのカップを手にとった。

濃い茶色のフラペチーノの上にたっぷり乗った生クリーム。
甘そうだなと思ったが、フラペチーノ自体は思ったよりも甘くない。

そんな感想を抱きつつフラペチーノを啜っている錆兎の横で、

──あっまっ!!!
と、珍しく若干声の大きくなる義勇。

「どれ?」
と、錆兎は、口を押さえる義勇に自分のブラックを差し出すと、義勇の手のレッドのカップを取り上げて一口。

確かに色合い的には酸味が強いのかと思っていたが、思い切りバニラな甘さが口に広がる。

「義勇、お前、甘いの苦手だったか?」
なら、何故生クリームいっぱいのフラペチーノなど飲もうと思うのか?と半ば呆れつつ聞くと、義勇は

「嫌いじゃない…けど、これはあまりに甘いよ。
色が色だからもう少し酸味があると思ってた」
と、言いつつブラックを一口。

「あ、これはあまり甘くないんだ」
と目をぱちくり。

そんな様子も可愛らしいなと思いつつ、錆兎は
「そうだな。なんなら取り替えるか?」
と、聞いてやる。

すると義勇の目が今度こそまんまるになった。

「え?良いの?錆兎、甘いもの苦手じゃない?」
と、驚いたように聞くので、錆兎は今度はレッドの方を啜りながら

「ん。別に嫌いじゃないぞ。
男としては気恥ずかしいから、外ではあまり食わないがな。
勉強とか、何か考え事をしたりとかで頭を使うと無性に甘いものが欲しくなるから、部屋では金平糖を齧ったりしてるくらいだ」
と微笑む。


え?え?え?…錆兎カッコいい!!

どうも義勇は驚くとその言葉しか出てこない。

でもカッコいい錆兎が金平糖を齧ってる図とかカッコよくないか?と、もうお前は錆兎が何かしていれば何でもカッコいいと思うのか?と言いたくなるような事を思ってしまう。

かろうじて…それを口に出すのはこらえたのだが…代わりに出た言葉は

「じゃあっ、じゃあ、俺がこういう格好してたら、一緒にカフェとか行ってくれる?!
蔦子姉さんが居た頃は2人で行って色々頼んで半分ずつとかしてたんだけど、一人だと食べきれなくて…」
で、今度は錆兎の方が目をパチクリさせることとなった。

「義勇…お前、それで良いのか?」
「え?何が?」
そんなことのために女装とか……
「あ~…うん、蔦子姉さんが居た頃はよくさせられてたから別に?
いつも服とか蔦子姉さんが選んで着せてくれてたから、実は自分ではあまりこだわりはないんだ」

パンツの時もスカートの時もあったし…と、続くその言葉に、錆兎は義勇のそのあまりの無頓着さにため息をついた。

まあそれでも…蔦子さん、グッジョブ!と思ってしまうのは、悲しい青少年の性として許して欲しい。


こうして二人してスタバを堪能したあとは、ちょうど良い時間になっていたので昼食を摂り、本屋や雑貨屋を覗いて色違いでおそろいのマグやエプロンを買ったりして、なんのかんので夕方までまるで本当のデートのような時間を楽しんで、寮に帰った。



Before <<<    >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿