「はあ?生徒会はクラブ活動じゃないだろ?」
都内屈指の名門進学校、海陽学園。
そんなT大進学率日本一を誇る名門高校の中でもさらにエリートの集まりと言われる生徒会。
そのトップに君臨するのが鱗滝錆兎17歳だ。
この時期だけ形成される学園祭執行部の資料を片手に、錆兎は呆れた声をあげた。
そこにはまあエリートといえども男だけの悲しい世界の学園祭で一番人気を誇る毎年恒例のイベント、ミス海陽コンテストの詳細が書かれている。
男子高なので女生徒などいないこの学園でのミスコン。
時代錯誤なことに ──そう、創設以来の悪習といわれている── 男女七歳にて席を同じうせずとか、学問の妨げになるとか言う理由で、構内は女人禁制。
これが学祭の時すら続くため、当然候補者は正確には“ミス”ではない。
“ミスもどき”な男だ。
誰がそんなむさ苦しいモノを見たいのだと言う事なかれ。
ほぼ強制的に参加者を捜させるために各部対抗になっていて、優勝者を連れて来た部にはもれなくその年の部費倍増の特典がついているため、各部が必死だ。
それゆえ、そんじょそこらの美少女にも遜色ない美女…もとい男の娘が集うことになるのだ。
進学校なので行事はなるべく受験に影響が出ないように早め早めに…ということで、学園祭は9月の終わり。
各部活はたいてい10月に新旧交代というのもあって、部の活動以外ではこれが各部長の最後の腕の見せ所だ。
そういう中で全ての部が強制参加…なのは良いとして、その参加団体に何故か生徒会が名をつらねている。
生徒会は委員会なのだから、当然部費なんてものも存在しない。何故??
…というわけで冒頭の台詞になったわけで…。
「去年まで…全く見てなかったんだな…」
2年の生徒会会計の村田がため息をついた。
それに対して、
「この男がミスコン必死にチェックしてる図なんて想像できるか?村田」
と、宇髄天元が机に肘をついたままにやにやと笑う。
この学校では絶対者であるはずの生徒会長にこんな口を聞けるのは、校内広しと言えどもこの男くらいだ。
家庭の事情というやつで休学したために1年年上というのもあるが、それを言えば3年生とて歳上なので、単にこの男の豪胆な性格と、こだわらない錆兎の度量のなせるわざといったところだろうか…。
ともあれ、今年も生徒会長様はお忙しい。
「あ~、もう前置きはいい、説明してくれ」
瑣末な事はどうでもいいというように錆兎が言うと、村田が
「えと…な、原則的に参加は同好会などをのぞく、部活動として正式認定をされているクラブなんだけど、生徒会だけは別なんだ。なんていうか…生徒代表というか…」
と、説明を始める。
「それで去年は宇髄が生徒会代表として代理参加者を連れてきたけど、生徒会の人間を出さなかった上に優勝をテニス部に持っていかれた事に、歴代の生徒会のOBの方々が酷くご立腹で、今年は絶対に生徒会役員で優勝を勝ち取れと厳命が下ってるんだよ」
「くだらない…」
気難しい顔の村田の言葉に、錆兎はそう深々とため息をつく。
「まあそうなんだけどな…先輩方の言う事は絶対だから。下手すれば今年の卒業生達の将来に左右するし…」
「卒業後も関係が密というのは良いこともあるけど、面倒だな」
そう…実に面倒なわけだが…各界の有力者揃いの海陽生徒会OBの言う事は絶対だ。
新卒の採用などさじ加減一つで当落させられる彼らを下手に怒らせると、本当に今年の卒業生が大学卒業後に大量に就職浪人しかねない。
しかたない…。
「で?誰が出るって?」
副会長は3人。
全員2年の宇髄と煉獄と不死川。
顔立ちは確かに美形だが上背もあり体型が筋肉だるまと言われるほどに筋肉隆々な宇髄の女装はちと頂けない気がするし、煉獄は顔立ちは整っているほうだとは思うが、いわゆる男顔だ。
家庭の都合とやらで来週まで休みで今はいない不死川も論外。
女装しろなどと言われたら生徒会室を破壊しかねないし、顔は元は綺麗な顔立ちはしていたのかもしれないが、事故で顔も含めて身体中に傷跡があり、それを全部化粧で隠すというのは難しい上、こちらもでかくがっちり男体型である。
会長の錆兎とて、顔も男顔なら体格も宇髄にはとても及ばないがそれなりにでかく筋肉質。
書記は親の都合で海外に転校していったので現在空席で、あとは会計の村田。
「…地味…だよなぁ」
と、3人で村田に視線を向けて、最終的に宇髄がそう言うと、3人で肩を落とす。
「な、なんだよっ!!どうせ俺はモブ顔だよっ!!
イケメン生徒会のモブ担当だよっ!!」
と、言う村田に、
「お前の正確で緻密な会計能力は、十分一般のレベルを超えて貢献してもらっていて、本当にありがたいと思っている」
と、錆兎が言うが、それに宇髄がまた
「モブ顔は否定できねえよな」
と、突っ込むので、容赦なく錆兎のケリが飛ぶ。
「これは…もうミスコン用に人材いれるしかないのではないか?
生徒の将来を守るためには、やむを得ん。
ちょうど書記の空きもある」
と、そこでやはり顎に手をあてて考え込んでいた煉獄が顔を上げて言った。
海陽学園では生徒会長が絶対的な権力を持っている。
だから基本的にはまず生徒会長が選ばれて、生徒会長の方で入れたい人員がいればいれ、いなければ最低各役職一人ずつは埋まるように選挙…というのが海陽式だ。
だから入れようと思えば入れられる。
特に錆兎は生徒会の役員は少数精鋭で、足りない部分は一般の生徒から手伝いを駆り出すという形を取っていたので、枠は十分にある。
…というか、煉獄の言う通り、どちらにしても一学期末を最後に抜けた書記を補充しなければならない。
「ん…別に書記は一人考えてるから…書記じゃなくても良いんだが…」
と、そう言う錆兎の口元に無意識に笑みが浮かぶのを見て、宇髄が察したのかにやりと笑った。
そして
「会長様、職権乱用かぁ?」
とからかうような口調で言うが、錆兎はそれに心外!と言う顔をする。
「職権乱用とは聞き捨てならんな。
うちの学校のOBの面々は手紙は手書きで出せという人が多いからな。
義勇は字がすごくキレイなんだ」
「ほぉ~義勇ちゃんねぇ。
浮いた話1つなかった生徒会長様が、わざわざもう1週間も自宅通いしてるほど入れ込んでるってことは、美人かね?」
「…否定はせんが、義勇をミスコンにということなら却下だ」
「なんで?」
「…これ以上義勇に不埒な思いを抱く輩を増やしたくない」
「へ???」
「今義勇を一人にしないのは、一人にしておくとそういう輩が出没するからだ。
家に居れば変態電話が来るし、電車に乗れば痴漢に遭うし、街中を歩けば誘拐される」
「え?なに?なんなのそれ??こわっっ!!!!」
と、そこで村田が目を丸くする。
「…そのレベルで愛らしいということだな」
と、それに錆兎は少し自慢気に笑った。
「おいおい、生徒会長様。
それならなおさら出さねえとだろ。
つか、入学は本決まり?
試験は始業式の翌日に受けたんだよな?」
「ああ。その翌日には合格が出たから、そこから入学や入寮手続きをして、制服を用意した。
で、もう荷物は俺の部屋に運び込んであるし今日寮に引っ越して明日から登校。
というわけで、今日は俺は帰らせてもらう。
義勇を迎えに行って、一緒に寮に帰るから…」
「ほぉ。生徒会長の推薦枠制度を使っていたのは聞いていたが、試験受けて1週間後の今日には全部手続きを終えて入寮とは対応が早いな。
荷解きなどあるなら、手伝うか?」
と、そこで煉獄が申し出てくれるが、錆兎は礼を言いつつもゆるゆると首を振った。
「いや、ありがたいがたいして荷物もないんで大丈夫だ。
早かったのは、まああれだ。寮に関しては俺の同室だから」
「ああ、なるほどな」
と、その答えに煉獄も納得。
寮は基本的には二人部屋だが、生徒会役員はその二人部屋を一人で使わせてもらえる。
任期は5月から翌5月だが、一度なってしまえば3年の5月に引退後も部屋はたいていそのままだ。
もちろん一人でなければいけないということもないので他にルームメイトを作るのは構わないのだが、そうやって同室者を作るやつはあまりいない。
だから、
「ずいぶん入れ込んでるねぇ」
と、宇髄がぴゅぅっと口笛を吹いて茶化すが、それに焦りも怒りもせずに
「義勇は俺が守ってやらねばならないからな」
と、堂々とこたえる錆兎に、
「あっぱれ、さすが錆兎。宇髄の負けだな」
と、煉獄が笑った。
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