ロマーノはがちがちと歯を鳴らしながらつぶやいた。
北の地方の気温は暖かい地方に育った人間にはつらいらしい。
フェリシアーノもハグ~ハグ~と言いながらルートヴィヒのマントの中に潜り込んでいる。
それをうらやましげに眺めるギルベルト。
「アルトは?寒くねえのか?」
と腕を広げるが、
「ローブは防寒効果もあるから」
とあっさり拒否られて肩を落とす。
「これ…普通の寒さじゃないな…魔道の匂いがする…」
と、そんなギルベルトに構わず、城…と呼んでも差し支えない大きさの大邸宅を見上げるアーサーに
「よくわかったな。
ここらへん一帯は何百年も前に常冬の魔法をかけられた土地なんだ。
だからずっと寒いし夏も来ない。
日が射す時間も短いし、植物もあまり育たないんだ。
私達が生まれるずっと前の事だし、私達が何かしたわけでは当然ないんだが、兄さんが優れた呪術師なせいか兄さんのせいにされている。
だから誰もここを訪れないし、お前達が久々の客だ」
とナターリヤが淡々と説明した。
「あ~魔術師ってそういうとこあるよなぁ…俺の実家も魔術師一族だからわかる。
何をしなくても“普通じゃない”ってことで怖がられるんだよな…」
小さくうつむくアーサーに
「…そうだな…」
と同意するナターリヤ。
「逆に…魔術師だとなんでもできるとか誤解される事も多いしな」
「そうなのか…私達は恐れられて避けられているからわからんが…」
「あ~でもある意味宝玉もそうじゃね?」
ぽつりぽつりと会話を交わしているアーサーとナターリヤの間にギルベルトが割り込んできた。
「俺様あれから調べたんだけどよ…宝玉が東の島を平和にしたってアレな、要は宝玉の力で土が肥えるような自然バランスにしたって事らしいぜ。
で、必要な実りが手に入るから一時的に争いはなくなった。
でも人間てのは強欲な生き物だからな、だんだん日々飢えないだけじゃ足りなくなってきて、それ以上の何かを求め始めたって事だ。
俺様に言わせればよ、宝玉の力で少しくらい必要なモン手に入れるのが一時的に楽になったって、どうせ人間なんてそれじゃ足りなくなるし、安易に手にいれた力は安易に特別感なくすからな。
チートしねえで、ちゃんと土の性質調べて改良して、植物の品種研究したりしてよ、一つ一つ積み上げていった上で手に入れたモンの方が価値あるし、大事にできると思うぜ」
「あんた…たまには良い事言うわね」
そこでそうエリザが突っ込みをいれるのはお約束だ。
「でもさ、便利な力あるとやっぱり欲しくなるのもホントだよね?」
そこでお気楽なチャチャを入れるのはフェリシアーノ。
「でもなぁ…そのために殺されたり、大事なモン奪われたりしている奴らがいるんだぜ?
手に入れたいって思う人間がってことなら良いけどな、全然望んでねえのに巻き込まれてる奴も少なくないだろ」
「王の父親とかな。
あとは亡くなったアル達のマスターも家族と引き離されて大陸に送られたんだよな?確か」
「それ言ったらアルト、お前もじゃん」
「あ~でも俺は半分自分で来てる部分あるから…」
「でも来なきゃいけない状態に置かれたのって宝玉のせいだよね?確かに」
「他にも宝玉の犠牲者ってたくさんいそうだよなぁ」
一同なんとなくため息。
「そんな悪いものだったんならいっそのこと捨てちゃえばいいんだぞ!」
暗~い空気が漂う中、一人良い事を思いついたとばかりにアルが言った。
「こんなん捨ててもまた誰ぞ拾いにいくだろ」
と、突っ込みをいれるギルベルト。
「じゃあ兄さんにくれればいい」
というナターリヤの言葉には
「なんの目的に使うのかわからねえのに気軽にやれねえよ」
と同じく突っ込みを入れる。
「とりあえずじゃあ兄さんに聞いてみよう」
ナターリヤはそう言って館のドアを開けて中へと入っていき、一行もそれに続いた。
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