戦闘は始まったばかりなのに突然アルが宣言した。
ピタっと動きを止めるギルベルトを放置でアルはナターリヤに走り寄る。
「何をしてるんだ?お前は」
わけがわからずそう言うナターリヤの目元にアルは途中で借りたナターリヤのハンカチを押しあてた。
「君が泣いてるのに、おっさんの相手なんかしてられないんだぞっ」
とアルに言われて、ナターリヤは初めて自分が泣いている事に気がついた。
「何を言って…」
「宝玉なんてもういいじゃないかっ。
君が泣いてまで手に入れなきゃいけないものじゃないんだぞ」
「そんなわけあるかっ。あれは兄さんが…」
「本当に必要なのかわからないじゃないかっ」
アルの言葉に目を見開くナターリヤ。
「何に使いたいのかわからないんだろう?
だったら宝玉じゃなきゃいけないのかわかんないんだぞ。
もしかしたら君の魔力でなんとかできるものかもしれないじゃないか」
「無理だ…」
「なんでさ?」
「私はいつも何もできない…。
気が利かなくて空気も読めなくて、姉さんみたいに兄さんを喜ばせる事ができないんだ」
「そんな事できないでもいいんだぞっ!」
アルはニカっと笑みを浮かべた。
「ナターリヤは強くて凛々しくて一生懸命で…俺はそんな君が大好きなんだぞ!
君の兄さんだってきっとそうだっ」
「そんなことないっ!兄さんはいつだって…」
「そうじゃないなら兄さんの気持ちの方を変えさせればいいんだっ。
君が変わる事ない!」
自信満々に主張するアルにナターリヤはぽか~んと呆けた。
「ナターリヤ、良い事教えてあげるよっ。
空気なんて読むもんじゃないっ。あれは破って壊して作るもんなんだぞっ!」
「お前…めちゃくちゃな奴だな」
えへんというように胸を張って主張するアルに、ナターリヤはつぶやいた。
「そうさ、ヒーローはいつだってめちゃくちゃで…無理無茶無鉄砲を地でいくものなんだ!」
「いや…それは困るだろう…」
「だからさ、そんなヒーローには君みたいに強くてしっかり者のヒロインがいつも側にいてくれるもんなんだっ。
だから君は兄さんの願いを聞いてあげるくらいはいいけど、兄さんより俺と一緒にいるべきなんだぞ!」
「…うわぁ…いきなり、めちゃくちゃ口説いてんぞ」
「ヴェー、ナタちゃんもちょっと紅くなってるね、可愛い~♪」
「で?結局どうなったのだ?」
「まあもうちょっと待ってやれ、ルッツ。」
思い切り蚊帳の外に追い出された面々は仕方なしにその場で全員体育座りで待つ。
待つ…待つ…待つ…
「わかった!とりあえず兄さんの所へ行くぞ。それで理由を聞いて来よう」
結論が出たらしい。
は~っと立ち上がる一同。
「じゃ、そういうことで俺ら帰るわ」
「何を言ってるんだい?君たちも来るんだ。反対意見は認めないぞっ!」
ヒラヒラと手を振って宿屋へ足を向けようとするギルベルトの首根っこをアルは怪力でつかんでひきずる。
「なんで俺らまで?一応勝ったんだからもう関わらねえ約束じゃないか」
「うん。俺はもうアルトゥールの事諦めてあげるぞっ。
ナターリヤも自分が宝玉奪うのは諦めるっ。
だけどナターリヤの兄さんに会わせる事をしないとは言ってないんだぞ!」
うわぁ…とフェリシアーノが苦笑いをこぼす。
「それ詭弁じゃね?お前誠意とかいう言葉ないのか?」
笑顔でムッとするギルベルト。
「俺のアルトゥールを横取りした男に対する誠意なんかないぞっ」
とこちらも笑顔のアル。
双方笑顔で冷戦状態に入りかけたその時、タタっと長い髪をなびかせて駆け寄ってきたナターリヤがギルベルトの腕をつかんだ。
「お前の言うとおりだ。でもすまない。兄さんと話しあってくれ。
お前たちにとっても利はあると思う。兄さんは土の石を持っている」
「なんだ、マジか?それ早く言ってくれ」
ギルベルトはそう答えて、フェリちゃん、頼むわと、フェリシアーノをうながす。
「うん、わかったよ。じゃあナタちゃんついて行くから案内して?」
と、フェリシアーノはルートヴィヒに預けていた薄い布地を広げた。
「わかった。ついてこい」
とナターリヤは箒に横座りに座り、アルもその後ろにまたがった。
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