その目からは涙がこぼれおちているのに、表情も物腰も凛としていて、それがとても綺麗だとアルは思った。
「俺のせいだ…とか責めないのかい?」
森の外に出てからアルは色々な人と出会って色々の話を聞いた。
そして…大概の人間は都合の悪い事は他人のせいにするものだと知った。
今回、自分が水の石を内包したままだったなら、きっとナターリヤは“兄さん”に褒めてもらえたのだろう。
だからてっきりお前のせいだと、そんな言葉が飛んでくるモノだと思って覚悟していたのだが、ナターリヤはやっぱり涙をこぼしてはいるのに淡々と言いきった。
「私の見通しの甘さだ。
お前を責めて兄さんが笑ってくれるなら責めてやってもいいが、そうじゃないなら意味がない」
そしてグイッと腕で涙を拭くと、キっと顔を上げる。
「行くぞ!」
唐突にナターリヤは宣言した。
「どこにだい?」
と当然のようにアルは聞く。
「イーストタウンだ。石を奪いに行く」
「…なんでそれを俺に言うんだい?」
「お前も来るんだ。当然だろう?
お前は今私の魔力で命をつないでいるんだ。
数キロ単位ならともかく、100キロ単位で離れたら死ぬぞ」
「ええ?!そうなのかい?!」
それは初耳だ、と焦るアルに、ナターリヤは呆れた目を向けた。
「お前は…私と兄さんの会話を聞いてなかったのか?」
「だってそんな事言ってなかったんだぞっ」
「私の魔力で崩壊防いでいると言っただろうがっ」
「あ~そんな事言ってた気もしたぞ」
そこでようやく理解したアルを、ナターリヤは冷ややかな視線で見る。
「わかったら行くぞ。姉さんに先を越されたくない」
「あの人…先越す気はないと思うぞ」
どう考えてもそんな気はないというか…何も考えてない気がする。
「…何も考えてないのに…魔力もないのに…あの人は兄さんの望む事をできるんだ」
アルのそんな気持ちを読んだのか、ナターリヤはそう言って長いまつげを伏せた。
「魔力だけは高いのに何一つ兄さんの望みを叶えてあげられない私とは違う…」
ナターリヤはバン!と窓を開け放し、箒に横座りする。
「何をしている?お前も乗れ」
言われてアルも慌てて箒にまたがった。
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