続聖夜の贈り物_11章2

「イヴァンちゃん、あのね、お姉ちゃん良い事きいちゃったの」
ドイ~ンと驚くくらい大きな胸を揺らしながら入って来た女性に、イヴァンが表情を緩めた。


「姉さん、帰ってきてくれたの?」
ナターリヤに対するのとはまるで違う、少し甘えたような口調のイヴァンに、女性はぶんぶん首を横に振った。

「ううん♪お姉ちゃんまたお友達の所に帰るよ」
との声に目に見えてがっかりするイヴァン。

しかしアルはそれを見て隣で表情をなくしていくナターリヤの方が気になって、ギュッと固く握りしめている彼女の拳をほぐすように、ゆっくり指を開かせて、手を握る。

その動作にナターリヤは不思議そうに首を傾けていたが、やがて手を握られたあたりで、ブン!とその手を振り払ってぷいっとそっぽをむいた。

振り払われた事がショックじゃなかったと言えば嘘になるが、彼女の真っ白な顔がほのかにピンク色に染まっている事に気づいて、ああ、可愛いなぁと、アルは笑みをもらした。

そんなやりとりを交わしている間にもお姉ちゃんと自称する女性の話は続いて行く。

「お姉ちゃんね、今イーストタウンで宿屋やってるお友達の所にいるんだけど、そこでね、わかった話なんだけど、イヴァンちゃん、カトル・ヴィジュー・サクレって言う石の欠片集めたいって言ってたじゃない?
で、イヴァンちゃんが持っている石以外の3つの石持ってる人達がそこに泊まってるの。
あとなんだっけ?えらばれたもの?えらばれるもの?」

「“選ばれし者”だよ、姉さん」
そこでイヴァンが口をはさむ。

「ああ、そう、それ!その子がね、やっぱり泊まってるの!」
「ホントに?!!」
身を乗り出すイヴァン。

「うん。それでね、その子達すっごく可愛い子でね、お姉ちゃん達、その子達の絡みを観察してマンガ描いて売ってるの♪お友達と一緒に何かやるのって楽しいよね~。お姉ちゃん達の描いた漫画ねぇ、街の女の子達には人気あるんだよ~。アーサーちゃんもフェリちゃんもホント可愛くてねぇ…」
脱線する女性にため息をつくイヴァン。

「姉さん…お願いだよ、情報くれるのは嬉しいけど、そのお友達とは手を切って帰ってきて。…元の姉さんに戻ってよ…。」

「え~ダメだよぉ。お姉ちゃんね、人気作家さんなんだよぉ~。ファンの皆さんの期待裏切れないもん。お家にいた時からは考えられないほどたくさんのお友達が出来て毎日楽しいよぉ~」
どぃ~んと胸を揺らしてはしゃぐ女性。
イヴァンのため息は深くなる。

「まあ…いいや。で?その石の持ち主に弟だって紹介してもらえるの?」
イヴァンの問いに女性は思い切り首を横に振った。
「無理っ。お姉ちゃん達だってそれとわからないようにコッソリ観察してるんだからっ。
今日はね、単にイヴァンちゃんに石持ってる人がいたよ~って教えに来ただけなのっ。
じゃ、お姉ちゃん原稿の締め切りがあるから帰るね~♪」

ぶんぶんと手を振って女性は帰って行く。
嵐が通った後のような空気だ。

ぽか~んと女性を見送って、イヴァンはハ~っと大きく肩を落とした。

そしてそこで初めて気づいたように
「ああ、まだいたの?帰って良いよ」
とナターリヤに声をかける。

「兄さん…私…」
「帰って良いって言ったよ?」
ナターリヤの言葉を笑顔で遮るイヴァン。

それでもナターリヤは何か言いたげに何回か口を開きかけたが、結局うつむいて
「はい…兄さん」
と答えると、そのまま大人しく部屋を出た。
アルもそのあとを追う。



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