とある白姫の誕生秘話15_ナイト三大勢力

ミアは完璧に演じられているお姫様だった。

いつでもニコニコ。
誰にでも優しい言葉。
相手に負担をかけすぎない絶妙な頼り方。

絶妙な理性と努力の結果の姫らしい。


人によってはそれを裏表があると敬遠するのかもしれないが、義勇はむしろ自然に与えられたものではなく自身の努力でその座をキープし続けていると知って、余計に彼女に対する好意の念を持った。
大変素晴らしいと思う。

一過性の若さや可愛らしさを消費して甘やかされるのはたやすいかもしれないが、ここまでトップにのぼりつめて、それを長期間キープするとなると、やはり努力なのだ、と、わかった事は大いなる収穫だと思う。


人はただやみくもに努力するだけでは上にはあがれない。
常に周りを見て、譲れる範囲の事ならば周りの要望も汲んで行動した方が、よりよい成果を得られるものなのだ…と、思って折りに触れて彼女に付いて学ぼうと決意した。

ネットでくらい楽に構われたい…そんな動機で始めたはずだったのだが、いつのまにか努力して学んで…という方向に思い切り急カーブを切っていることに当然気づかぬ義勇である。



そんな風に日々ウィスでお姫様とのトークを楽しんでいたある日…ミアから珍しく

──ユウちゃん、今日すこし時間取れる?
と、ウィス以外のお誘いがあった。

──ええ、なんでしょう?

とりあえず今はミアを見ているのが面白い。
レベル上げに関しては用事がある時は固定の他の2人に言えば、クエストなり金策なりしておいてくれるので、問題なしだ。

なので二つ返事で答えると、ミアからは

──私のナイト三大勢力と会わせておきたいかなぁって思って
と、なんとも面白そうなお誘い。

ナイト三大勢力については彼女から聞いて知っている。
彼女いわく、今彼女の取り巻きの中で一番彼女の側にいる3人。

ナイト三大勢力と言っても、1人シーフが混じってはいるのだが…まあ、お姫様を守るナイトという意味なのだろう。

噂の3人と会える。
それだけでテンションがあがる。

──今日中に3人ともに?

てっきり順番に会うのかと思っていたら、なんと

──ううん。3人一緒にっ!
と言うではないか。

──え?ええ??ギスギスしないんです??
と驚いてさらに聞くと、

──ふふっ。ミアのお友達が一緒というあたりで、どうなるかなぁと♪
と、どうやらその水面下の火花を楽しむ催しらしい。

うわあ…とは思うモノの、そういう場面の男が取る態度というものには、少し興味がある。
リアルだとまず見る事が出来ない光景だ。
後学のためにもこれを断る理由はない。

誘いに快諾をして、それをウサとノアノアに伝えると、ノアノアは

『そいつは良い経験だなっ。いってこいっ!』
とにこやかに応じてくれたが、ウサは無言だ。

『ウサさん?』
と、問いかけると、
『…それ…大丈夫なのか?』
と、返ってくる。

『え?』
きょとんとするユウに、ウサが言う。

『最近、ミアと仲が良いようだが、ケイトの二の舞にならないかというのが一点。
あと、そのナイト三大勢力?がお姫さんの粘着になったりしないのかというのが一点。
最後にミアと仲良くしすぎて、そいつらに嫉妬されないかというのが一点。
以上3点が気になるんだが……』

言われて、おお~!と思う。
ウサは本当に細やかだ。
まあ…それだけ粘着系ではお世話になったからというのはあるのだが…

しかしその心配はないと思う。

『えっと…ミアさんは本当にお姫様で男性キャラにしか興味がなくて、私と一緒にいるのは逆にそういう心配が一切ない相手で、恋バナとか色々女の子がするような話?をしたいだけだということなので…。
実際、私はほぼ彼女の周りの男性陣のお話とかの聞き役なので、ケイトさんの時みたいな事はないと思います。
あと2番目に関しては、ミアさんを日々見ている方々が私ごときに興味をもたれる事はまずありません。
3番目は…ん~~……』

つらつらと並べるユウに、ウサが大きくため息をつく。

『お姫さん…自分がどれだけ周りから可愛いって思われるか分かってないだろう。
本当に“ごとき”って奴なら、あんなに粘着現れないからな?』

『でも……』
『…………』
『万が一があったら、いつもウサさんがなんとかしてくれるかな?って』

えへへっと笑うと、ウサは無言。

そんなやりとりをしているうちにノアノアがミアに連絡を取ってくれたらしい。
そして、伝言を伝える。

『ミアから──それならユウちゃんのナイト様もご一緒にいかがですか?ちょうど6人パーティになれますし♪──と言うことだけど、どうするよ?』

うあ~うあ~うあ~~!!!

ナイト三大勢力とか他人ごとなら面白いが、自分のナイトと言われると非常に照れる。
…が、確かに知らない相手と会うのにウサが一緒なら安心な気がする。

『…えっと…ウサさん、…だめ…ですか?』
と聞いてみれば、ウサはやれやれと言った風に

『お姫さんの安全にかかわるのにダメとは言えないだろう?わかった。俺も同行する』
と、それでもその旨を了承する。

こうしていざナイト三大勢力とご対面をするため、ユウはウサと一緒にミアとの待ち合わせ場所へと足を運んだのだった。





──ナイト三大勢力に会いに行くんです~♪

…と、ユウ言った。…それはそれは楽しそうに…。


最近錆兎のお姫様はノアノアが紹介した姫キャラがお気に入りらしい。
ユウとの会話には毎日と言って良いほど彼女の名前が出てくるようになった。

元々はユウにちょっかいをかけて来そうな雰囲気の髭のナイトに現在進行形で粘着されている相手と言う事で、彼が粘着気質だと言う事に危機感を持たないユウに危機感を持ってもらおうと経験談を聞かせるために紹介して貰った相手だが、ミイラ取りが…というのとは若干違うが、そんな感じで今度はその姫キャラにユウを取られつつある。

少なくとも聞いている分にはケイトの時とは違って、多くはなったとは言ってもまだまだ少ない女の子のプレイヤー同士のおしゃべりが楽しいのだろうという感じではある。

それまで若干危なっかしいものの丁寧でそう高めではなかったユウのテンションが、彼女との付き合いが始まってから上がった気がする。

まあ、それはそれで愛らしいので良いのだが……

口を開けば
「ミアさんがっ…」
「ミアさんのっ…」
「なんとミアさんはっ…」
と言うのが、少しさびしいというか……ああ、もうはっきり言ってしまおう。
自分はその姫キャラに嫉妬している。


たぶんその姫キャラは今までのユウの粘着とかとは違う。
わかっている。
いわゆる仲良し、親友とかそういう類のモノだ。
それにやきもちを焼くなんて馬鹿げている。

そうは思いつつもモヤモヤしたものを抱えていたところに、冒頭のユウの発言だった。


ナイト三大勢力と言うのは例の姫キャラの一番有力な取り巻きのことだ。
あまりに毎日毎日ユウから聞かされて、錆兎すらそれを知っている。

それぞれ姫キャラをめぐって争っている3人を一堂に会しようと言うのだから、錆兎からすれば悪趣味な催しだ。

それでも噂の3人に会えるということで、ユウはすでに同行を了承してきて、今日はレベル上げに行けないからということで、ウサとノアノアに報告をしてきた。

…ということで、今ここ、となっている。

レベル上げは3人とも予定がない時は毎日行っているが、誰かが予定がある時は他の2人はクエストなり金策なりをしているのが常なので問題はない。
行けない日はむしろヘルプを頼まれる事の多いノアノアの方がよくある。

だからそれはいい。

ユウからの報告を受けて、ノアノアは紹介者でもあるので全く気にすることなく
『そいつは良い経験だなっ。いってこいっ!』
とにこやかに応じるが、錆兎はなんと答えて良いか言葉に悩む。

いや、ダメという権利はない。
…ないのだが……

色々がくるくる回る。
出来れば行かせたくない。
それは何故だ?
2人きりではないのだから、別にそういう意味では問題はないだろう。
というか、そういう意味だとしても、自分に止める権利はない。

しかし…と、考え込んでいると
『ウサさん?』
と、ユウの少し気遣わしげな問いかけ。
そこでハッとする。

そしてとりあえず自分自身の感情はおいておいて、起こりうる可能性のある心配事を列挙する事にした。


『…それ…大丈夫なのか?』
と、ワン呼吸おいて、脳内で伝えるべき事を整理する。

『え?』
きょとんとするユウは可愛い。
ああ、もう何をしていても可愛いのだが…それはおいておいて…

『最近、ミアと仲が良いようだが、ケイトの二の舞にならないかというのが一点。
あと、そのナイト三大勢力?がお姫さんの粘着になったりしないのかというのが一点。
最後にミアと仲良くしすぎて、そいつらに嫉妬されないかというのが一点。
以上3点が気になるんだが……』

と、伝えると、おお~!と感心するユウの危機感のなさに力が抜ける。

『えっと…ミアさんは本当にお姫様で男性キャラにしか興味がなくて、私と一緒にいるのは逆にそういう心配が一切ない相手で、恋バナとか色々女の子がするような話?をしたいだけだということなので…。
実際、私はほぼ彼女の周りの男性陣のお話とかの聞き役なので、ケイトさんの時みたいな事はないと思います。
あと2番目に関しては、ミアさんを日々見ている方々が私ごときに興味をもたれる事はまずありません。
3番目は…ん~~……』

つらつらと並べるユウに、錆兎は大きくため息をつく。
本当にため息だ。

1番目はまあ錆兎自身も可能性は高くはないと思う。
でも2番目に関して言うなら、まずないと言いきるその根拠のない自信はどこから来る?と思う。
3番目に関しては、本人すら大丈夫だと言えないあり様だ。

『お姫さん…自分がどれだけ周りから可愛いって思われるか分かってねえだろ。
本当に“ごとき”って奴なら、あんなに粘着現れないからな?』

と、とりあえず特に2番目に関してさらに言及してみれば、

『でも……』
と言ったあとに一呼吸おいて言った言葉が

『万が一があったら、いつもウサさんがなんとかしてくれるかな?って

ゴン!!とリアルでデスクに頭をぶつけた。

なんなんだ、それは~~!!!!!

いつもいつも自分で出来る事は極力自分で。
甘やかしたがる周りの申し出もすべて断って、一生懸命自立を心掛けるくせに、俺だけは特別か?!!!

正直…ネット上で良かったと思う。
今絶対に自分の顔は真っ赤だと錆兎は自覚している。

しかもそんなやりとりをしているうちにノアノアがミアに連絡を取ってくれたらしい。
そして、伝言を伝えてくる。

『ミアから──それならユウちゃんのナイト様もご一緒にいかがですか?ちょうど6人パーティになれますし♪──と言うことだけど、どうするよ?』

うあ~うあ~うあ~~!!!
こいつ実は空気読んだ良い奴なんじゃないか?!
ちゃんとユウのナイトは誰だかわかってそれかっ!!

と、現金なもので錆兎のミアに対する認識は一気に好意的な方向に動いた。

『…えっと…ウサさん、…だめ…ですか?』
と、聞かれて否というわけがない。
とりあえず2番目の心配に関しては、自分が側に居れば睨みを利かせる事でさけられる。

というわけで、
『お姫さんの安全にかかわるのにダメとは言えないだろう?わかった。俺も同行する』
とその旨を了承。

錆兎もユウと共にナイト三大勢力とやらを見物に行くことになった。





『皆さん、こちら私のお友達のユウちゃんと、そのナイト様のウサさんです

ウサとユウが待ち合わせ場所の洞窟についた時にはすでに緊迫した空気が流れていた。

ピリピリとした空気の中、にこにこと佇むミア。
このギスギスした空気に全く動じないのはすごいと錆兎ですら思う。

ユウはすでに空気に怯えてウサの後ろに隠れている。
そんな中での
『ユウちゃんは私の大切なお友達なので仲良くして下さいね』
と言うにこやかなミアの宣言に、シンとして張りつめていた空気がこちらに向けて動き出した。

おそらく警戒されているのだろう。
裏に敵意のようなものを含んだ尖った視線を浴びて言葉のないユウの代わりに

『最近、ミアが粘着されているストーカーがうちのお姫さんに近づいててな。
その相談がきっかけでうちのお姫さんが親しくさせてもらうようになったらしい。
まあ俺はうちのお姫さんの附属品だと思ってくれて構わないので、よろしく頼む』

と、ウサが笑みを浮かべて言うと、空気が少し揺らいだ。


『あ~!ユウちゃんて、この前ミアのクラス装備取りに来てたよねっ!
あの時、一部で可愛いって騒いでた人達いたけど、そっか~、ちゃんとナイトがいたんだね。
あ、俺はキロ!
メインはご覧の通りシーフなんで、ナイトの先輩達と違って守ったりはできないんだけどね。
そういう相談なら俺も乗るよ?女の子は怖いよね、ストーカーとかって』
と、シーフらしく軽やかに駆け寄って来て握手を求める。

それにオズオズと応じるユウ。

(…俺のユウに……こいつ……)
と、その手を凝視する錆兎。

だが、キロは今度は
『ナイトさんもよろしくっ!
俺、イベント系ギルドも主催してるから、ギルド外の人も大歓迎だし、良ければ声かけるからお姫様と一緒にどうかな?
2人同じパーティに入れるようにするからさっ。
あとお姫様との話とか色々聞きたいなっ!ミアとの後学のために
と、錆兎にも笑顔で握手を求めた。

単に元々フレンドリーなプレイヤーらしい。
そしてイベントギルドの主催をしていると言うだけあって、頭の回転も速そうだ。

ミアにとってユウが同性の友達という扱いなのをいち早く見抜き、それを味方につけるべく、しかし警戒をされないようにと直接ではなくその護衛役の自分にまず誘いをかけるあたりが、非常に賢いと思う。

『キロは色々顔が広いんですよ。
キロのコミュニティにはミアもたまに参加させてもらうから、仲良しのユウちゃんと一緒できたら嬉しいです♪』
 と、その行動はおおいにミア姫のお気に召したらしい。

それと同時にミアの中のユウの立ち位置はナイトではなく、飽くまで仲良しのお友達と言う事をミアがさらに重ねて言った事で、出遅れた事を悟ったのだろう。

次に動いたのはナイトの1人だ。

『粘着と言うのはもしかしてセイジか?
確かに奴は困りものだな。
ミアの大切な友人なら俺にとっても大切な友人だ。
俺はアーク。
何か困った事があったら言ってくれ』

と、しかしキロほど頭の回転が速くないらしいこの騎士は、それをユウの方に言う事で二つのミスを犯している。

一つはユウの護衛役であるウサに警戒心を起こさせる事。
そして何より大きなミスは、彼にとっての大事な姫君であるミア以外に声をかけているという形になることだ。

そしてもう一人のナイト、ユーシスはミア以外に興味はないということを主張する事に重きを置いたのであろう。

『ユーシスだ。宜しく頼む』
と、たまたま同席した野良のパーティの挨拶程度の挨拶をしたきり、こちらには一切関知しない姿勢を貫いてきた。

こうして非常に微妙な空気の中、ミアいわく“ミアのお友達との親善”の名の元に、微妙な狩りが始まったのである。



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