リーダーのケイトは何かにつけて親切にしてくれる。
彼女いわく、ブラックメイジのノアノアが副リーダーで、彼はこのゲーム内のシステムにある結婚システムであるイルヴィスウェディングはしていないものの、実質ゲーム上の夫みたいなものだということだ。
『前にやってたネトゲでも相手はノアノアじゃないけど結婚はしてたんだよね~』
というケイトに、なるほど女性にとってはネット上でも結婚というシステムは楽しいものなんだろうなと思う。
このゲームではイルヴィスウェディングという公式の正式な結婚システムをすれば、ウェディングドレスを着て結婚式まで出来るので、年の離れた姉に育てられたせいか実は可愛いものが大好きな義勇もいつかはあげて見たいと思っていたりする。
まあ、それにはまず、相手を探さなければならないが……
ともあれ、色々クラスチェンジをできるゲームでも育てているのは全て前衛の攻撃職で男勝りな印象を受けるケイトだが、レベル上げに行かない日などに一緒に素材狩りや簡単なクエストをしながら話してみると、意外に乙女な性格だとわかった。
姉とよく楽しんだ、スイーツやハーブティ、刺繍、バスソルトやティディベアの話など、リアルだと男なのであまり話せないが実は義勇が大好きな趣味の話をしても、普通に楽しげに聞いてくれる。
ちょっと何かにつけて距離が近すぎる気がするのも、なんとなく仲良し同士で行動したがる女の子のソレを思わせた。
それまでが一人ぼっちだったのもあって、そんなケイトとのやりとりは楽しい。
一緒に何かをする場合、前衛なので守ってくれる。
でも彼女は戦闘系のクエストなど以外はあまりやらないので、義勇はレベル上げの合間にあげ始めた合成で作った食べるとステータスがあがる料理だとか、低レベルのクラスを育てる時用の自作の装備とかをプレゼントをするなど、互いに互いが出来る事をし合う。
リアルであまり友人がいない義勇としては、そんな友人付き合いは確かにすごくうきうきとするものだったのだ。
それは長くは続かなかったのだが……
もうゲームを始めた当初の理由なんてすっかり忘れ果てていた。
毎日レベル上げをして、その合間に仲の良い友人と過ごす。
それは本当に楽しい日々だった。
しかしながら…リアルで友人がいない義勇は何か間違ったらしい。
主に…友人の位置をキープするための距離の取り方あたりを……
それはとある日のことだった。
『ユウさん、今日さ、レベル上げ終わってからで良いから、ちょっと時間良い?』
ログインをしていつも通りギルドで挨拶。
パーティの参加希望を出してすぐ、運よくレベル上げパーティのお誘いをもらえたので、いってきますの挨拶をした時にケイトから声をかけられた。
義勇のキャラであるユウはヒーラーで、味方に対する回復というのは当然レジストされる事はない。
だからレベルが多少低くても回復役として重宝するので、イベントなどで手伝いに呼ばれる事は多々あった。
その日もそれかと思い、
『はい。大丈夫です。じゃあ終わったらご連絡します』
と、即答。
夏休中という事もあって多少就寝が遅れても問題ないしと、上機嫌でレベル上げに向かう。
正直リアルでは友人関係を築くのが苦手であまりお誘いを受ける事がないため、たとえネットという仮想空間の中でも声をかけてもらえるのは嬉しい。
無事レベルを1あげて、ギルドハウスに戻ったことを伝えると、ケイトがギルドハウス前にワープしてくる。
「私の部屋で良いかな?」
と聞かれて、あれ?クエストとかじゃないのか…と、少し不思議に思いながらも
「はい。ではお邪魔します」
と、ハウス内のケイトの部屋にワープした。
ギルドで所有しているギルドハウス内にはそれぞれ個室があって、そこは壁紙から家具から好きに変えられる。
だから義勇はユウの部屋は可愛い少女キャラのイメージにあう可愛いものを取りそろえているのだが、ケイトの部屋は黒を基調にしたゴシック風で、やや暗いイメージがある。
濃いワイン色のソファに勧められるまま腰をかけると、ケイトはその正面にいきなり膝まづいた。
へ??なに??なんなんだ???
と、リアルで目をぱちくりしていると、その女戦士の手にいきなり赤いバラの花が現れた。
そして…衝撃の言葉が告げられる。
──ユウさん…私の妻になって欲しい
──はぁ??
あまりに想定外の話すぎて、義勇はディスプレイの前で固まった。
え?え?え??なに?なんなんだ??!!
女キャラ同士で?
一応義勇の方はリアルに抵触するような話はしてないはずだから、おそらく相手は自分のことをリアルでも女と思っているのでは??
それともネカマ(ネット上では女の子を演じているリアル男)だとバレた??
そもそもケイトはノアノアと夫婦同然と言ってなかったか??!!
もうどこから突っ込んで良いのかわからずに黙っていると、ケイトの方が口を開いた。
「突然でびっくりしたと思うけど…」
(突然より何より、内容にびっくりしてます)
「ずっとユウさんのこと可愛いと思ってて…見かけとかだけじゃなく、雰囲気とか性格とか全部…」
(うん。そう思われるように努力してるし…)
「女キャラ同士だけど…」
(それ!…というか、ネカマはバレてなかったのか…もしかして百合?)
「こんなことなら男キャラ選べば良かったな…。
そうしたらイルヴィスウェディング出来たのに…」
(それは確かに。イルヴィス婚でもらえるウェディングドレスを着たい)
「でもキャラはこれだけど、ちゃんと守るから」
ケイトのことは嫌いじゃないが…確かにケイトが男キャラだったらゲーム内でくらい構わないが…残念ながら女キャラなので、このゲーム内での正式な結婚というものは出来ない。
だからそもそも何を望まれているのかわからない。
「あの…女キャラ同士ですし、ケイトさんがおっしゃるようにいわゆるイルヴィス婚は出来ませんし、今以上に何を望まれているのかがわからないのですが……」
仕方なしに言ってみると、
「ユウさんの特別になりたい」
と、返って来た。
「特別…?」
「そう、特別。
あ、このキャラは女だけど、私リアルは男だから…」
(聞いてない…)
がっくりと肩を落とす義勇。
別に男が女キャラを使っていたって構わない。
自分だってそうだ。
でもそれを明かしちゃダメだろう。
女やるなら最後まで女やらなきゃダメだろう。
…ていうか…もしかして俺、当然のように女だと思われているのか??
「えっと…その理屈で言うと、私だってリアル男性の可能性ありますよ?」
リアルの付き合いまで求められているのか?と言う事の牽制として言ってみると、
「それはないよ。会話とかでわかるよ」
と、鼻で笑われて、リアルで義勇は小さく首を横に振る。
さすがにそこで男です…とは言えない。
築いてきた人間関係はケイトだけではないのだ。
ユウという少女キャラを、ネット内では少女としてふるまう女性キャラだからそう扱って欲しいのだろうと女性として遇して来てくれた他の人々に失礼な気がする。
「それに…ノアノアさんと夫婦同然とおっしゃってたじゃないですか」
「別れる!ユウさんが付き合ってくれるなら、ノアノアとは別れるから!!」
それはすごくまずいと思う。
さすがに思う。
「…やっぱり…ギルド内で他の方とお付き合いしてる方と別れさせてお付き合いというのは出来ません。ごめんなさい」
この時点ですでにかなり引き気味ではあったのだが、
「実はノアノアは結構、私のすることなすこと文句付けてくること多くて、お互いに冷めてたんだ。
どちらにしてもそろそろ別れてたと思うし、ちゃんと別れる。
それで別れて時間が経ったら考えて?」
と、食い下がられた時点で、逃げたくなった。
(これ…不倫持ちかける男の常とう句みたいだな…)
などと思いながら、
「別れられても…お付き合いできるとは限りませんが…」
と、はっきりと断るとギルドに居にくくなるかも…と、少し婉曲に断りを入れたが、
「うん。それは仕方ないから。
でもとりあえずせっかくだから呼び方変えて良い?
“さん”外して、ユウって呼びたいんだ。
ウサとかが呼び捨てなのに私がさん付けってなんとなく…」
と言われると、もう呼び方くらいどうでも良いか…と流されて、それは了承しておいた。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿