(はいはい。じゃ、行こうか。サビト達も待ってるだろうし…)
あれからタンジロウとは携帯の番号と互いの住所を教えあった。
そして裏で電話をしながら、サビト達が待っているはずの海岸へと急ぐ。
そうして善逸達が海岸につくと、ギユウが一人で釣りをしていた。
そう、このゲームではなんと釣りもできる。
釣った物は雑貨屋でそのまま売ってもいいし、解体屋に持って行くと有料だが解体してくれて、鱗やら魚肉やら牙やらにしてくれる。
それをまた雑貨屋で売ってもいいし、合成屋で何かに合成してもらえる事もある。
『ギユウ、サビトは?』
善逸達が来た事にも気付かず一心不乱に釣りにいそしんでたギユウは、善逸達に背を向けたまま
『…わからない』
と答えた。
まあ…ギユウから有力な情報を引き出そうなんて無謀な事考えてはいけない、それは仲間の間の共通の認識だ。
だから善逸は
『そっか…』
と流して、そのまま砂浜に腰を下ろした。タンジロウもそれに続く。
しばらくギユウは釣りをしていたが、数分後ピタっと動きを止めた。
『ギユウ…どうしたん?』
『餌…なくなった…』
不審に思って聞いた善逸に答えるギユウ。
『じゃあ、こっちきて座りませんか?』
とそれにタンジロウが言うと、フルフル首を横に振った。
『サビトが…ここから一歩も動くなって』
『………』
たぶん…放置すると毎回迷子になった挙げ句とんでもない行動に走るギユウのことだから、遠くに行くなじゃサビトも安心できなかったんだろう。
釣り竿をかまえたまま棒立ちするギユウに、善逸とタンジロウは苦笑する。
『えっと、俺達はギユウさんから3歩後ろくらいに座ってるだけだから、そのくらいは無問題だと思いますよ』
『でも…それだと3歩も動く』
言ってギユウは断固としてそのまま立ち続ける。
『ま…いいか』
実際に立ってるわけでもないから疲れるとかいうこともないし、放置決定。
そのままサビトを待ち続けた。
そして数分後…ふと気配を感じて振り向くと、ベレー帽をかぶった男キャラがチラリと視界に入る。
背中には大きな弓。これは…ヨイチ?!
『ね、あれヨイチじゃない?!!』
善逸は海岸を見下ろす木陰からこちらを見ている人影を指差してタンジロウに声をかけた。
『え?本当かっ?!』
しかしタンジロウの視界に移る前にサッと消えるヨイチ…。
『あ…いっちゃった…』
善逸が言うと、
『見損ねた~』
とタンジロウはがっくり肩を落とす。
ほとんど珍しい野生動物みたいノリだ。
そんなこんなで30分ほど待ってると、後ろからサビトの声がした。
『ギユウ…餌きれてないか?』
『ああ、きれた』
『で?餌つけずに釣り竿持って何してるんだ?ゼンイツ達と座ってればいいのに』
『それだと3歩も歩く。サビトが一歩も動くなと言った』
『………』
………
『……悪かった』
しばらく沈黙した後、謝罪するサビト。
なんというか…いつもこういうパターンな気がする。
と、善逸とタンジロウは電話口で吹き出した。
「ね、絶対サビトってギユウに勝てないよなっ」
「うん。いつもこのパターンだ」
善逸達が携帯でそんな会話を交わしてる間に、ようやく後ろを振り返ったギユウが小首をかしげた。
『サビト……ボロボロ?』
『ああ、回復してくれ。状態回復も頼む』
HPゲージが真っ赤なサビトにギユウがピュルルンと回復魔法をかけてMP回復のために座る。
そしてギユウのMPが満タンになると、サビトは
『行くぞ』
と、先に立って歩き始めた。
『どこ行くんだ?』
ピョコンと立ち上がると、トテトテとサビトの真後ろの自分の定位置にかけよるギユウ。
サビトは一瞬止まって仲間3人がちゃんと付いて来てる事を確認すると、
『魔王の所。今ちょっと行って来てみた』
と言ってまた歩き始める。
「サビトでも…冗談言うんだな」
「まあでも…あんまセンスあるとは言えないのがミソだけど…」
携帯でやっぱりボソボソ話すタンジロウと善逸。
しかし…そこでお約束。ギユウが目を輝かせる。
『魔王の所?魔王に会ったのか?どんな感じだった?』
『えっとな…緑のタコ』
もう…やめといた方が……
普通…この言葉でいい加減嘘だと気付くはずなのだが…ギユウをそんじょそこらの凡人と一緒にしちゃいけない。
…と善逸は呆れつつ思う。
『緑のタコ?海で出るタコは茶色だからタコの王様なんだな。
会うのが楽しみだ』
本気で楽しみにされてますが?
うん、ギユウがとぼけてるわけでも冗談言ってるわけでもないのは、いい加減全員がわかってるよ?
と、さらに善逸は思った。
『……………悪かった…冗談だ』
『……嘘だったのか…楽しみにしていたのに…』
いや…普通嘘だって気付くし…。最後の魔王がタコってありえんでしょ。
光の神が天使みたいなのにそれに対するのが緑のタコなわけが………
『タコ見たいなら…その辺から引っ張ってくるか?』
歩く足を止めずに横の海を指さすサビトに
『緑じゃないと駄目だ』
と、きっぱり断言するギユウ。
『緑のタコ……楽しみにしてたのに………』
『………悪かった…』
『……会ってみたかったのに……』
『………』
ため息一つ。
『とりあえず……ないものは無理だから、この後3人でミッションクリアの報告してる間にこの前欲しいって言ってたエンジェルウィング取って来てやるから。それで許せ』
『エンジェルウィングか。あれは可愛い』
とたんに機嫌がなおるギユウ。
「なんかさ…現実社会の縮図?」
「っていうか…サビトってギユウさん相手だといつも自爆してるな」
裏で苦笑する善逸とタンジロウ。
「でもさ聖堂の奥行く自信あるってとこがサビトってすごいよな」
善逸は感嘆のため息と共につぶやく。
ちなみにエンジェルウィングというのはキャラの横をパタパタと飛ぶ小さな天使の飾りだ。
イヴも欲しがっていて、ショウやゴッドセイバーにせっついてたのは善逸も知っている。
まあ…取れなかったわけなのだが…。
街の教会の奥から行ける聖堂の奥で取れるのだが…辿り着くのに失敗するとレベルが1下がる。
ちなみに…レベル3からチャレンジ可能。
もちろん…辿り着くまでにはとてつもない難関が待っている。
最初のフロアの床は一定の間隔であちこちに落とし穴ができる。
いったんピカっとタイルが光って次の瞬間穴があくので、反射神経がとても良ければ超えられなくはない。
だが、その後が無理だ。
落とし穴のフロア抜けた後のドアに、ここの主催ってホントは教育委員会の回し者か?と疑いたくなるような仕掛けがあるのだ。
高校レベルの試験問題20問中19問正解しないとドアが開かない。もちろん時間制限あり。
高校生ばかりを集めたのってそのため?それだけのためなのか??
と、善逸は思った。
反射神経が良いだけじゃなくて頭も超良くないと取れない。
だからイヴの従者二人が失敗して諦めて以来、チャレンジした人間はいないようだ。
ま、それはおいておいてだ、
『ね、ミッション報告って?もしかしてこれから行くの?』
『ん。ミッション3な。とりあえず中ボス倒すだけだからものの5分で終わる。
俺は以前お前ら待ってる間にレベル16ソロで倒せたから馬鹿な真似しなきゃいけるだろ』
サビトは…基本的にミッションはいつもソロで行ってる。
それは善逸達を待ってる時間だったり、他の3人が金策してる時間だったり色々なのだが、ソロでいる時はいつもミッションだ。
そして自分がまず下見して情報とか実際の強さとか試してみて、だいたいの事がわかってから善逸達を連れて行ってくれる。
おそらく…今ズタボロだったのはミッション4の下見だろう。
『ミッション4はどうでした?』
同じ事を考えてたらしいタンジロウが前を歩くサビトに声をかけた。
『ん~、少なくともソロ無理。
というか…プリーストいないと絶対に無理だな。
レベル高くても無理。
2体…なのは良いにしても状態異常すごすぎてな…逃げ戻った。
状態異常の種類は毒と暗闇。毒はHP尽きるまでになんとかすればいいとしても暗闇がやばい。
今俺は22だが戻る道々にいたレベル5の敵とかにすら攻撃が全く当たらなくなったぞ。
いくらなんでもバランス悪すぎだ。あっちの攻撃も当たらないからなんとか逃げ切ったが、もうちょっと敵とのレベル差少なければ格下の敵に余裕で殺されてる』
『うあ…すごいですね』
『ん…だからミッション3終わって報告終わったら即ミッション4の依頼受けて来い。みんなで行くぞ。』
善逸達はそれからサビトに倒すの手伝ってもらって本当に軽々とミッション3の中ボスを倒すと街に帰った。
『んじゃ、そう言う事でミッション3の報告終わったらそのままミッション4受けて門前集合な』
すでにミッション4受ける所まで終わってるサビトは一人教会の方へ消えて行く。
ホントにあれやる気なのか……。
呆れつつもすでにミッション報告をしに城に足をむけているタンジロウとギユウを追いかけようと前を向いた時、少し前方の建物の影からまたチラリと大きな弓が目に入る。
まさか…ヨイチ?!
善逸はあわてて建物にかけよったが、弓が見えたあたりに目をやった時にはもう誰もいなかった…。
………今まで全く姿を見せなかったのに、なんでこのタイミングで?2回もって…偶然?
ゾクリと背筋が寒くなる。
「ゼンイツ?どうした?迷ってないよな?」
そんな事とは知らないタンジロウが電話ごしに聞いて来た。
「ああ、タンジロウ…あのな……」
と善逸が説明すると、電話の向こうのタンジロウが少し緊張する気配がする。
「でも…な…」
と、それでもタンジロウは口を開いた。
「逆説的に考えると、アクセスしてるって事はヨイチが犯人なんだったら今は安全って事だよな」
なるほど…そういう考え方もできるのか。
「タンジロウありがと。なんだかタンジロウの言葉でちょっと気が楽になったよ」
善逸はタンジロウにお礼を言うと、城に急いだ。
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