オンラインゲーム殺人事件16_なりすましメール(10日目)──我妻善逸の場合

謎が謎を呼んでいて犯人はまだ捕まってないわけなのだが、その日はゴッドセイバーが殺されて以来、久々によく眠れて、すっきり目を覚ました。


サビトとの会話でとりあえず彼に丸投げしておけば守ってもらえるらしい事がわかったし、昨日ログアウトしてしまったメグにメルアドの一件を聞けば、なんとなく犯人が割れるのか、などと光が見えてきた気もする。

そして今日はそんな状況を彩るように晴れやかな良い天気だ。

そういえばここ数日まるで引きこもりのようにカーテン閉め切った部屋に引きこもっていたので、久々に遠出をして買い物でも行こうか…
せっかく10万も臨時収入が入ったのだし、美味しいものでも食べて、漫画でも買ってこようか…

そんな事を考える余裕が出てきたのは良いことだ…と、善逸は思っていると、いきなりメールの着信音。
例のフリーメールのメルアドにメールが届いてる。

なんとタンジロウからだ。

『おはよう!
なんだか色々怖い事ばかり起こって大変な時だけど、天気も良いし気晴らしに一緒に昼でも食べに行かないか?
都合が良ければ11時頃吉祥寺の駅ビルアトレ内2階の切符売り場のあたりで○○っていう雑誌を持って待ってるからきてくれ。
一応こんなときだから念のため人通りが多い所で人が多い場所を選択してみたっ。
ゼンイツの方も目印を教えてくれ
あと、連絡なんだが、普段使っているメルアドのほうが使いやすいから、こちらに入れて欲しい』
という事でメルアドが添えられている。

そんな申し出を善逸が断る理由はない。
すぐ自分の目印を添えて了承のメールを送った。

普段は友達とでかけたりすることがないのですごく楽しみだ。
しかも相手はあのタンジロウである。

サビトにもギユウにも会ってみたいことは会ってみたいが、最近サビトがキーを打つのが苦手なギユウにかかりっきりなのもあって、圧倒的にタンジロウと2人で行動することが多いので、やはり一番会ってみたい相手ではある。

なので楽しみすぎてあっという間に時間が過ぎ、慌てて家を飛び出す事になった。

吉祥寺まで電車で一本。
時間は……11時ジャスト!ギリギリセーフ!
タンジロウらしき相手は……まだ来ていない。
11時"頃"って言ってたもんな…と善逸はそのまま待っている。

そうして30分経過して、11時半…遅いなぁ…何かあったのかな…と心配になってきた頃、メールの着信音が鳴った。
タンジロウからだ。

『ごめん!
急に風邪ひいて熱がでてきたみたいだ。
ちょっとさすがに行けそうにないので、ホントにドタキャンで申し訳ないんだけど、今日キャンセルさせてほしい』

うあああ…
即了承の旨を伝えるメールを返す。

このところの騒ぎで体調を崩したのかもしれない。
色々怒涛だったしなぁ…たいした事ないと良いけど…。

そんな事を思いつつも、なんとなく…1人でぶらつく気分でもなくて、善逸はそのまま家へ直帰した。

残念だがしかたない。
でも少なくともタンジロウは会っても良いとおもってくれているようだから、熱が下がったらまた会えるだろう。
そう思い直して、自宅で暇なのもあり、もうほとんど習慣で意味もなくテレビをつけると、ニュースでまた高校生殺人事件が…

被害者は…赤坂めぐみ…めぐみ…メグ…???
まさか…な…
考えてもどうしようもない…てか、考えたくない…考えるのよそう。

ブチっとテレビの電源を切る。


朝はあんなに爽やかで楽しい気分だったのに、また鬱々とした嫌な気分に………
あ~なんか楽しい事ないかなぁ…
とは思うものの、…それでも昨日ほどの恐怖心はない。

とにかく何かあればサビトにメールをいれたらなんとかしてくれるはずだ。

ホントに無意味に貴重な高校の夏休みを浪費してるとは思うが、善逸はダラダラと雑誌をめくったりしながら夜を待った。

そして8時。
もう習慣通りにゲームにログインする。
今日は善逸がのんびりしてたせいか、サビトとギユウだけじゃなく、タンジロウももうインしてた。
熱…大丈夫なのか?

『よお!』
『こんばんは』
『こんばんはっ!善逸!』

サビトに誘われてパーティに加わると3人がそれぞれ挨拶をしてくる。

『こんちゃっ(^o^)ノ』

と、それに挨拶を返したあと、善逸はちょっと気になってタンジロウに声をかけた。

『タンジロウ、身体もう大丈夫なの?無理しないで休んでた方が良くない?
善逸の言葉にサビトが振り返った。

『どこか悪いのか?なら無理するなよ。ログアウトして早く寝とけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かないで金策でもしながら待ってるから。』
『そうだ。無理するな』

サビトとギユウも言うが、タンジロウはハテナマークを振りまきながら首をかしげている。

『えっと…俺はどこも悪くないけど……』
『え?だって今日風邪引いて熱でたって………』
『…?…なんの話だ???』

盛大にはてなマークを飛ばすタンジロウに、戸惑う善逸。

そこでハッとした。
そして今度はウィスを送る。

(ごめん、リアルで会う約束してたなんてサビトに知れたら大激怒だよね…。
でもホントもう大丈夫なのか?)
善逸が送ったウィスに目を通したのかタンジロウがまたくびをかしげた。

(え?……リアルでって??)
(え?メールくれただろ?今朝一緒にご飯食べようって)
(ええ??俺が??送ってないぞ??
(え?だってタンジロウのメルアドからメールきたよ?)
(えええ???俺ホントにぜんっぜん覚えがないけど…)

どうなっているんだ???

いきなり二人して無言になるから、もう裏でウィスしてるのは見え見えなわけで…

『お前ら!裏で話進めるなっ!』
と、サビトがキレた。

その勢いにピョンと一歩とびのくギユウ。
その反応にサビトが語尾を和らげた。

『悪い…怒ってるわけじゃなくて…。
話しやすい相手、話しにくい相手がいるのは仕方ないが、体調悪いとか隠されると心配になるだろ…。
なんかあるなら言ってくれ。時間調整とかして無理させないようにしたいから

すると今度はタンジロウとサビトがいきなり無言……
ウィス中な予感。

そして数分後…
『ゼンイツ、お前なぁ!』
いきなり怒鳴りかけるサビトの言葉に、タンジロウが
『サビト、怒るなら俺のことも……』
とかぶせる。

そして何故かそこでギユウまで
『じゃあ、俺も怒られよう』
と、謎な発言。

それで一瞬沈黙するサビト。
そしてその後口を開く。。

『状況を整理すると…だ、
朝にタンジロウのメルアドから、ゼンイツの所に食事に行かないかとメール。
でもタンジロウはそのメールを送っていない。
そういうことだよな?』

まあ互いの言い分をまとめるとそういうことになる。

『どういう事だ??』
とギユウがタンジロウと善逸に聞く。

いや、聞きたいのは俺の方なんだけど…と、思っていると、サビトが言った。

『たぶん…なりすましメールだ』
『なりすましメール??』
善逸は聞き慣れない言葉に首をかしげた。

『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺が送ったのに、送られた側の方にはギユウのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のギユウのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、ギユウの側のメールには送信履歴とかも残らない。』

『え~っと…つまり…』
そこで一旦言葉を切るサビトをうながすタンジロウ。

『今回で言えば…誰かわからない第三者がタンジロウのアドレスを使ってタンジロウになりすましてゼンイツにメールを送ったってことだ。
で、そこで問題だ。
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』

う…あああああっ!!!!!
今日…犯人があの場にいたってこと???
すぐ側に??!!!

全身が総毛立った。

こ…殺されないで良かったぁぁ………。
と、それでもマウスを握る善逸の手はカタカタ震えてる。

『またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にするぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな』

サビト…相変わらず頭いいというか、冴えてるなぁ…
などとのん気に感心してたら、話はそこで終わらなかった。

いきなりまた核心をつかれる。

『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、ゼンイツ…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?

………サビトの視線が痛い……

『あ…あの、さ…、一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……
人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは…
…次からは気をつけます……』

『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
怒声は覚悟してたものの、やっぱり怖いっ。
『ごめんなさいっ!』
と言ってリアルでビクっと肩をすくめた善逸に、サビトは沈黙した。

しばらく無言。

もっと矢継ぎ早に罵られると思ってたから少し拍子抜けしたものの、あまりに続く沈黙にちょっと不安になってくる。
言う事聞かなかったから…見捨てられた…のか…。

『ゼンイツ、確認』
『はいっ』

思い切って声かけようかと思った時に、サビトの方から口を開いてきた。

『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。
あと窓のカーテン開いてたら閉めろ』
『らじゃっ!』
言ってあわてて確認しにいく。

『大丈夫だったっ』
というと、サビトは、
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。

『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使え。命には変えられんだろ。』

『てか…当分家からでない様にするから…』
もうそれこそ命には変えられないんでそう言う善逸に、サビトはまた今日何度目かのため息をついた。

『お前…全然わかってないだろ…』
『え?』
『今回な、犯人がなんで状況的に殺せないのにわざわざお前を呼び出したと思う?』

え~っと………

『犯人の目的は今日呼び出した場所でお前を殺す事じゃない。
待ち合わせ場所にきたお前の後を尾行してお前の身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだ。』

……う……そ……だろ……
顔面蒼白になる善逸に、サビトがとどめをさす。

『要は……家にいても安全じゃない。
お前には安全地帯がなくなったってことだ』

リアルで悲鳴をあげそうになって、時間を考えて善逸はあわてて悲鳴を飲み込んだ。
恐怖のあまり目からボロボロ涙がこぼれる。
ガタガタ震えながら思わず周りを見回した。
こうしてる間にもすぐ後ろに犯人が隠れてるような錯覚に襲われ目眩がしてくる。

どうしよう…どうしよう…どうしよう!!



『とりあえずレベル上げ行くか…』

…へ?
パニックで目の前がクルクル回ってる善逸。
こんな状況であまりにあっさり言うサビトを信じられない目で見る。

『サビトっそんな場合じゃ』
普段は必要最低限のことも話さないギユウがさすがに言葉のでない善逸の代わりに言ってくれた。

それに対してサビトは至極冷静に言う。
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』

いや…そうなんだけど……
と、善逸は思う。

とてもじゃないけどそんな冷静に考えられない。
こんなんでレベル上げなんて絶対に無理っ!
と、それでも思うわけで……

『ごめん、サビト、ギユウさんを連れて先行っててくれますか?
10分ほどしたらすぐ後追うので』
スタスタと歩き出すサビトの後ろ姿にタンジロウが声をかける。

『わかった。海岸の入り口あたりに行ってるな。
そこまでならゼンイツと二人でもこれるだろ?』

と言うサビトに手を振って、タンジロウは

(少し話があるんだけど、いい?)
と善逸にウィスを送ってきた。
善逸はうなづいて、噴水の端に腰をかけるタンジロウの隣に座る。

(リアルのさ、ゼンイツの連絡先、聞いちゃだめか?)
唐突にタンジロウが切り出した。

(まあ俺も普通の高校生だから守りきれるとか言えないんだけど、長男だしな。
駆けつけるだけは駆けつけられるから…)

え?え?俺いま殺人犯に目を付けられてる結構危ないやつなんだけど?
良いの?良いの?と、善逸は信じられない目でタンジロウを凝視した。

(…っていっても怖いよな、こんな事ばかりあると)
(ちがっ!!ちょ、待ってッ!!待って!!お願いしますっ!!!)

あやうく救いの手を逃すところだった。

(タンジロウッ!お願いっ!!見捨てないでっ!!
ほんっきでお願いしますっ!!)

ネット上ではあるがガシッとその腕を掴んで必死に言うと、タンジロウは少しびっくりしたように、固まって、それから

(うん、じゃ、電話するとこから始めようか)
と、笑って言った。





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