夜…0時を過ぎても布団にスマホを持ち込むから話していて良いとサビトが言ってくれたので、義勇も寝る支度をしてスマホを抱えてベッドへ。
そうして、少し眠たそうなサビトの声を聞いていると、なんだかとても幸せな気がしてきて、思わずそう言うと、サビトは
──…ん。…俺もだ…ぞ
と、今にも寝落ちそうな様子で、それでも答えてくれる。
その一言で胸がすごく暖かくなって、ほわほわと幸せが全体に広がっていく。
そのうちサビトは眠ってしまったようなので、義勇もそっとスマホの通話を終了させたが、そこに幸せが詰まっているような気がして、その夜はスマホを抱きしめて寝た。
こんなに安らかな気分で眠れたのはどのくらいぶりだろうか…
朝の目覚めもなんだか爽やかで、でも起きてしまうのがもったいなくて、義勇はそのままスマホを抱きしめてしばらくベッドの上で昨日のサビトの声を反復しながら午前中をすごした。
イメージ通り男らしくてよく通るカッコいい声だった。
それが義勇に話しかける時にはずいぶんと優しい声音で話してくれる。
姉が亡くなって以来、そんな事を望むことすら考えてもいなかったが、元々は優しい姉に慈しまれて育ったので、やっぱり少し甘やかされるくらい優しくされるのが好きだし落ち着く。
サビトは6年ぶりにそんな感情を思い出させてくれた。
そんな風に一日中ふわふわと幸せな気持ちに浸って、堂々と彼と会えるゲーム開始時間の8時を待つ。
今日もログアウトしたあと、少し話をできないだろうか…
そんなことを思って、そのために…と、タンブラーに氷入りのお茶を用意している間に、時間が少し過ぎてしまったので、慌ててログインすると、3人共もう来ていて、パーティの誘いが飛んできたので、パーティに入った。
しかし昨日のことで浮かれていた義勇がそこで聞いたのはとんでもない話だった。
このゲームの参加者が殺されたらしい。
おそらく賞金の1億円が理由だろう。
つまり…下手をすると自分もそうなるかもしれない。
そういうことだ。
いや、義勇は本当は6年前のあの日に死んでいるはずだった人間なのだから、次はきっと自分だろう。
死ぬべきなのに生きている自分の命を狩るために、神様はこんな事件を起こしているんじゃないだろうか…
そう思うと涙が自然と溢れ出た。
死ぬのは怖くないかと言うと怖くないとは言わないが、それより今こうして生きているのが怖い気がしてくる。
胸が痛くて悲しくて、自分でもよくわからない感情がグルグルまわった。
姉を死なせた自分はやっぱりひどい殺され方をするんだろうか…
あの頃は子どもでわからなかったが、今なら姉がどういう状態で殺されたのか想像がつく気がする。
女性としての尊厳を踏みにじられた上の死。
義勇は男だからそういう事はないかもしれないが、その代わりに滅多刺しにされてもしかたないのかもしれない。
姉の死は悲しくて、自分の死に方も恐ろしくて、他にもなんだかわからない感情がグルグル回って、どうして良いかわからなくなって義勇は泣いた。
そんなときだった。
遠くで何か音がする。
一瞬色々錯綜する記憶の中でそれが現実の音だと理解できなかったが、鳴り続けるそれに、ようやくそれがスマホの着信音だと気づいた。
ほとんど鳴ることのない電話。
固定電話はそれでも必要最低限の連絡がある時に親が、そして定期的に早川さんがかけてくることはあるのだが、スマホの方はかけてくるのなんてただ1人だ。
慌ててスマホに飛びついて通話を押すと、
──ギユウ、大丈夫か?
とサビトの声がして、義勇はさきほどとは違う意味で号泣してしまった。
電話をした相手にいきなり泣かれて迷惑だっただろうし、混乱もしただろうに、それでもサビトがその時に求めた答えは1つだけ。
──1つだけ聞かせてくれ。お前の前に今、差し迫った危険はあるか?
それさえなければ他の事はゆっくりで良い…と言ってくれるサビト。
ない…としか答えられない義勇に、
「それなら良かった。反応がなかったから心配した。
何か痛いとか苦しいとか、体調不良的なものもないな?」
と、柔らかく聞いてきてくれて、その声音の頼もしく優しい雰囲気に、少し気持ちが落ち着いてきた気がした。
少しずつ心が癒やされて、涙が止まってくる。
その間にもサビトは義勇が答えやすいよう、
体調がわるいわけではないのだな?
さきほどのゲーム内での話は聞いていたか?
その後の注意事項も聞いたか?
など、2択の質問をゆっくりと繰り返す。
それにぽつりぽつりと答えながら、完全に義勇が落ち着いてきたところで、サビトは
「で?何をそんなに泣いていたんだ?」
と、初めて聞いてきた。
何を…と言われても義勇にもわからない。
自分でもどう説明して良いのかわからない。
だから
「どう言って良いか…自分でもよくわからない…
でも…次死ぬのは俺だと思ったんだ…本当は生きてるべきじゃない人間だし…
死ぬのはしかたない…けど…死に方を考えると…少し…怖い…」
と、思いつくまま、口にしたら、即
『とりあえず否定しておく。
お前は死なない。なぜなら俺が守るからだ』
と、かえってきてびっくりしてしまった。
出会った時からそうだが、サビトはいつも突然だ。
あの時も突然現れて、死ぬはずだった義勇を救ってしまった。
「…そう…なのか?」
と、なんとなく否定をする気もしないというか、サビトが言うならそうなのかもしれないなどと思って、半ば呆然としながらも、そう口にすると、電話の向こうから、はぁ~と大きなため息が返ってきた。
『お前はほんと、そういうとこだぞ。
俺の常識や良識をことごとく根底から覆してくれる。
もう、いい!住所を言え』
「…住所?」
『お前が今住んでる場所のだ。
今日はさすがにこの時間だとお前の家族に迷惑だろうから、明日に行く』
「…家族は…今海外赴任中だから…俺しかいないけど…。
東京都目黒区○○町○-☓-○△、マンションソレイユ301号室」
『ちょっと待てっ!お前一人暮らしか?!
それで殺されるかもしれないとか言ってる中で何故そんなに危機感がないんだ!!』
「え…?だってサビトが住所言えって……」
『それはそうだけど…お前、他には言ってないよな?』
「うん」
『じゃあいい。絶対に俺以外には口外するなよ?相手がタンジロウでもゼンイツでもだ』
「うん」
『わかった。なんかもう一刻も早く行って安全確保しとかないとダメな気がしたから、今から行くから。ドアの前についたら電話する。
それまで誰が来ても、俺を名乗るやつがきても絶対にドアを開けるなよ?』
それだけ言うと、いきなり通話が切れた。
え?と思う。
今から行くって言った?
まさか…な…とさすがに思う。
だって死んで良いと言うか、死ぬべき自分と違って、サビトはきっと大勢の人にとって大切な人に違いない。
個人情報を晒したり、リアルで接触を持ったりするのは危険なことだと言っていたのはサビト自身だ。
そのサビトがそんな危険なことをするなんてありえない。
そう思ったが、落ち着いて改めてディスプレイに目をやると、なんだかサビトが急用ができたから…といって、ログアウトしている。
そして30分後…スマホが鳴った。
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