オンラインゲーム殺人事件11_第一の殺人(7~8日目)──鱗滝錆兎の場合

ゲームを始めて一週間。
一人でやってた頃の単調さが嘘のように楽しくなった。


だが昨日は色々あった。

いきなり仲間のもとに送られた嫌がらせ。

錆兎は子どもの頃から他人よりも色々と出来る人間だったから、自分自身に対してはもちろんのこと、そばにいる相手にもそんな風に嫌がらせのようなことを言われることも多々あった。
そのため自然と周りは同程度の能力で同じような経験を経て心が強く育ったのであろう人間しかいなくなった。

だから自分と違うタイプの人間と一緒にいるのは本当に久々で、競うためでもなく協力し合うために一緒に行動するのはただただ楽しかった。

それを壊そうとするものを容赦するつもりはない。
相手には次にやったら通報するぞと警告し、仲間には誤解であることを説明する。


そもそもがタンジロウはとても前向きで、錆兎の仲間にふさわしくないと言われたならば、さらに精進すればいいと思ったらしく、どういう方向で努力をすればいいのかをいきなり聞かれたのが事が露見したきっかけだった。

正直すごいと思う。
あんな言い方をされて、前向きに努力をすればいいと思える人間なんてそうはいない。

ゼンイツは自分だけに来ていたと思って秘かに落ち込んでいたらしい。
タンジロウの言葉で自分だけじゃなかったのかと、ホッとしたようだった。

まあ彼の反応が普通なのだろう。
だが、1つだけ彼がすごいと思うところは、彼はなんとなく色々不遇な目にあってきたようだが、彼の口からは自嘲の言葉はよく聞くが、他人の悪口を聞いたことがない。

タンジロウもそうだが、これは当たり前のことに思えて、実はすごいことだ。
あとは…すごくよく気がつく。
本人は自分は臆病だからというが、しばしば周りを見ずに特攻しかける錆兎からすると、一歩引いて先に危険を察知しようとするゼンイツの行動は地味にありがたい。

そしてギユウ。
何も言ってこない。
いや、おそらく長文を速やかに打てないから諦めているんだろうな…とは思う。

正直、サビトが彼らと行動を共にするきっかけとなったギユウの

『サビトが倒せば経験値入るから。
俺も回復の魔法は覚えた。一生懸命回復しようと思う』
と言う言葉。

あれが今までずっと行動を共にしてきて最初で最後のギユウの長文だった気がする。
しかも…それだけ打つのにすご~~く時間をかけながら…。

だから話をちゃんと聞いてやりたい、誤解があるなら正したいと思うのだが、あのペースで打っていては本当に時間がいくらあっても足りない。

ではどうするか…となった時、考えついたのは口頭で聞くこと。

ただ、錆兎に関してはもう、リアルをさらさないとか言うのは半分放棄している部分もあるので、まあいいにしても、ギユウの個人情報を引き出してしまうのはどうなんだろうか…と言う気持ちはある。

だからギユウが色々言ってこないのはキーボード操作に慣れていないせいなのかを確認の上で、非通知で自分の電話にかけてきて話さないか?ともちかけたのだが、ギユウはやっぱりギユウだった。

(…せっかく非通知にする方法を直前に教えておいたのに…184を忘れてる……)

自分のスマホにしっかりと表示されるギユウの番号。
もう苦笑するしかない。

本当なら履歴を消してやらねばならないところを、しっかりと登録してしまっている自分も自分でどうかとは思うのだが……


ギユウは普通に少年の声ではあるものの、どこか優しげでおっとりした話し方をしていて、それがなんだか錆兎が思っていた通り過ぎて、笑えてしまう。

ああ、なんて可愛いんだろう…なんて男に思う言葉ではないのかもしれないが、言うことなすこと可愛らしい。
他に思いつく形容詞がない。


時間なんてあっという間にすぎて、0時になったから、さあ終わりにしようかとすると、ひどく不安げな様子で

──もう少しだけ…話してたらダメ……だよな…

なんていうので、可愛すぎて心臓がどうにかなるかと思った。

これ…相手が女だったら、自分は明日は指輪を買いに走って、そんなに不安ならずっと一緒にいられるから嫁に来いとでも言ってしまうのではないかと思うほどだ。

でも実際そういうわけにも行かず、錆兎は夜も朝も早い生活を崩さないようにしているので、結局電話は布団に持って入って、ギユウの方が満足したらギユウの方から切ってもらうことにした。

そんな翌朝のことである。


朝5時起床で柔軟、走り込みのあと、腹筋、背筋、素振りなど、いつものメニューを一通りこなしたあと、シャワーを浴びて朝食。

それから午前中はずっと勉強。

12時少し前、自分一人しかいなくてもきっちり自炊。
12時には自分で作った食事をテーブルに並べ、ニュースを見ながら一人きりの食事。
中学を卒業してからの変わらぬ日常。

義務教育の間まではきっちりと厳しく管理教育。その後は自主性に任せる。ただし自分の責任は自分で取れ。それが父親の方針だったため、経済的な保護以外の保護も束縛もなし。

どちらにしても父親は仕事も忙しかった為、義務教育終了までが一人でなかったかと言えばそういうわけでもなく、単に通いで来ていた家政婦がいるか自炊をするか、時間の管理をされるか自主的にするかくらいで、たいして今と変わるわけでもない。

勉強にしても武道にしても結局は競争で、勝てば当然妬まれもするし本分と別の部分で追い落としをかけようとする者も多い。
それでもごく一部、お互いに刺激をし合って切磋琢磨するライバルとしての友人はいたが、無条件に心を許す類いの交友関係ではない。

そんな中で初めて出来た損得関係のない友人。
一日4時間、ネット内だけという限定条件ではあるものの、それはある意味若干孤独な錆兎の生活に潤いを与えるには十分すぎる存在だった。

そして、そんな日々が続いてゲームを始めたそもそもの理由を忘れかけていたのだが、ふと流れたニュースに凍り付いた。

『臨時ニュースをお知らせします。本日午前5時過ぎ、東京都○○区のマンション駐車場で
刺殺された男性の遺体が発見されました。
殺された男性は都内在住の高校生、鈴木大輔さん17歳………』

鈴木大輔…確かゴッドセイバーの本名だ
とうとう起こったかという気持ちと、ここまで起こるのかという驚きが交差する。

断言はできないが今回のゲームが原因の可能性はかなり高い。
…自分の予測通り賞金1億が目的だとすれば次の殺人が起こる可能性も…。
そして…放置すれば自分の仲間がそれに巻き込まれるのは必至だ。

錆兎は迷わず電話を手に取った。
そして物心ついて以来ほとんどかけた事のない番号に電話をかける。

『錆兎か、何か重要な事か?』
忙しいであろう父。
それでも私用で電話をかけた事のない息子がかけてきたのだから、よほどの事だろうという事は察して話を聞いてくれるつもりらしい。

錆兎は迷わずディスクが送られてきた事からゲームの事、賞金の事、ゴッドセイバーの事などを説明した上で三葉商事のゲームの賞金が原因だと思う旨を知らせた。

『報告が遅れてすみません。ただ、今までは現実にトラブルが起こっていたわけではなく、とりあえずトラブル防止と監視に務めるのが最善と判断しました』
最後にそうまとめる息子に父はため息。

『やっかいな事になったな。』
とつぶやいた後、少し考えて言った。

『おそらく…三葉商事が相手となると警察はほぼ動けん。
この事件と三葉商事との関連付けをさせるのはまず無理だろう。
事件は単体で捜査という事になり、結果、現行犯で犯人が逮捕されない限り、次の犯罪を防ぐのは不可能に近い。
それでも…お前があくまで私の名前を前に出せば、お前は恐らくそのゲーム自体から手を引かされる事になるだろうな。
逆に…自身の安全を考えればそれは最善の策にもなりうる。
今の時点で私に言えるのはそれだけだ。
大人の事情とお前の事情、それをよく考えた上で、お前がどう動くかの判断はお前に任せる』

言い返したかった…。
常に正義だと正しいと思って自身もそれを目標に精進してきた父親が、大人の事情で流される存在だと言うのが腹立たしかった。

が、それでもその大人の事情を自分にまで押し付けようとしない姿勢はありがたい。
ギリっと歯噛みをして、それでも電話を切る。

自分は…逃げない。
絶対に自分の力で仲間全員守ってみせる。

それでもキッチリと食事を取り片付けをすませ、その後午後の勉強を中断してネット犯罪についての資料を調べ始めた。


その夜、8時ぴったりにログインすると、タンジロウもいる。
なのでまず彼をパーティに誘う。

いつも早いタンジロウではあるが、今日は本当に8時とほぼ同時のログインで、もしかしたら…と思ったらやはり
『サビト、今日のニュース見ましたか?鈴木大輔って…』
『ああ、ゴッドセイバーだよな、たぶん』
と、そんな話になる。

そのやり取りの直後、今度はゼンイツがインしてきて、

「入れてっ!パーティーいれてええーー!!!」
と、叫ぶのに苦笑。

もちろんパーティの誘いを送ると、即入ってきては、

『殺されたの、参加者だよね?!参加者だよねぇぇーーー!!』
と、叫ぶので、
『ああ、鈴木大輔な』
と、答えると、
『なんで?!なんでそんな冷静なんだよ?!サビト、もしかして強い?!リアルでも強い?!!
と、さらに叫ばれて、その慌てっぷりにこんな時なのに笑ってしまう。

『ああ、俺は強いぞ。とりあえず柔道、空手、剣道は有段者だ』
と思わず披露すると、

『まじでっ?!まじでえええ~~!!!
俺、錆兎んちの子になるっ!錆兎と暮らす!!』
などといい出すので、完全に吹き出してしまった。

ゼンイツはどこまで本気なのかはわからないが、こういう時の反応がオーバーで面白い。
そんな2人のやりとりに、それまで黙って聞いていたタンジロウが

『あ、サビトも空手やってるんですね。俺もです。
このゲームが終わって安全になって、みんな気心もいい加減知れて会おうとなった時には、ぜひ組手の相手をしてください』
などといい出すので、ゼンイツがまた

『タンジロウ、お前もかあーー!!!
もう、安全になってからじゃない!今だよ、今!!
俺、タンジロウの家の子になるから、俺を守ってくれ!!!
と、叫びだす。

面白いがまあ話も進まないし…そうしている間にギユウも来たので、そのあたりでサビトは区切りをつけて、真面目に話をすることにした。

『とりあえずな、ゴッドセイバーこと鈴木大輔が殺されたのは、身元を明かしたからだ。
だから前にも言ったが、みな、不用意にゲーム内で自分の身元に結びつくような情報を口にするなよ。
住所とか名前はもちろんだが、最寄り駅とか、よく遊びにいく場所とか、直接関係なさそうな情報も、いくつか集まれば範囲絞り込まれたりするからな。
逆にリアルの周りにもこのゲームの話もするな。
全然関係ないあたりでも、そこからまわりまわってとんでもない所に情報流れたりするからな。
あとはそこまで馬鹿じゃないとは思うが主催とかを名乗る奴から呼び出しとか受けても慌てて飛び出すなよ。
自分から会社の方へちゃんと確認いれろ。
以上、自信がなければ、仲間内のパーティ会話以外は会話をするな』
と一通り説明する。


そんなことをしているうちに、いきなりゲーム内だけで見られるメールにあたる物、メッセージが来た。

送信者は…メグ。どんな相手だったかどうにも思い出せないので、とりあえず開いてみる。

【こんばんは。参加者の一人、ウィザードのメグです。
このメッセージは全員に送っています。
知らない方もいるかもしれませんが、今日同じく参加者の一人だったゴッドセイバー君が誰かに殺されました。
原因は断言はできませんけど、このゲーム絡みの可能性が高いと思います。
もしそうだとすると今後残った参加者にも危険が及ぶ可能性は充分あると思います。
そこで皆さん、8時~0時以外でも情報交換等ができるようにメールアドレスを交換しあいませんか?
了承して下さる方は私までメッセージでメルアドを送って下さい。
一応明日21時までにメルアドを教えて下さった方には、私を含めた送って下さった方々全員のメルアドをお送りします。】

『メッセ…来た?』
しばらく全員メッセージに目を通してたらしく無言だったが、ゼンイツが最初に沈黙を破った。

『ああ、俺のところには来ている』
『俺の所にもきてるよ』
『俺のとこも…』
全員に送ってると言うのは本当らしい。


『リアル関係がダメってことはこれもやっぱりダメ?
やっぱさ…8時から12時までだけじゃなくて、何かあったら相談したいんだけど、俺…』

一応直前の注意は覚えていたらしい。
ゼンイツがそう言う。

しかしこれは錆兎的には問題ないと判断した。

『ん~、これはいい。』
『ええ??さっきまで個人情報駄目って……』

『ただし携帯とか普段使ってるメルアドは教えるのはNGな。
適当なフリーメールとかでこのゲーム関係の連絡用にしか使わないいつでも捨てられるようなメルアド取ればいい。いわゆる捨てアドってやつ。
情報交換や連絡だけならこのゲームやってる間だけだし、それで充分。
あ、当たり前だけどメルアドに自分の名前もじっていれるような真似はするなよ』

『そっか~!そうだよなっ!そうすればいいんだ!!』
と、ゼンイツが嬉しそうにはしゃぐ。

『って事で今日ログアウトしたら全員捨てアド用意して、明日こいつのところに連絡な。
で、一応こいつからメルアド書いたメッセきたら、ちゃんとホントにメルアド配ってんのか4人で自分のメルアド言って確認するぞ。』

と、全員に対しての指示を与えたあとは、これもネット上では意思確認がしにくいギユウには別説明だ。

『じゃ、このあたりは重要なことだし、またギユウには説明するから、2人は金策でも素材狩りでもスキル上げでも適当にすごしておいてくれ。
キャラはこのままにしておくから、何か俺に言うことがあったら各々ウィスでもパーティ会話でもいいから言ってくれ』

そう2人には言いおいて、錆兎はスマホを手にとった。

ギユウは元々キーボードでのコミュニケーションは苦手だから反応は薄い方だが、今日は本当に反応が全くといっていいほどないのが気になる。

だからPCはそのままにギユウに電話をかけた。





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