なのに・現在人生やり直し中_哀する少女

ビイドロ、琥珀に金細工…絹の着物におるごおる…

その部屋はキラキラしたものに満ちていた。
年頃の娘だったら素敵だと思うであろうものを片っ端から集めてみせた。


なのに、可愛い可愛い、世界で梅の次に綺麗なあの子はそれでも嫌だと言う。
あの子がほしいものはたった一つ。
梅が知らない宍色の髪の男だけ。

世界で一番綺麗な梅がこれだけたくさんの宝物を集めても駄目だというのだ。

梅がどんなにそばに居ても、可愛いぎゆうは錆兎が恋しいと泣いて過ごす。
梅はそのことを悔しいと思うよりも悲しいと思う自分に腹が立つ。


結局梅も一緒に泣いて、それに見かねた兄が言う。

──そんなに言うことをきかない娘なら、いっそのこと食っちまったらどうだぁ?
と。

「そんなことできるわけないでしょっ!
ぎゆうはあたしのお友達なのっ!」

「じゃあ…帰れないように鬼にしたらどうだぁ?」

「それもだめ!ぎゆうに嫌われる。
あたしはね、ぎゆうに一番に好きになってもらいたいのっ!」

癇癪を起こす妹に兄は肩をすくめて黙り込んだ。


ぎゆうのいい人は顔に傷があるのだという。
そんな男のどこが良いのだろう。

傷なんてないほうが美しいに決まってる。
なのにぎゆうは錆兎はその傷も含めて男らしくてカッコいいのだと言う。

梅の方が綺麗なのに錆兎の方が良いというのだ。

綺麗な硝子のグラスで飲む水も全部涙で流れてしまうのではと思うくらいには、ぎゆうは泣き続ける。

ぎゆうはそんな傷のある男の側よりも、傷一つ無い美しい梅の隣にいるほうが絶対に似合うのに…。

青いはずの目が真っ赤にそまり、水以外口にしないのでふっくらとしていた頬がやつれてきた。

やつれても梅のぎゆうはやっぱり綺麗な子だとは思うのだけど…人は物を食わねば死んでしまう。



そんなぎゆうの様子は以前客にもらった子猫を思い出させた。

とても愛らしくて梅のお気に入りだったのだが、子猫はやはりどこかに行きたがっていつもみゃあみゃあ泣いて外に出たがる。

首輪をして綱をつけ、逃げないようにして、おもちゃも柔らかな寝床も思いつく限りのものを与えてやったけど、ミルクを飲まずに死んでしまった。

自分の綺麗なお友達があんなふうになるのは絶対に嫌だ…と思うのだが、梅にはどうして良いかわからない。
だって人間でいた頃のことなんて昔過ぎて忘れてしまった。
そして鬼になってからは他人の気持ちなんて考えた事がなかったのだ。

──綺麗な綺麗な…この世で2番め、あたしの次に綺麗なぎゆう。どうしてあたしじゃいけないの?

ぎゆうが泣くと梅も泣く。
綺麗な綺麗な黒髪を柘植の櫛で梳きながら、二人で声もなく涙を零す。

ビイドロ、琥珀に金細工…絹の着物におるごおる…

素敵なもので埋まった宝箱のような箱庭で、なのに幸せになれない少女たちは涙を零すのだ。


Before <<<      >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿