「おまえなぁ…普通こんな夜更けてから可愛い子なんて出歩きゃあしねえだろうがよぉ」
「だって、夜しか出歩けないんだから仕方ないでしょお!!」
太陽が完全に西に沈んですぐ、街にどこからともなく2つの影が現れた。
それもまったく対照的で、かたや目を瞠る程の醜い男で、かたや別方向に目を瞠るほどの美しい女。
だが、女のほうが男を”お兄ちゃん”と呼んでいるということは兄妹らしい。
「だいたい…女なんて遊郭内に腐るほどいんだから、そっから適当な女を友だちにすりゃあいいだろぉ」
と男が言えば、女が
「遊郭にいるような女じゃだめなのっ!この本みたいに良い家のむすめじゃなきゃぁ」
と、紐で閉じた冊子を振り回す。
それは昨今流行っているしょうじょ小説というやつで、女が持っているものは女学校に通う乙女二人の美しくも儚い友情を描いたものだった。
女はどうやらその真似事をして女友達を作りたいということらしい。
「しかたねぇなぁ…そんならどこかの館にでも入り込んで娘を攫ってくるかぁ…」
「わ~い!お兄ちゃん、大好きっ!!」
「…お前、現金だなぁ…」
兄に抱きつく妹。
兄の方はさあて、どのあたりに行こうか…と検討を始める。
そんな時だ。
前方からやや急いでいるような足音が聞こえてきた。
──こんな時間になっちゃったから、きっとしのぶがカンカンだわ
──でも…お土産を買ったから…
──たぶん…あの子はそれはそれ、これはこれって言う気がするわ
──…そう…では一緒に怒られよう…
どうやらまだ日が落ちたばかりなので、家路を急ぐ娘達なのだろう。
これで相手が妹のめがねに叶うほどの美しい娘なら…と思って足を止めると、なんとも美しい少女が二人。
「あの子がいい!お兄ちゃん、小さい方の子が良いわ」
と、幸いにも妹が気に入ったらしい。
兄をせっついた。
それを受けて兄が飛び出すと、少女二人が驚いた顔で目を見開いて、しかし抵抗される前にと兄は小さな方の少女を担ぎ上げる。
すると気丈にも大きな方の少女が
「ぎゆうちゃんを離しなさいっ!」
と、取り戻そうと駆け寄るが、片手で小さな少女を抱えあげた男にもう片方の手で頭を掴まれて持ち上げられた。
そうしておいて男は
「こいつも綺麗な顔してんぞ。お前、食うかぁ?」
と、妹を振り返る。
すると妹はふわりと兄の肩に飛び乗って、
「大丈夫よ。あんたの連れは助けてあげるからね」
と、小さな方の少女に綺麗な笑みを向けると、
「お兄ちゃん、その子は離してやって。
乱暴にしたらこの子に嫌われちゃうじゃない」
と、今度は兄にそう命じる。
「無理に連れてる時点で好かれてはいねえと思うが、まあお前がそう言うなら…」
と、兄は大きな方の娘を放すと、そっと両方の娘に手刀を落として気を失わせる。
そうしておいて、
「じゃあ行くぞぉ~」
と、少女を抱えて妹も肩に乗せたまま、夜の闇に消えていった。
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