誰とは言わないが、時透無一郎とか煉獄杏寿郎とか胡蝶しのぶとか胡蝶しのぶとか胡蝶しのぶとか…
それ自体は仕事熱心で結構なことだと言えるのだが、問題はその追い回している理由である。
「あなたの血鬼術はどういうものかしら?
幼児化?違う?!…じゃあ、幼児化をさせる血鬼術を使う鬼をご存知?
隠し立てすると嫌なことになってしまうかもしれませんよ?」
顔だけで食っていけると言われるほどには美しい顔に浮かべる笑みはさながら天女のようだが、まとう空気がすさまじく必死で恐ろしいと評判だ。
もしかしたら鬼の側でもあいつはやべえ!会ったら逃げろ!とでも言われているんじゃないだろうか…と、居合わせた隊士達からは噂されている。
何故彼女はそんなに幼児化をさせる鬼を追っているのか…
それは幼児となってとある館へ世話になる…そんな野望を持っているからだった。
その館とは水柱屋敷。
13の時にその幼さから1人で立つのは辛かろうと、お館様の配慮で鬼殺隊唯一の二人で一対の対柱として水の呼吸を扱う隊士の頂点に立つことになった鱗滝錆兎と冨岡義勇が主であるその屋敷。
そこが、秘かにご都合血鬼術にかかった柱のお預かり場所になっているということは、柱の間での公然の秘密である。
最初は時透無一郎が柱を拝命する直前に幼児化され、手を焼いた職員から預けられて、幼児の彼の世話をしながら血鬼術の鬼を狩ってもとに戻すという無茶振りをこなしたことがきっかけだった。
記憶を失っているせいか可愛げがなさすぎて職員が手を焼いたこの現在最年少の柱は、しかしこの血鬼術で幼児になった時期に世話をしてもらった対柱には随分と懐いて、今でも親代わりとして慕っている。
そんなことがあってそれからしばらく経って今度は霞と炎の両柱と一般の隊士の我妻善逸と3人揃ってやはり血鬼術で幼児にされた。
その時には対柱は遠方で任務中。
なので他の柱に任せようかと言う話になる。
しかし、この霞柱の時透無一郎が断固として自分の親は対柱だということで他の世話を拒否したので、急遽任務から呼び戻し、3人揃ってお預かりと相成った。
そして…快適だったらしい。
そもそもが柱としては古参の水の対柱は面倒見が良くて、新米柱の教育係としても人気であった。
件の最初の幼児化騒動の時に、本来は自分の教育係になる予定だった対柱がなし崩し的に無一郎の教育係になってしまったことを、胡蝶しのぶは今でも根に持っているくらいだ。
そう、姉が対柱の初めての後輩だった縁で自身が柱になる前から対柱の片割れを兄と慕っている彼女にとって、自分は一度も対柱邸で世話になったことがないのに、他の柱や隊士が次々と対柱に我が子という扱いで面倒を見られているというのは、実に納得がいかないことなのである。
ということで、彼女は現在、自分も幼児となって対柱邸でのお子様生活を満喫すべく、絶賛幼児化血鬼術を持つ鬼を求めて爆走中というわけだ。
なにしろ2回も世話になった無一郎などは、普段でも
「母さん、今回の任務、僕すごく頑張ったんだよ。それでやっと終わったんだ。
だから家でご飯食べていい?」
などと平気でやらかす。
それに対して、
「ああ、いいぞ。
よくやったな、無一郎。
今日は泊まっていくか?」
「うん!」
「錆兎、今日は無一郎の好物を…」
「ああ、じゃあふろふき大根だな」
などというやりとりがそれに続き、当たり前に対柱の2人に囲まれて水柱邸に”帰っていく”のだから、羨ましさ、妬ましさはひとしおだ。
…私の…私の兄さんに好物を把握されてて、作ってもらえるなんてっ!!
悔しさに拳を握りしめながら、しのぶは今日も鬼を追いかけ続ける。
そんなある日のことだった…
しのぶはついに見つけたのだ!
”若返りの血鬼術” を使うという鬼を!!
任務先で噂を聞いて、即駆けつける…つもりだったのだが、その途中で運悪くご機嫌で買ったばかりなのだろう大根を抱えた、どこぞの天然ドジっ子に出会ってしまった。
「胡蝶、ずいぶん急いでるな。任務か?」
と聞かれるのに答える間も惜しい。
鬼に逃げられたらまた探し出さねばならない。
だが、ここで答えねば空気の読めない天然ぽやぽやは問いが聞こえなかったのだろうと、何故か聞こえるまで問いかけて答えをきかねばならないという謎の使命感に駆られておいかけてくる。
絶対に来る。
似たようなタイプの姉カナエとずっと一緒にいる経験上、予測できてしまう。
なのでしのぶは端的に
「急ぎです!」
と、答えたのだが、それはまずかったのだと瞬時に知ることになる。
「…そうか…」
と、何故か並走するぽやぽやさん…wifh大根。
「…なんでついてくるんです?」
「急ぎだと言うから(よほど緊急に倒さねばならないほどの鬼なのだろうし、それなら人手があったほうがいいだろう)」
「意味わかりませんっ!!」
言うべきことのほとんどを略してしまうこの男の真意など知ろうと思っていたら鬼に逃げられてしまう。
結果…しのぶは理解することも相手をすることも諦めて、義勇のことは居ないものとして現場である北西の山の麓にひた走った。
そして…これが大失敗だったのである。
鬼を見つけた!さあ、血鬼術だ、幼児化だっ!!
…と、そう張り切って血鬼術をくらおうとした瞬間、かばわれた…ぽやぽやさんに……
「なにをしてるんですかっ?!」
と、ふわふわと舞う煙に向かって叫べば
「お前は俺達の初めての可愛い後輩の妹なんだから…鬼の攻撃をうけさせるわけには……わけには…??」
と、途中で気づいてさすがに混乱する声。
もちろんしのぶも唖然とする。
高く愛らしい声…だが、それは幼児のものとはまた違う。
煙が散れば現れたのは絶世の美少女。
おそらく14,5才くらいだろうか…
長めの黒髪はさらに少しばかり伸びて背中のあたりまで。
肌は新雪のように真っ白で、青みがかった大きな目はいつもにもまして大きく見える。
それを縁取る豊かなまつげは瞬きすれば音がするのではと思われるほど濃く長く、くるんと綺麗なカーブを描いていた。
頬はまだ丸みを帯びて小さな唇は紅をさしているわけでもないのに綺麗な桜色。
…ああ、義勇さんて…愛らしい顔立ちしてたんですね……
と、しのぶは遠い目をする。
義勇本人はまじまじと自分の胸を触ったりして何かを確認。
そして最終的に顔を上げて言った。
「胡蝶…女になっている」
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