だから・現在人生やり直し中_旅館小咄

素晴らしく豪華な夕食を堪能した後、2人は部屋に付いている露天風呂を堪能する。

青みがかった夜空に浮かぶ白い月。
そしてその月の明かりに浮かぶ義勇の裸体。


狭霧山に居た頃からずっと見慣れたその身体には、今でも傷一つない。
全面に立って斬り込んでいく錆兎の身体にはあの頃の倍は傷が増えたが、それだけ必死に死守したおかげで義勇の玉の肌には変わらず傷一つないのである。

月夜に映える白い肌、まさに絶景。
と、そんなことを考えている錆兎の横では、義勇が

「…早くあがろう…」
と、珍しく腕を取って急かす。

「何故?せっかく旅行に来たのだから、急ぐこともないだろう?
俺はもう少し月明かりに照らされる義勇の白い肌を堪能していたいのだが…」

と、言うと、真っ赤になって抗議されるかと思いきや、義勇は全身赤くなったはなったが視線をあわせることも出来ない…といった風に恥ずかしげにうつむいて…

──…また…邪魔が入ったら嫌だから…なにしろ数ヶ月ぶりだし……したい……
と、消え入りそうな声で言う。

うん、可愛い。とても可愛い。
だが、今なぞの言葉を聞いた気がした。

「数カ月ぶりって?
俺が任務に出る前の休日前夜もシただろう?」

確かに直前の錆兎の任務は3日がかりのもので、その後に義勇を回収、自身の絶対安静の入院3日と、1週間ほどはできていないが、数ヶ月はないだろう…そう思って聞くと、義勇は目を丸くした。

「だって…向こうの世界に飛ばされた時はちょうど炭治郎が柱合会議に引き出された時で…そのあと今回の上弦の参との遭遇があって、錆兎が迎えに来たのは、さらにしばらくたって…次の大きな任務の時だったから…」

「それは…確かに数ヶ月経つな。
俺は任務から帰ってすぐに迎えに行ったから、お前が飛ばされてこちらでは1日しかたっていなかったんだが…」

「そう…なのか…」

「うむ。…それじゃあ………」
と、錆兎は義勇を引き寄せて、

「こちらは…どうしていたんだ?」
と、意味ありげにその身体に触れた。

男ならば溜まるものは溜まるだろう…と、その生理的なものは仕方ないとは思いつつも、若干の嫉妬のようなものを感じるのは仕方ない。
幼い頃から自分以外に触れさせた事がないのだから…

相手が女でも男でも妬けることは妬ける。

そう思っていると、義勇はさらに耳まで赤くなって、消え入りそうな声で言った。

──錆兎が…迎えにきてくれるまで…戻れるのか不安すぎてそんな気にならなかった……

「はあ??」

いやいや、成人男子としてそれはおかしいだろう?
それはそれとして溜まるだろう?
とは思うものの、かと言って義勇が嘘をつくようにも思えない。

「そもそも…錆兎にしかされたことがないから…よく…わからない……」

自分で自分を抱きしめるようにそういう義勇は確かに同年齢のはずなのにどこかいとけなく、そのくせそれが壮絶に色っぽい。

だめだ…このままでは本能のままに襲う。
絶対に襲う。

耐えろ、錆兎。お前は男だろう!
そう思いながら、錆兎は言葉を必死に探した。
そして言う。

「む…向こうの世界の俺に…とか……」

苦し紛れの言葉だったが、考えてみればありえなくはないのか?
と、そう思うと、相手が自分だと言うのにまた嫉妬心が湧き上がる。

しかし義勇は曇りのない眼を錆兎に向けて問うた。

「錆兎は…もし今回の俺のように別世界の俺が来たら、俺とは別にそいつを抱くのか?」

言われてはっとする。

「いや…”俺の義勇”はお前だけだから…抱かないな…確かに」
と錆兎が即答すると、

「そうだろう?俺も同じだ。どれだけの世界に何人の錆兎がいようとも、俺と共に生き、俺と共に戦い、俺を抱いて、俺と共に死ぬ…俺の半身は、今ここにいる”俺の錆兎”だけだ」
と、義勇は初めてふわりと笑って腕を錆兎の首に回して抱きついてきた。

そうして甘えるように肩口に頭を擦り付ける。

「もし…何かまかり間違って錆兎に先立たれて、それでも何かの事情があって俺が死ぬことができなかった時に、他の時空で他の俺と生きている錆兎をみかけても、俺の錆兎ではないと気づけばそれは俺にとっては錆兎に似た誰かであって錆兎ではない。
俺の錆兎ではないから、欲しいとは思わない。
だから…俺を幸せにできる俺の錆兎はお前だけだから…絶対に俺より先に死なないでくれ」

風呂の湯よりも温度の低い何かが錆兎の肩口を濡らしていく。

可愛い、愛しい、なんて健気な恋人だろうか……


──…すっかり…冷えてしまったな…
慰めようと触れた義勇の肩がひんやりと冷たくなっていた。

少し湯に浸かれとそのまま肩に置いた手に力を込めると、義勇はゆるゆると首を横に振り、

──これから…錆兎が閨で温めてくれれば良い…
と、また錆兎の腕を取って立ち上がった。

──…いや…か?
と、聞かれて、ここで頷く馬鹿はいない。

──…お前が望むように…存分に温めてやる

ザバっと湯音をたてて立ち上がると、錆兎はそのまま義勇の手をひいて湯船を出ると、そのまま自らの身体と共に義勇の身体を拭いてやり、その後は思う存分…熱を分け与えて朝を迎えたのだった。

そうしてそのまま2日目の晩には白い身体に散る花びら。

──季節外れの夜桜見物のようだ…
と、酒の杯を手に笑えば、

──…すけべ…
と、義勇に手ですくったお湯をかけられて、せっかくの銘酒を駄目にしたことは良い思い出である。





0 件のコメント :

コメントを投稿