だから・現在人生やり直し中_帰還…そして埋め合わせ

義勇を迎えに行っただけのはずが、そこでまた宇髄の毒抜きなんてことまでやっていたので、当然のごとく錆兎はキャパシティオーバーで倒れた。

もちろん今回はある程度覚悟と準備をしていたので、それでも入院は3日間。
当たり前に運び込まれる予備のベッドが2つ。


「なあ、なんで毎回俺も一緒なの?!」
と叫ぶ村田と

「3日間、ずっと錆兎とゆっくりできるな」
と、ご機嫌の義勇。


そんな二人を放置で錆兎が対峙しているのは土下座5人組

もう本当に疲れるだけだからやめてくれと言いたい。
心の底から言いたいのだが、それを言ったらさらに追い詰められてすくい上げるのに一苦労しそうなのが数人いるとなると、それも言えない。

怒れない…でも

「別に怒ってもいない。もう良いから忘れて切り替えろ」
と言っても、このままでは申し訳なくて切り替えるなんて無理だと泣かれると、ならどうしろと言うんだ?と投げ出したくなった。

自分が後輩を甘やかしすぎたのか?そうなのか?
と、ため息をつきたくなる。

何か埋め合わせをと言われても、大抵のことは後輩達よりはできてしまうので必要ない。

…村田…何かないか?
と、そこでアイコンタクト。困った時の村田頼み。

こういうメンタル面の問題で悩む時は村田か宇髄に投げることにしている錆兎ではあるが、土下座衆の1人に宇髄がいるので、ここはもう村田しかいない。


相手は柱4人と医療所の責任者。

これ…おかしなこといったら俺すごくやばいことになるんじゃない?と、哀れ村田隊員は頭を抱える。

しかしもう水の対柱と同期にして重要な局面にほぼ毎回居合わせている時点で、とばっちり人生は決定されているようなもので、不本意ながら慣れてしまった。

「う~ん…3日ほど余分に休みもらってさ、義勇と旅行でも行かせてもらえば?
その間の錆兎と義勇の任務は4人にまわしてもらうってことで…」
と、非常に適当な事を言ってみれば、鬼殺隊の柱の代表格、みんなの憧れの水の対柱に

「村田っ!お前は天才かっ!!!」
と、大絶賛される。


柱4人は明らかにホッとした顔。

「じゃあ、私はお宿の手配をしますねっ!」
と、請け負う元花柱、現医療所所長の胡蝶カナエに

「休暇交渉なら俺に任せとけ!」
と、駆け出して行く音柱。

残りの3人も、仕事の交代要員ならいくらでも…と請け負って、あれよあれよという間に案が採用されていた。


こうして3日は入院、その後1週間の休みが取れることになって、思いがけず鬼殺隊に入隊後8年にして初の長期休暇に任務には全く関係のない遠出の旅行と相成ったのである。


…そう……予定では…だが……



考えてみれば錆兎と二人きりで旅行など、7歳の時に鱗滝先生の所に引き取られた時に知り合ってから14年間経つが、初めてのことだ。

任務のための旅行もどきのようなものはあったが、それは宇髄だったり無一郎だったり、あるいは村田や他の後輩達だったりと、誰かしらが一緒だった。


血鬼術で飛ばされた世界から戻ってきて、錆兎の体調が回復するであろう3日後を目指して、義勇は支度に勤しむことにする。

そう言えばいつも任務任務で外ではほぼ隊服だったので、よそゆきの服なんて持っていなかった気がした。

強いて言うなら錆兎と無一郎とで家族を演じた時の青地に白い花をあしらった着物とか任務で用意されたものくらいだが、それらは皆女物だ。さすがに駄目だろう。

と、錆兎の病室の自分のベッドの上でそんなことを考えながら百面相をしていると、

「どうした?」
と、錆兎に聞かれたのでそのことを言うと、
「う~む…今から仕立ては間に合わないかもなぁ」
と、錆兎も考え込む。

「錆兎、お前は?隊服以外持ってるの?」
と、そこで村田が聞くので、錆兎はうなずいて言う。

「ああ、潜入任務のたび用意されるからな。
自分で言うのもなんだが、かなりの服持ちだぞ、俺は。
ただ、体格が違うので義勇に貸せない」


そう、錆兎は様々な任務で中心的な役割を担う事が多いので、その場所場所にあった服を用意されるのだが、そういう時は義勇はたいてい裏方か、二人で表に出る時はたいてい女性役になることが多く、用意される着物も自然と女性の物が多くなる。

まあ…長期休暇で泊りがけの旅行に行けるという事自体が贅沢なことで、その時の服装など贅沢な悩みではあるので、村田はもうバカバカしいと言わんばかりに

「いいんじゃないの?もうその女物の着物でもさ。
お前らは二人でゆっくりすることに意義があるんじゃないの?」
と、ぐしゃぐしゃと頭をかく。

「いや…そうなんだが、さすがに潜入捜査でもないのに女装は義勇だって楽しめないだろう?
なんとか急ぎで仕立てられないか、聞いてみるか…」
と、それに錆兎が言うと、義勇は

「いや、俺は全然構わないが、錆兎が嫌だろう?」
と、あっけらかんと言う。

「は?」
「俺は…姉が健在だった頃は姉のお下がりとかを戯れに着せられたりしてたから女物の着物も全く抵抗はないが、錆兎が任務でもないのに女装の男など連れて歩きたくないだろうから…」

どうせなら二人共楽しく過ごせる旅行にしたいのだ…と、主張する義勇に、村田と錆兎が顔を見合わせて、そして同時に大きく息を吐き出して肩を落とす。

「大丈夫。お前、女装したらそんじょそこらの女じゃ太刀打ちできない美女だから」
と、村田が

「心の底から安心しろ。
綺麗に着飾ったお前の横を歩きたくないなどという馬鹿な男はこの世には存在せん。
この俺も含めて…な

と、錆兎が言った言葉が、現世の歴史を大きく動かすことになることを、まだ3人とも知る由もない。



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