だから・現在人生やり直し中_迎え

義勇はいわゆるピンチだった。

前世では宇髄が受け持った潜入捜査。

普通のことなら忘れてしまっているそれも、宇髄が引退するきっかけとなったものだけにさすがに覚えている。
…というか、途中で思い出したというのが正しい。



遊郭に潜入するため、実力はそこそこあって体格もそこまでよろしくない義勇に白羽の矢が立ったのは自然の流れだった。

花魁として潜入。
もちろん女ではないわけなので、客は情報収集がてら太客として宇髄と不死川がつく。
そうこうしているうちに鬼の正体が割れ、それが上弦の陸だとわかり戦闘になった。

そうして義勇は思い知る。
前世よりもかなり筋力が落ちていて、上弦レベルだと本当に首を斬ることができない。

今まで不死川とついた任務で下弦まではなんとか斬れたが、長年防御に徹した使い方をしてきた義勇の筋肉は、敵の攻撃を防ぐということは出来ても、攻撃に対してはかなり適正を欠いてしまったことに、それが必要になったまさに今気づいて、義勇は青ざめた。

そうして相手が上弦だとわかり、義勇が首を斬るということに関して戦力にならないと瞬時に判断した不死川は、義勇に撤退するように指示をする。

だが撤退のタイミングなど2体に分かれた上弦の前に図れるはずがない。

敵は毒を使ってきていて、宇髄はそれに侵されつつ、しかも片腕を斬り落とされ、不死川はなんとか弱い方の妹の首を斬るも、同時に斬らねばならない兄の方はあまりに強くて、1人では首を斬るどころではない。


斬った妹の堕姫の首が胴体と再度合体しないようにそれを抱えながら、不死川がそれでもこちらに走って来てくれるが、義勇の目の前には上弦の兄の妓夫太郎の鎌が迫っていた。

妓夫太郎の攻撃も凪で何度か受け流しているが、体力も何もかも無尽蔵な鬼と違い、こちらは徐々に体力を削られていく。

唯一可能性があるとすれば、義勇が堕姫の首を持って逃げ、不死川と宇髄で連携をして妓夫太郎に対峙することなのかもしれないが、それも今のこの状態では無理だ。

どれだけ凪で受け流したところで、勝ち目はない。
自分は錆兎に会えないまま死ぬのだ…。

怖い…と義勇は思った。

前世では死ぬことなど怖くなかった。
でもせっかく錆兎と一緒に生きるという選択肢を与えられた今生で死ぬのは怖い。

こんな風に錆兎のいないところで死ぬのは寂しくて不安で悲しくて怖い。

「…さ…びと……錆兎おぉぉーーー!!!!」

ひどく長く続いた戦闘にもう体力は限界で、義勇は無駄なのはわかっていても、泣きながら半身の名を叫ぶ。

迫る紅い鎌。


しかしそれは何故か義勇に届くことはなく、夜空に舞ったのは妓夫太郎の紅い血だった。

夜の闇を青白く染める波打つ水しぶき。

──迎えが遅くなってすまなかった。帰るぞ、義勇

まるでおとぎ話の勇者のように月を背に手を差し出してくるのは、誰よりも会いたかった義勇の半身。

おそるおそるその手を取れば、冷え切った義勇の手をその大きな手でしっかりと握った錆兎はぐいっと義勇を自分の方に引き寄せて、しっかりと抱きしめてくれた。

力強く温かい腕の中、号泣すると、錆兎はいつものように義勇の背をポンポンと軽く叩いてなだめてくれる。

──さびとぉぉ
──なんだ?

──遅いっ!…怖かったんだ…
──ああ、すまなかった。

──…錆兎に再び会えないまま死ぬのかと思った…
──…それは…俺も怖い。間に合って良かった。

──…絶対に探してくれるとは思ったけど……
──当然だな。俺がお前を諦めるなど天と地がひっくり返ったとてありえん。

──…うん……


そんな風に言葉を交わしてそこに錆兎の存在をしっかりと認知してようやく落ち着いてきた。
もう錆兎がいないところで死ななくても良くなったと思うと、それだけでホッとする。

──会いたかったんだ……
と、訴えれば
──知ってる。だから迎えに来た
と、瞼に口付けられ、その後

──さあ、帰ろうか…
と、本当に優しい声音で言われて力が抜けた。




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