だから・現在人生やり直し中_義勇、時空を超える_3

そして…会議後……

産屋敷邸も街並みも何もかも自分の前世、そして今自分が生きている現世と変わらないことを自らの目で確認しつつ義勇は不死川のあとをテチテチとついて歩いていた。


そしてキョロキョロと辺りを見回し、たまたまいつも任務の時に買っていく団子屋を見つけて、そんな時でもないのについジ~っと目で追ってしまう。

すると前を歩いていたはずの不死川が後ろに目でもついているかのようにつと立ち止まって
「団子…欲しいのかァ?」
と、振り返った。


不死川にしてみれば、おはぎ好きの自分は棚にあげつつ、

21の男が団子欲しいとかねぇよなァ。
しかもあの何考えてるかわかんねえ、スカした冨岡だしなァ…

などと思いつつ言ってみたわけなのだが、振り向いた先の、自分よりも頭1つほど小さい別世界から来たらしい水柱は、なんとも嬉しそうに目をキラキラさせてるではないか。

冨岡義勇はもともと綺麗というか可愛らしい顔立ちをしていたのだと、不死川は大変不本意ながらもこの時気づいた。

そしてそんな不本意な居心地の悪さを吐き捨てるようにため息を付くと、団子屋に入って団子とおはぎを買ってその包みを義勇に渡してやって

「おら、行くぞ」
と、また歩き始める。

すると小走りに実弥の前に回り込んだ義勇が
「実弥、ありがとうっ!」
と満面の笑みで包みをかざした。


──兄ちゃん、ありがとう!!

昔、町で色々な店の手伝いをしてもらったわずかばかりの駄賃で安い駄菓子を買ってやった時に、弟や妹たちがこんな顔で笑ってたなァ…と、不死川は柄にもなくそんなことを思い出す。

今では一人を抜かして全員死んでしまって、その一人残った玄弥に対しても本人のためを思って鬼殺隊をやめさせなければと突き放し中なので、もう自分にこんな笑みを向けてくる奴は誰もいないのだが…

本当に…あの頃と違って、柱になってそれなりに高い給金を得るようになった今なら、あんなちゃちな駄菓子じゃなく、団子だろうと、それこそ高価な甘いカステラだって食わせてやれるのに…と、考えても仕方のないことばかりが不死川の頭をよぎる。

昔の記憶は思い出すと寂しくて悲しくて切なくて…でも逆に心の奥がほんのり温かくなりもした。

不死川はそんな幼かった弟や妹を思わせるような顔で礼を言う義勇の頭をくしゃりと撫でて、
「思いがけず時間をくったし、夜になると面倒だからなァ、急ぐぞォ」
と、思い出を振り切るように足を早めた。



家に帰ってからもそんな印象は変わらない。

不死川が知っている冨岡義勇と違って、こちらの義勇は素直な弟オーラ満載だ。

何が面白いのかわからないが、足を踏み入れたことのない風柱屋敷に興味津々で、好きに寛いでおけと言い置いて不死川が隊服を着替えに行って戻れば、本当にあちこち物珍しげに見回っている。

それがまた、好奇心に駆られた小さな子どものような表情で、注意する気も失せてしまった。

そうして寝に帰るだけだったはずの家で、それでも自分だけではなく義勇もいるとなれば食事を摂らせてやらねばならないと、不死川は久々に自炊すべく竈に火を入れた。

私的な付き合いなど皆無なのでこちらの冨岡はどうなのかは知らないが、少なくとも目の前にいる義勇はそんな食事の支度を手伝いたがるわりに、いっそ感動モノの不器用さで料理ができないようなので、取り皿を運ばせたりテーブルを拭かせたりと、まあ失敗することはないだろうし、何かで失敗しても対して問題がなさそうな事を手伝わせてやる。

すると、なんだか楽しげにやって、できた事を得意げに伝えに来るあたりが、幼かった弟や妹を思い出させた。

そんな風に夕飯を作って食べさせて食後。

お茶を飲みつつ少し話を聞いてみると、義勇の口からは自分の世界の柱達の事が色々語られる。
あちらの世界では自分も煉獄も義勇に随分と優しかったようだ。

そりゃあそうだろう。
こちらの義勇はまあ…可愛いと思う。

こう言ってはなんだが、自分だってこの義勇とならそれなりに上手くやっていける気がした。
実家の弟達の面倒をみているような気持ちになる。
というか、何をどう育てばこんなに中身が変わるものなのだろうか…。

そう思った時に浮上してくるのが、錆兎という男。
とにかく強くて優しくてカッコいいのだ…と、義勇が嬉しそうに語る相手。

それは例えば子どもが尊敬する父親や憧れるおとぎ話の主人公を語るのに似た無条件の信頼と言った風でもあるので少しは誇張があるかもしれないが、それを考慮に入れて物理的な事実だけ見たとしても、13歳の初任務で下弦を倒して柱入りというのはすごい人物であることは間違いないだろう。

とどのつまり、そういうすごい人物が側に居れば、もともとはこんなふうなぽやぽやした性格だったということなのか。

これがあれになるくらいだから、本人的にはその錆兎という男の死というのは人生がひっくり返る勢いで大変なことだったんだなと、不死川は納得した。
納得せざるを得なかった。

なにしろ別に死んでいるわけではない、この義勇がいた世界で確かに錆兎が生きていたとしても、この義勇は親から引き離された子どものようによく泣く。

おいおい、大丈夫かァ?
お前は俺と同じ21歳だったんじゃないのかァ?

と、呆れるほどに、このまま帰ることができずに錆兎と会えなかったらどうしよう…と、さめざめと泣くのだ。

こりゃあ預けた相手が自分で正解だ…と、不死川は思う。
普通、どこか幼女じみた雰囲気の推定年齢21歳に保護者(?)が恋しいと泣かれたら、泣かれた方が動揺する。

が、幸いにしてというか、あいにくというか、不死川は下に沢山の弟妹がいた長男なので、そういう時にどうするべきかはなんとなくわかってしまうのだ。

「あ~…大丈夫だァ。
俺もすぐ泣く弟妹がいたから言うけどなァ…そういう相手がどっかで迷子になってるとなりゃぁ、こっちは必死に探すからなァ。
きっとお前んとこの錆兎も今頃必死に手ェ打ってるから、そのうち迎えにくんだろォ」

「…ほんと…に…?」
ひっくひっくとシャクリを上げながら心細げにみあげてくるさまは、絶対に同い年の男には見えないが、もういいか、こいつは迷子の幼女だ…と不死川は思うことにした。

そう、そう思うことにして頭を撫でる。

「おぉう。絶対に諦められたりしねえから、安心しろォ。
それまではここで俺が面倒みてやるからなァ」
と言うと、クスンクスンと鼻を啜りながら頷く義勇が不死川の中で小さな弟妹と完全に重なって見えてきた。

ああ、確かに幼子は可愛い。
これは絶対に親元…もとい錆兎の所に返してやらねばならない。

それまではまあなんとか死なせないように、守ってやらねばならない。
どう見ても強そうには見えないし…本人の申告通り1人で任務に放り込んだら秒で死にそうだと、そんなことを思ってみたのだが………



翌日には入った2人任務。

1人で置いていくのも心配なのでというだけで一緒に連れて行ったのだが、なんとも意外だった。
いや、強いのかと言われると謎なのだが、連れていると驚くほど戦いやすい。

なるほど、13の初任務で下弦を倒すようなやつの補佐をしているだけある。
そんな奴に来る任務なら当然難関なものばかりだろうし、そんなものに同行するのに、ただ連れ歩かれて守られているだけのはずがなかった。

攻撃…という意味では普通よりも若干強いくらいなのかもしれないが、防御の鉄壁さがとんでもない。
敵の攻撃がほぼ不死川に到達しない。

防御を全く気にしないで、ただ斬り捨てるだけに集中できるというのは、ある意味快適で爽快だ。


そうして任務を終えると帰り道には行きにどうしてもとねだられて買ってやった団子を頬張りながら歩く。
それが別世界から来たこの義勇の習慣らしい。

不死川も一緒に齧ってみたが、存外に悪くはない。
疲れた身体に糖分が染み渡る。


自宅では泣く子を慰めるために相手も絶対に手を尽くしているはずと言い切ったが、これはなんというか…単純に保護者というわけでもなく色々な意味で相手にとっても必要で、今頃必死に手を打っているのだろうと、不死川は思った。

そうしてそれは実際事実なわけで……義勇が生きていた世界の方では、義勇が飛ばされたことでそれはそれは大騒ぎになっているのである…。



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