「うむ…わからん」
「え??なにそれ??」
「結界が張ってある」
「えっと??つまり黒ってこと?」
「とは限らん。
聖だけではなく、邪に対しても、とにかく人としての通常の感覚以上のものを全て抑える結界が張ってあるから、単なる外からのあらゆる攻撃に対する備えで、自衛のためという可能性もある。
だてに大名華族ではないな。陰陽道に通じたものを雇っているのかもしれん」
「え~っと…よくわからんわ。
わかりやすく言うと?」
「特殊能力持ちはその力はほぼ使えんからそれに頼るな。
己が磨き上げて得た力だけで判断して、必要とあればそれのみで戦え」
「うぁああ」
初公演から1週間ほど経った頃、とうとう例の館からお呼びがかかった。
そしてまずは主要な役者達の顔見せと挨拶のための酒宴が開かれ、その後、日を開けてお屋敷の舞台で公演をするという話になって、現在6人でとりあえずはと、大邸宅の居間に通されている。
そこでヒソヒソと錆兎と村田の間でかわされている会話に、善逸は青ざめた。
「あの…それってすごく危険ということです?」
と、思わず口を挟むと、それまで村田には淡々と話していた錆兎が、ニコリと笑みを浮かべて振り返った。
「いや?もしここが鬼の巣窟だとしても、数がわからんだけでやることはいつもと変わらん。
単に事前準備を出来るか出来ないかというだけだ。
それで面倒になるのは仕切る俺だけで、お前たちは自分が出来る範囲で刀を振るえばいい。
ある程度の緊張感は常に持つべきだが、あまり緊張しすぎても疲れるだけだぞ」
などとにこやかに言う姿は、柱と呼ぶのにふさわしいくらいに頼もしい。
本当にこの人に従っていれば全て大丈夫、問題なしという気分にさせられる。
圧倒的安心感、どこまでも付いていきます!という気持ちになったのだが、それも束の間、
「失礼いたします。
これから主にお会いになっていただきますが、その前にこちらで用意いたしました衣装に着替えて頂ければと思います。
一応皆様の舞台の衣装を模したものをご用意いたしました。
主はなにぶん高貴な方ゆえ敵意を持つ者も多く、主自身の、そして皆様の安全のためにご協力のほど、お願いいたします。
更衣室は3部屋用意いたしましたので、お二人ずつお着替え下さいませ」
と、しばらくして部屋に入ってきた使用人がうやうやしくそう告げた。
衣装を運び込んである関係で部屋割りまで決まっていて、告げられる。
錆兎と炭治郎、村田と伊之助、そして善逸は義勇と一緒だ。
そうして使用人がまた礼をして出ていってからの善逸の第一声…
「い~や~だあぁぁ~~!!!
錆兎さんと離れたら誰が俺を守ってくれんの?!!
無理っ!!絶対に無理っ!!
俺も錆兎さんと行くっ!!
部屋の片隅で良いからっ!!
もうほんっとに片隅でいいからあーー!!!!」
泣きわめく善逸に、苦笑する錆兎と村田。
伊之助は我関せずで、炭治郎だけがそれをなだめにかかった。
「大丈夫、本当に着替える間だけだから」
「炭治郎、お前は良いよなっ!
男役でお姉さんたちの熱い視線を独り占めで、おまけに危険な場所では柱と一緒だ!」
「…いや、だって決められてしまっているのだからしかたがないだろう?
それにほら、大丈夫。村田さんと一緒の伊之助と違って、義勇さんだって柱だぞ?」
「…錆兎さんがいい…っ……」
と、それでも泣きわめいていると、
「…俺では…だめか…」
と、しょんと義勇が肩を落とす。
「ああ~!ほら、義勇さんが落ち込んじゃったじゃないかっ!
義勇さんだってすごく強いんだぞ?
この街にくる道々、善逸だって見ただろう?
あんなに強い義勇さんで落ち込んでいたら、村田さんと一緒の伊之助なんてどうなるんだ?」
「俺は問題ねえぞ!なにしろもうすぐ鬼殺隊最強のあにきを超える男だからなっ!!
村田の一人くらいきっちり守ってやるからなっ!!」
と、名前が出たことで伊之助までそんな事を言い出して、
「え?え?もしかして俺、後輩達に思い切り落とされてる??」
と、さすがに村田もまた苦笑。
もう収拾がつかないとみたのだろう、ここで錆兎が沈静化に乗り出した。
「我妻、村田に聞いたかもしれないがな、単純に守るということだけなら義勇は強いぞ?
間合いに入った敵の攻撃を全て無効化する技を使える。
一方で俺が守るということは、敵の攻撃から防御してやることではない。
攻撃が来る前に自分が叩き潰すという方法だから、自分の方で巻き添えになるほどには近くはなく、かといって俺の攻撃から漏れた敵の標的になるほどには遠くない絶妙の距離を取っておかないと、安全は確保できん。
だから守られるという事だけなら義勇と一緒にいろ」
「え?え?ほんとに?ほんと~に、敵の攻撃を無効化できんの?!」
と、現金なもので善逸がそう言って目を輝かせれば、炭治郎もここぞと
「ああ、俺も下弦の陸との戦いで、敵の糸を全部無効化しているのを実際に見たぞ」
と、大きく頷く。
「い…行くっ!おれ、義勇さんと行くよっ!!」
と、そこでようやくその気になる善逸。
こうしてなんとかそれぞれに落ち着いて着替えのために分かれることになった。
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