それでも・現在人生やり直し中_任務・先陣決死隊_2


こうしてなんとかかんとか残り3体を倒した帰り道。

「いつもより今日の戦闘は数倍キツかっただろう?」
と、一歩前をあるく錆兎の言葉に、実弥は不本意だが頷いた。


確かにきつかった。

「今までなら敵の反撃までにもう少し間があった
一体一体順に倒す余裕があった
場所選びすら失敗して、なんだか攻撃を避けにくかった
そんなところだろう?」
と、それに錆兎が当たり前に言う。

何故それを?と思って顔をあげると、錆兎は相変わらず振り向くこともせず、ただ前を歩きながら続けた。

「それは胡蝶がいたからだ
お前が余裕がなくて気づかなかっただけで、胡蝶も戦っている。
お前が安心して前に出られるように、お前の動きを妨げないように、些末なことでお前が怪我を負わないように、最新の注意を払って守ってるんだ
俺にとってはそれが義勇なわけだがな。

お前は俺のことを強いと言ったが、俺は同時に柱の中でも随一くらいに脆い
所詮人間1人で持つ能力の上限なんて限りがあるからな。
俺はそれが攻撃という方向に特化してる分、防御に回す分がほぼないと言っていい。
それを義勇がいつも隣で当たり前に守ってくれていたから今こうして生きているが、1人で戦っていたらとっくに折れて死んでいる。
だからお館様は俺だけじゃなく義勇を一緒に柱として下さったんだ。

そのあたりバランスよく出来ている宇髄や悲鳴嶼さんはすごいと思うけどな。
俺が今更それを目指すと、攻撃が著しく落ちて中途半端になるから。

まあ今回みたいに何かで1人で戦わないとならない時は、それでもぎりぎりなんとかするしかないけどな。

お前もなぁ…今は敵が絶望的には強くはないからぎりぎり身を削る戦いでも生きてこれたのかも知れないけど、いずれそれでは行き詰まる時が来る。
そういう時にお前を助けて生かしてくれるのは、たぶん胡蝶のように守る方向の戦いを得意とする仲間だ。

だから俺達のように攻撃に傾いている人間は、そのあたりには気を使った方がいい。

守りがあっての敵の撃破だとしても、お前がそう思ってたように、周りの目には倒したやつしか映らないからな。
でも守ってくれたやつは止めを刺したやつ以上に気を張り詰めて彼らなりの戦い方で戦っているんだから、守られている自分くらいはそれに感謝しないと相手だって浮かばれない」

そんな話をしながら、錆兎はやっぱり振り向きもせず、何かの包みを後ろ手に投げて寄越す。

「これは義勇からだ。
胡蝶と一緒に慣らしに出ていた頃、義勇が胡蝶のためにお疲れ様ということで毎回買っていた団子でな。任務のあとにはいつも3人でこれを食いながら帰った。
胡蝶の好物なんだ」

と、自分はすでに1本抜いたのだろう。
錆兎は当たり前に団子をかじっている。

なるほど…
悔しいが自分は色々見えていなかったらしい。
本当になんの補佐も入らなかった時の自分はあんなに脆いのか…と、今更ながら思う。

だがいまさら素直にそれを認められるような性格もしていなくて、

「だがよぉ、お前、4体どころか7体余裕で確保しながら倒してたじゃねえか」
と、そこにツッコミを入れてみると、錆兎はどきっぱり

「あれはある程度慣れの問題だ。
だが、余裕じゃないし楽じゃない。
お前が死ぬと面倒なことになるから教えるためにやったが…二度とやりたくない。
もう本当に宇髄を引きずり込んでやらせたら良かったと思うくらいに、気を張った」
という。

「宇髄を引きずり込んでって…宇髄ならいいのかよぉ」

「ああ。宇髄は単体で動くことにかけては柱1だと思う。
あの倍は強い敵でも4,5体くらい1人でイケる。
それに…先輩だしなっ!

「先輩、関係あんのかよ」
「はははっ!宇髄はみんなが頼って良い大先輩だからなっ」
と、そこは意外に無邪気な様子で笑う錆兎。

それまでは正直若年寄のようだと思っていたが、そうやって笑うと年相応、同い年に見えてくる。

「大先輩かぁ…」
「ん。柱として長いだけじゃなく、年上だしなぁ。
それでいて、そこまで気を張るほどの距離感でもない。
まだ古参の大先輩の柱達が多くいた時期に、師匠にも古参の柱にも聞きにくいようなことは遠慮なく自分に聞けと言ってもらって、まあなんというか…そういう先輩諸兄には相談しにくいことは、全部宇髄行きだ」

「相談…しにくい?」
「ああ。宇髄は”嫁”もいるしな」
「あ~!なるほどな。察した」

実弥自身はそうした色めいた話もないが、17歳の男となれば、色々気になることもあるだろう。
実際、周りにいた同期達はことあるごとにそんな話に花を咲かせていた気もする。

「だからな…」
と、そこで錆兎は初めてクルリと後ろを振り返った。

「宇髄は頼っていい。敬語も要らないし堅苦しくするなとは本人が言ってたからそこは気にしなくてもいいが、一応腹の底では相手は年上で先輩だという敬意だけは持っておけ。

俺は…たぶんお前と並んで戦うことはあっても助けるようなことはほぼない。
それはさっき話した性質の問題な?
敬う必要はない。同い年だし対等の同僚だ。
だが、似た立ち位置ということもあるから今回みたいに先に自分が歩んだ道を伝えることはできる。
何か聞いてこられたら教えるし、実地で見たいというなら協力はする。
なんでも言え。先駆者として頼ってくることは構わない。

で、胡蝶は…大切にしろ。
とにかく大切にしろ。
守りに特化した相手は俺達攻撃特化組にしたら命綱だ」

同い年の同僚として言う錆兎の言葉は、今度はすんなりと心の中に入ってきた気がする。

「…しかたねえなぁ……」
と、実弥は頭をかきながら、団子をかじる。

本当はおはぎが一番好きだがこれも結構美味いなと思う。

「剣士なら自分の身を守るモンの手入れはしっかりとしねえとなんねえしな。
ま、団子仕入れるところからするかぁ…
あとで店教えろよ」

そう言うと、

「ああ。じゃあ近くだから店はこの時間だから開いてないが前を通って帰るか」
と、錆兎は本部への道から少しそれて、街の方へとあるき出した。




数日後……

「錆兎さんっ」
と、本部で新しく用意してもらった隊服を受け取った錆兎と義勇が歩いていると、後ろからパタパタと軽い足音が近づいてくる。

「ああ胡蝶、どうだ、その後は」
と、貼り付けたような笑みじゃなく、どうやら心のうちを反映したような笑みを浮かべる胡蝶に、錆兎もホッとして声をかけた。

「…不死川に…いじめられてないか?」
と、隣で義勇は気遣わしげに言うが、胡蝶はそれにおかしそうに

「いじめられてませんよ」
と、笑って、
「錆兎さん、この前の任務で何をお話なさったんです?」
と、錆兎を見上げた。

「特に変わった話は何も?どうしたんだ?」
と尋ねれば、胡蝶は少しコテンと小首をかしげて

「不死川さんが…紳士になりました」
というので、隣で義勇が驚きすぎてむせて咳き込んだ。

「義勇、しっかりしろ。大丈夫か?」
と、錆兎は義勇の背をさすりながら、視線で胡蝶に先をうながす。

「錆兎さんと二人で行った任務から戻ってから、すごく気を使われるんです。
私が荷物を持っていたら持ってくれるし、道を歩く時は通路側を歩かされ、任務帰りとかに雨が降ってきた時なんか、自分の羽織を脱いで私が濡れないようにと貸してくれたり…言葉は相変わらずぶっきらぼうなんですけど…」

胡蝶が列挙するたび、義勇の表情が恐ろしいものでもみたように固まっていった。
…あ~、あいつ正反対方向に振りきれるタイプかぁ…と、錆兎は内心苦笑。

「まあ…仲良くやってるなら、いいことだ。
あと半月弱、しっかり慣らしにつきあってやれよ」
と、胡蝶の頭をなで、錆兎は義勇を連れて、家路へとついた。



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