それでも・現在人生やり直し中_任務・先陣決死隊_1


「あ~最初に言っておく。
俺がやばそうになったら、全てをかなぐり捨てて逃げろ。
お前がそうなったら…まあ、なんとか敵を取る努力はするから、やはり全てをかなぐり捨てて逃げておけ」

現在柱の中でも1,2位を争う男は現場に行く途中でそう言った。

なにを言ってやがんだぁ、こいつ。舐めてんのかぁ?
とそれを聞いて不死川実弥は思う。


4年前、突然翌年自分は死ぬからなどとわけのわからないことを言って、実際に翌年ぽっくりと逝った実弥の師匠の元風柱は、当時実弥と同じ13歳でお館様にぜひにと乞われて最年少の柱に抜擢されたこの男のことを、強すぎて危うい男だと言っていた。

実弥にとって誰よりも強くて、そして自分の継子の実弥のことはあと最低3年、できれば4年は柱につけないで待ってやってほしいと本部に頼んだと言った師匠が、その実弥と同い年のこの男の事は強すぎると称したのだ。

そんな男が、十二鬼月でもない鬼をたかだか8体やるくらいで、やばそうになるわけないだろう、ふざけんな!と、実弥は苛立つ。

「これくらいの鬼なら俺1人でも5体くらいまで相手にしたことがあるのに、柱の中でも強すぎるって噂のてめえが苦戦なんかするわけねえだろうが」

と、実弥が言うと、水の対柱の1人である錆兎は、何故か心底呆れた顔で振り返った。

「…なんだよ…」
と問えば、やはり心底呆れたと言った風にため息を付き、

「…いや…本当に1人で倒せていると思っているのなら、随分とめでたいやつだなと思ってな…」
などという。

「はぁ?もしかして花柱の事言ってんのかぁ?
あいつは別に何もしてねえぞ。そこについてきてるだけで。
いつも倒すのは全部俺だ」
と、また苛立っていう実弥の言葉に、錆兎は淡々と告げる。

「…俺は1人で敵を倒したことなど1度きりしかない。
その一度の時は死にかけた。
義勇がいなきゃ俺はたぶん鬼殺隊に入ってから百回は軽く死んでいる」

「うそつけ」

「嘘じゃないが…まあ、信じないならそれもそれでいい。
とりあえず敵は4体ずつな。
風の呼吸の型は広範囲多いし巻き込まれやすいから、俺が先に4体取って離れるぞ。
あとは好きに倒せ」

「…おう」

別に声を荒げるわけではない。
ただ淡々と必要なことだけを告げてくる水柱になんだか落ち着かない。



いつもなら、こう…もっと…

──あらぁ、4体もいるのね。それじゃあその場で戦うには狭いかしら?
──…そんなこたぁわかってるし戦う時は移動する。別にあんたが戦うわけじゃねえんだから、黙っとけ
──そうね。不死川君、とっても強いものね。頑張ってっ!

そんなやりとりのあと、笑顔で送り出されていた。

この温度差は性別差なのか性格差なのか…

そんな違和感に苛まれている実弥に構わず、

「そろそろ行くぞ」
と、刀を抜いて飛び出す水柱。

派手な水しぶきをあげて、東側の4体をきっちり引きつけて、どこぞへと消えていく。
本気でフォローを入れるつもりはないらしい。

まあいつもだって自分1人で倒しているのだから、それは大した問題じゃない…と、実弥も刀を抜いて、4体の鬼に斬り込んだ。



まず壱ノ型 塵旋風・削ぎで敵のど真ん中に突っ込んでいって、その後参ノ型 晴嵐風樹で蹴散らし、それで残った奴は適当に斬るか…と、いつもとたいして変わらない手順で斬り込んだわけだが、異変は削ぎで斬り込んで晴嵐風樹を使ったあたりで起きた。

すでに目の前の一体は倒れていて、順調に二体目の首を跳ねようとした瞬間、後ろから感じる殺気。

とっさに避けたが、振り下ろした鬼の爪が勢いで実弥の右太腿を掠る。

「…っのお!舐めやがってっ!!」
と、そちらに刃を向けようとすると、今度はさきほど対峙していた鬼が迫ってきた。

その攻撃も持ち前の速さで避けながら、しかし呼吸を整えて型を繰り出すスキを作れない。
場所も悪かったらしく、狭くて避けにくい。

色々がなんだかやりにくい。
もう少し深く傷を負っていれば、そこから出る己の稀血で鬼を酔わせて動きを鈍くすることもできたのだが……

いっそのことそのためにわざと攻撃を受けるか?
と、足を止めかけた時に上から

「あ~、わざと攻撃受けるとかはやめておけよ?
作戦の1つとしてはありだが、余裕がない状態でやると事故につながる。
一撃で首を刎ねきれない場合は、宇髄以外は斬って距離を取っての繰り返しだ。
どうしても稀血を使いたい場合は、この距離を取ってわずかにでも余裕が出来た瞬間にその後の戦いに一番影響のなさそうな場所を選んで斬れ」

と、声がして、水しぶきがまだ残っている実弥の分の鬼を綺麗にひっさらっていく。

「とりあえず見本見せるから、いったんそこで眺めてろ」
と、なんと自分の分の4体はキープしてあったらしい。

全てを引き連れて少し広い場所に出ると、

「近づいて…斬る」
と、まるで海岸に寄せる波のようになめらかに敵に近づき、一体の首を落とし、

「で、他が体制を整えて反撃が来る前に下がる」
と、引く波のように速やかに下がり、またそれを追おうと動く敵に風や雷さながらの速さで近づいては下がるを繰り返した。


もちろん下がるのも近づくのも一方向からという単純なものではなく、時には上下左右、巧みに動いて撹乱しながら、しかし一度接近するたび確実に1体ずつ首を落としていく。

なにかの見本のように見事なその動きに感心していると、やがてきっちりと4体の首を刎ねた錆兎は

「ということで、あとは頑張れっ」
と、いきなり実弥の方に残った3体の鬼を引き連れて押し付けると、さっと自分は木の上に飛び乗って気配を消す。


「え?え?!!俺がやんのかよっ!!」
と、焦りながらも再度刀を構える実弥に、錆兎は

「俺は今回、補佐はせんと言っただろう?男に二言はない。
男として生まれたならば、ひとたび己が引き受けた分は黙って倒せよ?不死川」
と、身を隠した太い枝の上であぐらをかいてハッハッハッと笑った。



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