「あんたさぁ、柱辞めたほうがいい!
その分、戦える奴入れたほうがいいんじゃぁねえかぁ?
なぁんで、新人の俺より倒せねえんだ」
「そうねぇ。不死川君、すごいわね」
「…錆兎…助けないのか?」
と、ぷくりと義勇がふくらませる頬をぷすとつついて、錆兎は
「あ~、でも下手に俺らが口を出すと、逆に胡蝶の立場をなくすこともあるからな?
不死川の担当は飽くまで胡蝶なんだから」
と、とりあえず胡蝶が助けを求めてくるなら介入しようと思う。
それでも自分達も道に戻らないと帰れないわけだしと、そちらに足を向けると、介入する気満々の義勇が口を出す前に、
「不死川、先輩にそういう言い方は良くないぞ!
本来は柱を拝命した時点で、俺達は先輩達と同等にやっていかねばならんところを、わざわざ時間を割いてもらっているのだからなっ!」
と、実に模範的な事を口にする新米が1人。煉獄だ。
胡蝶カナエが柱になって2年後、予定より1年ほど遅く、しかし、一気に3人の若者が柱の名を拝命した。
風柱に不死川実弥、蛇柱に伊黒小芭内、共に錆兎と義勇と同じ17歳。
そして、最後はそれより1歳年下の16歳の煉獄杏寿郎だ。
彼らにも当然1ヶ月の慣らし期間が与えられて、その間は他の柱が補佐につく。
どういう基準で選ばれたのかは謎だが、煉獄には水の対柱、不死川は胡蝶、伊黒には宇髄がつくことになった。
ということで、早半月。
水炎組は順調だ。
なにしろ炎の煉獄は非常に素直で真面目な性格をしていて、上をきちんと立てることも知っている。
しかも補佐の方もそれはそれで、仕切ることにかけては定評のある錆兎だ。
この2人はどこか性質も似ているところがあって、呼吸の属性の違いさえなければ、まるで師匠と継子くらいの勢いで馴染んでいる。
そして音蛇組も、馴染みにくくやたらと疑り深い伊黒を、世慣れた宇髄が上手に相手していて、順調と言うほどではないが、可もなく不可もなく、無難に慣らし期間が終わるだろうとみられている。
問題は最後の一組だ。
花の胡蝶と風の不死川。
問題と言っても、不死川が一方的に胡蝶に反発して、胡蝶の方はにこにこと受け流しているのだが…
今日も任務の帰りらしい。
大声で胡蝶を罵倒しながら歩く不死川のあとを、にこにこと受け流しながらついていく胡蝶。
それは上はきちんと立てるべきという煉獄の目にはけしからん状況に映ったらしい。
まあ煉獄でなくともそう映るかも知れないが…
先輩に時間を割いてもらっているのだから感謝はしてもそんな言い方はないと主張する煉獄に、不死川は、ぁあ?と苛立ちを今度はこの同期の柱に向けることにしたらしい。
「はぁぁ?てめえに言われたくねえなぁ」
と煉獄をねめつける。
しかし傷だらけの上にどこかキツイ顔立ちの不死川のそんな様子に微塵も引くことなく、煉獄は
「何故だ?俺はきちんと日々感謝をしているぞ。
対柱の2人には常に礼を尽くしているつもりだ!」
と、胸を張った。
まあ…確かにそれはそうだな…と、少し離れたところで足を止めて様子をみている錆兎と義勇。
しかし不死川の言いたいことは違うらしい。
「そうじゃぁねえよ!
お前んとこは強いやつがついてんだろうがぁ!
鱗滝錆兎?あいつぁ柱ん中でもすげえ強いんだろぉ?」
「そうだなっ!強いぞっ!
俺は慣らし任務の時以外にも稽古をつけてもらっているっ。
素晴らしい先輩だっ!!」
ハッハッハッと笑顔できっぱりハッキリいう煉獄に、ポカンとする不死川。
駄目だ…こいつ、良いやつだけど相変わらず空気が読めないな…と、額に片手をやって天を仰ぐ錆兎の横では、義勇が、うんうん、あいつはよくわかっていると、1人ドヤ顔で頷いている。
胡蝶は相変わらずニコニコと微笑んでいるが、あれはもう間に入ることを放棄した顔だ…と、錆兎は思った。
そこで最初に我に返ったのは不死川で。
「だ~か~ら~なぁぁ~~!!」
と、煉獄の方へと一歩詰め寄る。
「お前はそうやって、見習うとこのあるやつについてるから良いかも知れねぇけどなぁ!!
俺んとこは俺より弱いやつなわけだぁ~!
お前だって、担当がもう片割れの金魚のフンだけだったら、嫌んなるだろうがぁ!!」
と、不死川が叫んだあたりで、錆兎の笑顔が固まった。
「そうだな。新人は甘やかしてはいかんな。
調子にノリすぎてる奴は、一度地獄に叩き落としておかないと」
と、突然言って、止めていた足を進める。
「え?様子見なんじゃないのか?」
と、その錆兎について歩く義勇に、
「ああ。様子は見た。
見た上で、あれはちょっと楽しい鬼退治に連れていってやらないとならんと判断した」
と、答える。
そしてそれ以上義勇に何か言う間を与えず、いわゆる目が笑っていない笑顔というのものを浮かべながら、足早に不死川達3人に近づいていく錆兎。
彼のまとう空気をいち早く読み取った胡蝶は、笑顔のまま青ざめて固まった。
さすが伊達に柱に就任後1月以上慣らし戦闘を補佐されてはいない。
「おお~!錆兎っ!噂をすればっ!!
今ちょうどあなたの話をしていたのだ!
あなたが補佐についてくれることを、不死川にうらやましがられてなっ!」
と、こちらは本当に本気で全く空気に気づかずにこやかに手をふる煉獄。
その様子に胡蝶がますます青ざめた。
「ぁあ~?別に羨んでなんか……」
「見習うところのある先輩についていて良いと言ってたではないかっ!」
と、そういう煉獄は別に悪気は0だ。
ある意味、見事なまでに裏表のない男なのでわかりやすいが、人によっては少し空気を読んでくれと思うところであろう。
まあいい。
錆兎的には構わない。
煉獄は胡蝶に続き可愛い後輩ぱーと2だ。
それより問題は……
「悪いが話はきこえてしまってな。
ちょうどいいから、たまには組み合わせを交換してみるか?
そんなに見習いたいと言うのなら、一度俺と2人で出動するか、不死川。
胡蝶と出る現状に慣れてしまっていると、かなり辛いぞ。
まあ、それは義勇がいることに慣れてしまっている俺もだが…
で、その間、杏寿郎も一度極楽コースを体験してみると良い。
癖になるぞ」
「はぁ?強い奴と一緒だから強い鬼をやりにいくってかぁ?」
「いや?鬼の強さは変わらん。
ただ周りからの補佐が全く入らんだけだ。
きっちり己の分担だけひたすら狩る。宇髄方式だな。
ただし俺は宇髄のように新人に無理のないよう、自分が余分に取る気はない。
補佐が要らん、一人前だというのは、そういうことだ」
にこりと…しかしさりげなく一人前という言葉に力を込めて言う錆兎に、不死川は刺激されたらしい。
「おうっ!望むところだぁ!」
と、煽られてくれる。
そんな二人を見て、ようやく傍観を諦めたのだろう。
胡蝶が錆兎に駆け寄って、つ…と、その腕に軽く手をかけ
「錆兎さん…すみません。あまり怒らないであげて下さい…」
と、小声で言ってみあげてくる。
もちろんそんな胡蝶を義勇も後押し。
「胡蝶の立場を尊重するって言わなかったか?
あんまり怒るな、錆兎」
と、口添えをするが、錆兎はにこりと
「怒ってはいるが、行動は怒りで決めているわけではない。
ただ、今後やっていく上で、”自分の力”と”他人の力”を理解していないと、とても危険だろ。
自分1人になることで体感しないと、それを理解出来ない人間もいるからな。
最終的には本人だけじゃなく、鬼殺隊全体のためだ。
だから今回は見逃せ…。
で、俺がそれを不死川に体感させている間に、義勇と胡蝶はその辺りは多分わかっているいつも良い子の杏寿郎に二重警護の極楽体験をさせてやってくれ」
と、最後は冗談めかして言うので、少し緊張がほぐれたふたりは、揃って笑うと頷いた。
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