カナエは気づいたら医療所の寝台の上だった。
「お~、目ぇ覚ましたか」
と、降ってくる声に半身起こして声の方に視線を向ければ、寝台から少し離れた椅子の背もたれを抱え込むように座る宇髄がいる。
さらに周りを見回しても誰もいないことに少し不安を覚えるカナエだが、その不安を当然のように読み取ったのだろう。
宇髄が
「別に錆兎は怒ってるからここにいねえわけじゃねえからな。
今回は仕切ったのは俺だし、まあ色々言っておくこともあるから先に話をさせろって言ったから、あいつらは別室で手当うけながら待ってる」
と、教えてくれて、心底ホッとした。
尊敬している師匠のような先輩に見捨てられるのは本当に辛い。
今回は本当にもう柱でいることを挫折するかと思うくらい辛かった。
とにかくなんとか許してもらえたらしいことにカナエが安堵の息を吐き出すと、宇髄は
「っつ~わけで、そろそろ本題入っていいか?」
と、口を開いた。
「正直な、お前は柱としては力不足だわ。
人材が豊富な時期だったら、たぶん柱に慣れてない」
いきなりのストレートな宇髄の発言に、一気に心がえぐられた。
それはわかっている…自分が一番わかっているだけに……
「俺は2年前に錆兎と義勇が13で柱になった時の慣らしにつきあったんだけどな、ホント、一緒に戦っただけ。
手助けなんて必要なかった。
錆兎は俺以上に戦えたし、大きな任務では自分の分担はもちろんのこと、むしろ仕切ってる俺の補佐まで自主的にちゃんとやってのけた。
慣らしっていうのは基本は出来ていて、慣れていない戦い方の練習をするだけで、そこで育ててもらうわけじゃねえからな?
付き合う相手は無条件に教えてくれる先生じゃなければ、自分だって生徒じゃねえ。
至れり尽くせりのフォローなんて期待すんな」
という言葉はもっとも過ぎて、顔があげられない。
カナエはぎゅっと布団を握って唇を噛みしめる。
すると、宇髄が立ち上がる気配。
声が近くなる。
「水の坊っちゃん達はそのあたり言わないでも察してくれたんだろうけどな、出来る出来ないくらい自分で申告しろ。
仕切る方だって全員の許容なんて完全に把握して仕切ってるわけじゃねえんだから、ふられた担当が自分の許容を超えてたら、無理だって言うのも大事な仕事だ。
俺らだって新人が全員、水の坊っちゃんみたいな規格外ばかりの時代じゃねえなんてこたぁわかってんだよ。あいつは現代の人材事情を考えれば、ある意味化け物だ。
だから無理なら無理って言やあ、新人のうちなら自分が多少無理をしても負担を減らすように善処はしてやる。
ただし…それはお前より後輩がいない間な?
お前が先輩になった時には、お前が無理してやる側だ。
たぶん…次に来るのはお前や水の対柱と同年齢の風の継子か、蛇の継子。
まあ、炎は代々柱出してる名家だから、その2人が来年以降になるようなら、先に炎の煉獄家のぼっちゃんが来るかも知れねえけどな。
どっちにしてもそう長くは時間があるわけじゃねえ。
戦闘経験を積んで積んで積んで、自分の限界値をあげてくために、せいぜい俺らを利用しろ。
ただし、無理はすんな。
気づいたら後ろで後輩がゴロンと死んでたりしたら、柱として立つ瀬がねえしな。
あとは今回みたいに限界超えて予測してなかった敵になだれ込まれるのもきつい。
できれば事前報告がいいが、途中でも無理だと気づいた時点で、止まらないで声をあげろ。
いいな?」
そう言われてびっくりする。
最初の言葉からするとてっきり突き放されるのかと思っていたのだが、言っていることが結局錆兎とまるっきり同じだと思う。
あまりにびっくりしすぎて思わず目を丸くして宇髄を見上げると、
「とにかく錆兎は目指すな。
どうしても誰かを目指したいってんなら、義勇にしときな。
お前はべっぴんだからな。
まあ、後輩出来ても男なら、上手に煽って使ってやるって手もある」
宇髄は最後にそう言って、ニヤリと笑うともう一度くしゃりとカナエの頭をなでて
「じゃ、水の二人と交代してやるから、ちょっと待ってな」
と、後ろ手に手をふると部屋を出ていった。
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