もっと・現在人生やり直し中_任務・神隠しの城_1

「義勇、大丈夫か?疲れてないか?」
と、その言葉をこの道中で何回聞いただろう。


これが普通に先輩後輩、もしくは同僚なら

──過保護かっ?!
と、突っ込みをいれるところだが、色々察している色男の宇髄天元様はそんな野暮なことは言わない。

惚れた相手に手ぇ出せないなら、甘やかせ。
それくらいは別に良い。
目をつぶってやんよ、と、見て見ぬ振りをする。




今日の夕方にはおそらく神隠しが続く街に入れる、最後の昼休憩。

街道にはあいにく木陰もなく、道を避けて敷物を敷いてそこに義勇を座らせると、錆兎は自分は立って日差しを遮った。

ああ、漢だねぇと、宇髄はそんな後輩の様をみて思う。
強くてよく気づいて、マメで優しい。
こんな男にこんな風に気遣われれば、女なら即落ちるだろう。

自分ほどではないと思うが、そのイケメンっぷりに惚れ惚れした。

そしてそのイケメンに寄り添う片割れは、これも随分と綺麗な顔立ちをしていて、はたから見ればお似合いなわけだが、残念ながら男だったりする。

いや、宇髄は既成概念には囚われない男なので、別に全然OKだと思うのだが、一応一般的にはということで。



面白いから義勇の隣にひょいとしゃがみこんで

「いやぁ、愛されてるねぇ。
錆兎、やることなすこと男前で惚れ惚れしないか?」
と、言ってやると、こちらもどこまで意味がわかっているのかわからないが、

「宇髄はよくわかっている。錆兎はいつでも世界で一番カッコいい」
と、何故か義勇にどや顔で頷かれた。


なんというか…人の感情を読み取ることが得意な宇髄でも、義勇に関してはしばしばよくわからない。
ねえ今どういう気持?それどういう気持ちから来る顔?と聞いてみたい衝動にかられる。


「なんつ~か…義勇は天然っつ~の?
さすがの宇髄様もよくわかんねえわ」

と、その答えに理解することは早々に諦めて、今度は義勇のために日差しを遮る錆兎の隣に立って頭をかきながらそう言うと、錆兎ににこりと

「そういうとこ、可愛いだろ?」
と、こちらも意味はわかるし錆兎自身がどういう感情から言っているかというのもよくわかるが、心情的には宇髄にはあまりよくわからない言葉を返される。

うん、わかろうとしたら駄目だな、こいつらは。
錆兎は義勇に惚れていて、義勇は錆兎を好きすぎる、それだけわかってたら、もうあとは放置が正しい。
そう思う宇髄。

そして
「…義勇って…お前のこと好きすぎねえか?」
と、思わず吐き出せば、錆兎はそれに驚くことも否定することも、それこそ照れることもなく、短く

「そうだな」
と、返す。

「…それでも待つのか?」
「…それが男というものだ」
とも。

義勇は錆兎が言うことすることは全て受け入れるようなふしがあるし、抱きたいと言えばなにもわかってなくても頷くだろうから、もう抱いちまえば?と、宇髄は思うわけなのだが、変なところで老成しているこの少年は、宇髄がなんと言おうと、待つと決めたら義勇の方が知識をつけてその気になるまで、気長に待つのだろう。

まあなんというか、焦れったいとは思うが、仕方がない。

自分くらいはそれを咎めもせず、かといって急かしもせず、錆兎がたまに弱音の1つでも吐き出したくなったら吐き出せる場所になってやろうと、存外この後輩が気に入っている宇髄は思った。



こうして結局自分も錆兎に釣られて結果的に義勇のための日除けになりながら握り飯を食うという休憩というには微妙な休憩を取ったあと、いつものようにしっかりと義勇と手を繋いで歩く錆兎の横を宇髄も進む。



「とりあえず夕方街についたら一刻ばかり話を聞いてまわって、夜に森を抜けて城の探索って感じだな。
鬼の仕業なら日中の方が動きがなくていい気がしねえでもないけど、結局城ん中なら日光も入らねえし、関係ないかもしれないしな。
ちゃっちゃと済ませねえと休みが減るし」

というと、頷く二人。


「早く鮭大根食べたい」
と、ご機嫌で言う義勇の唐突な言動は宇髄にはかけらも理解できなかったが、そんな足りない言葉は
「街で義勇の好物の鮭大根が旨い店をみつけてな。
今度の休みにゆっくり食いに行こうかと話していたんだ」
と、錆兎が当たり前に補足した。

もうこれもいつものことすぎて、もしかして義勇は錆兎がいなければ意思の疎通もできねえんじゃね?と、宇髄は他人事ながら心配になる。

まあ、それを錆兎に言ったら確実に、──義勇の言葉の足りない部分は、俺が一生いっしょにいて補足するからいいんだ──と、そんな答えが返ってくるのだろうが……



それからさらにだいぶ歩いて、3人が街についた頃にはもう夕方近くだった。
神隠しが多発しているという割に、まだ人通りも多い町並みに、意外に活気があるものだなと一瞬思うが、よくよく見ると、歩いているのはほぼ男だ。

入った茶屋で話を聞けば、神隠しが多発するようになってから、女は夕方になると皆家にこもるようになったとのことだ。
それでもさらわれる時はさらわれるのだけど…とも。

宇髄がそんな風に話を聞いている間、錆兎と義勇は大人しく団子を食べている。
みたらしとあんこ。
4つずつ串にささったそれを、当たり前に2つずつ半分にしながら。

「義勇、ちょっと動くな」
と、義勇の口元についた蜜を錆兎が指先で拭って、指先についたそれを行儀悪くぺろりと舐め取るさまは、仲の良い兄妹のようだ。

何故かいつもつけている、互いを模した狐の面が、余計にその子供らしさを強調している。

茶屋の老婆はそんな2人に、可愛いねぇ、お兄さんの兄弟かい?と、目を細めて、今日はそろそろ店じまいだから、サービスだよ、と、2人に1つずつおはぎをおまけしてくれた。


それに礼を言って仲良くお行儀よくおはぎを頬張る2人は確かに可愛い。
宇髄は整った顔立ちをしているので、若い女性は馴染んでくれるが、こういう茶店の老婆とか、もう色恋からかけ離れたような相手から話を聞き出すのはなかなかに難しい。

だがこの二人を連れていると本当にみな警戒心なく話をきいてくれるので、なかなか便利だと思う。



茶店の老婆だけじゃなく、立ち寄った客にも色々話をきいているうちに、もう聞き込みは宇髄に任せたとばかりに甘みを楽しんでいた二人は

「「美味かった!」」
と、ぺろりとおはぎも平らげ終わっていた。

そうして店を後にする時は、良家のお坊ちゃん然とした錆兎は当然のごとく、

「とても美味しく頂きました。ありがとうございました」
と、きちんとまた礼儀正しくお行儀よくお辞儀をして礼をいうものだから、老婆メロメロだ。

「これ、持っていって道中で食べておくれ」
と、団子やら赤飯やらを包んで渡してくれた。

それにまた礼を言って、それらをしっかりと荷物に入れて、錆兎はまた義勇としっかり手を繋ぐ。

「お前って…本当に年寄り受けするよな。
いちいち絵に描いたようなお行儀良さで礼言うし…」
と、宇髄が半ば呆れて言うと、錆兎は

「そうか?挨拶は人間関係の基本。きちんとするのが当たり前。あと、目上は敬うようにって鱗滝さんがずっと言ってたし。な?」

と、義勇に言って、義勇はこっくりと頷くが、その割にはこちらの片割れは錆兎の言葉に反応して一緒に頭を下げるだけな気がしないでもない。

まあ顔が可愛らしくてお育ちが良さそうな雰囲気が漏れ出ているので、それだけでも心象は十分良いのだが…。

とりあえず今話すべきことはそれじゃない。
と、そこで宇髄は切り替えて、

「とりあえずな、話聞いたとこによると、時間は関係なさそうだ。
警察は何度も城まで行ったが、昼に行っても夜に行っても帰ってはこなかったそうだ。
もちろんこれまで神隠しにあった17人の若い娘たちもな。
だから、もう時間考えずにちゃっちゃと行くぞ」

と、茶店で聞いた話からそんな行動予定を口にした。
それに対柱二人は黙って頷く。
その顔はさきほどまでのほわほわとしたものから、戦いに赴く者のそれに切り替わっていた。



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