もっと・現在人生やり直し中_任務・道中

こうして順調に慣らしを終え、3人は最後の仕上げとばかりに数日はかかりそうな任務につくことになる。


それはよくあるような話で、とある街で毎夜のごとく女性が神隠しにあうということだった。
そしてその街と小さな森を1つ隔てた向こうにある城から、夜毎恐ろしい声が聞こえてくるとのこと。

もちろんそこまで状況が揃っていれば、その城が怪しいと思うのが普通だろう。
当然警察も動いて城に向かうが、生きて返ってきた者はいない。

こうしてお国から秘密裏に鬼殺隊の方へと調査依頼が来たらしい。

鬼の仕業と断言はできないが、また、鬼の仕業でないとも断言が出来ないこの案件。
3人の仕事は城の調査と、鬼の仕業であった場合は鬼を退治し、無関係であったならば、事情を速やかに警察の方へ報告するということだ。


こうして3人は神隠しが横行するその街に向かうことになった。

そして途中、宿で一泊する。

そう言えば夕方集合、夜に鬼退治、その後すぐ解散という流れだったので、この1ヶ月ほど、何度も任務は共についたが、あまり二人と話す時間もなかった。

宇髄自身はまだ十二鬼月に遭遇したことはなく、そのあたりも聞けるなら聞きたい。
そんな事を思いつつ、宇髄は水の対柱とともに、とりあえず部屋に落ち着いた。



「義勇、疲れてないか?大丈夫か?」

部屋に着く早々、ここまで何故か自分と義勇の両方の荷物を持って歩いていた錆兎はそれをとりあえずと部屋の隅に置くと、備え付けられているお茶を煎れて、義勇に渡してやっていた。

義勇はそれにこっくりと頷くと、
「大丈夫。ありがとう、錆兎」
と、当たり前にそれを受け取って、茶請けの瓦せんべいをちびちびと噛じりながら、茶をすすっている。

「宇髄の分はここに置いておくぞ」
「お~、ありがとな」

しかし、当たり前に宇髄の分も茶を煎れて、そこで荷物の整理に向かいかける錆兎の羽織を、義勇が片手でちょいと掴む。

すると
「ああ、一口だけもらう」
錆兎はそう言って義勇が齧っていたせんべいを一口齧って、義勇の手の中の湯呑から一口茶をすすって荷物整理に戻っていった。


え?え?あれで何故伝わるんだよ?
お前ら熟年夫婦か??
と、そのやりとりにぽか~んとする宇髄。

正直…自分も嫁が3人いるが、あれじゃあどいつでも伝わんねえわと思う。



そう言えば二人は共闘する時も、何の言葉も合図もなしに、当たり前に互いに重ならないように相手にあわせた技を使う。

どういう育て方をすれば、ここまで息のあった相棒に育てられるのか…
古参の柱達が鱗滝左近次を絶賛していたが、確かに絶賛する価値はある。

宇髄は基本的には単独で動くように育っているので、他との共闘というのはそれなりに気を使うし、1人きりの方が気楽だと思うほうだが、ここまでぴったりと当たり前に息があうなら、相棒というものがいても悪くはないと思った。

人は所詮1人きり…頭は1つで他は道具……
宇髄が嫌気がさして捨ててきた世界と対極にある関係。

水の対柱達は切っても切り離せない…何か魂が混じり合ってしまっているような感じをうけた。

まあ、これだけつながってたら、そりゃあ相手が死にかけてたら錯乱もするわな。
なるほどな。
と、納得の宇髄である。



まあ、そうなると、少し下のほうの事情も気になるのが男というものである。
この頃は宇髄もまだ若い。

「なあ、お前らさぁ」
と、年頃の男が数人よれば始まるようなノリで話を振ってみた。

「もう精通って来てるのか?」

「…せい…つう?
ああ、鱗滝さんに教わったあれか…」
と、その問いに対しては珍しく先に義勇が口を開く。

それは決して義勇が即答したわけではない。
普段ならなんでも義勇が口を開くより先に答える錆兎が答えないからだ。

ちらりと視線を向ければ一瞬荷物整理をしている錆兎の手が止まり、おそらく宇髄の視線に気づいたのだろう。

「それは…任務に関係あることか?」
と、平坦な声音でそう言って、また荷物整理の手を動かし始める。

それ以上その手の話を口にするな、と、その背中が物語っていた。

…なるほどねぇ…錆兎は来てんな…
と、宇髄はにやにやと思いながら、とりあえず”今は”話題を変えてやることにした。



「まあ、なかには遊郭辺りに潜入したり、情報を聞きに行ったりする任務とかもあるからな。
世間知らずの坊っちゃんなんていいカモなんだから、引っ張り込まれて喰われんなよ」

と、そんな風にさりげなく話題を別にスライドしようとして言う宇髄の言葉に、義勇が実に真顔で

「…遊郭には…そんなに人食い鬼がいるのか…」
と、頷いていて、なんだか宇髄も錆兎も力が抜ける。


二人して顔を見合わせて、ふはっと小さく笑うと、義勇がしかめつらで
「何がおかしいんだ?」
というので、

「なんでもない、なんでもない。
そうそう、だから当分はそういう任務は断ろうな?」
と、宇髄が言って、錆兎が笑いながら頷いた。


「まああれだ、その手のことは師匠にも聞きにくいだろうし、爺共は論外だしな。
知りたきゃ経験豊富な宇髄様がなんでも教えてやるから遠慮なく聞きに来い」

と、錆兎のそばに言って小声で耳打ちすると、宇髄はぱっと元の位置に戻って、

「じゃ、そういうことで、とりあえずお前らの初任務の下弦の話でもしてくれ。
俺はまだ十二鬼月に遭遇したことはないんでな」
と、うながして、完全に話題を変えた。




そうしてその日の真夜中のこと
小さなため息を聞きとがめた宇髄はパチリと目を開いた。

──眠れねえのかよ……

宇髄の問いに隣の布団から少しきづかわしげな、申し訳無さそうな気配。

──あ…いや…起こしたなら済まなかった…
──いんや?俺は普段こんなに早く寝る習慣はないんで、まだ寝てなかった

錆兎の謝罪に対して、そう言ったのはなにも嘘ではない。

宇髄が家を出て鬼殺隊に入ってからまだ1年もたっていないが、家にいた頃の毎日の睡眠は3時間ほど。

鬼殺隊に入ってからも、こんな風に誰かと宿の一室で並んで寝ることもなく、その習慣は変わらぬままだったが、今回は普通に育ったまだ13歳と、子どもとも言えるくらいの年齢の少年二人に同行ということで、それにあわせて布団にはいったものの、寝られるわけもなく、脳内でぼ~っと任務について考えていたところだった。

3組敷かれた布団に、手前から宇髄、錆兎と並んで横たわったが、何故か当たり前に錆兎の布団に潜り込んでくる義勇。

それに何も言うことなく、錆兎は布団に入れてやり、あまつさえ腕枕までしてやっていた。


それが錆兎が寝付けない理由なのではないだろうか…と、宇髄はおせっかいと思いつつも、1つだけ使われぬままひんやりと白く冷えていく布団に少し視線をやり、

──お前さぁ…自覚ある?
と、聞く。

すると、錆兎は気づかれていることに気づいているのだろう。

──…ある。
と、短く答えた。

ああ、やっぱり…と想像が事実だったことを知ると、宇髄は小さく息を吐き出した。
惚れた相手と同衾どころか、ぴったりと密着してただ寝るとか、それはどういう拷問だ?と心から思う。

しかし宇髄が

──そりゃあ難儀だな。で?どうするんだ?
と、布団から天井に視線を移しながら言うと、錆兎は同じように小さく息を吐き出しながらも

──なにも?義勇に余計な負担は与えたくない…
と、腕の中の対に優しげな視線を送りながら、肩から少しずれた布団をかけ直してやった。

当の義勇は錆兎の腕の中ですやすやと安心しきったように熟睡中。
その寝顔は確かに年相応に幼くて、宇髄は逆にそれを見守る錆兎の大人びた表情の方に目がいってしまう。

──…今はまだいい。いつか義勇の気持ちが追いついてきそうなら、その時はもちろん二度と他に触れさせやしないが……それまではちゃんと待ってやるのが男というものだろう?

と言う言葉が13歳の男からでてくるのだから本当に驚きしかなかった。
なんという忍耐だ、と、感心を通りこして呆れ返りすらする。

宇髄は忍びとして育っているので随分と早熟で、女を知ったのも…それこそ任務絡みで男を知ったのでさえずいぶんと前だが、13の頃にそこまでの余裕と忍耐があったかというと、自分でも怪しいと思う。

こいつぁ…たいした漢だ…と、宇髄は錆兎に対する認識を改めた。


そりゃあ年上も含む同期生を勝手にまとめて仕切って率いて任務を成功させて、ボスとして慕われたりするわけだわ。
坊っちゃんなんて言って悪かった。
と、心の底から思う。

今は柱も新旧交代の時期で、先日に風柱が引退したのを始めとして、そう遠くない将来には、今の鳴柱、花柱、霞柱、蛇柱も引退し、彼らの継子達がまた柱として参加することになる。

そしてそうやって次世代に代替わりした時には自分は古参として柱としての責務はもちろんとして、後輩の柱を導いていく役目もになわなければならないだろう。

そんな中で、一緒にその役目を果たす1人として、この少年がいて良かったと、個人主義の宇髄にしては珍しく、他人に期待し、安堵した。

「これから爺達が引退してガキどもが代わりに入ってくるからな。
その面倒係やんのに、お前がいて本当に良かったと思うわ」

とそう口にすれば、

「うむ。その時はよろしく頼むな。俺も微力を尽くしたいと思う。
一緒に頑張ろう」

と、おそらく二つ三つ年下なのだろうが、そんなものを感じさせないくらいに落ち着いた声が返ってくる。


そして少しの間。
小さくあくびをする気配がして

「おかげでなんだか眠れそうな気がしてきた。ありがとうな、宇髄」
と、それを最後に、錆兎は寝落ちた。


あ~ちきしょう!ガキのくせに派手にイカした野郎だぜ!

おそらく…このまだ幼い水柱の少年には自然と世の中の中心に据えられるような、持って生まれたなにかがある。

どれだけ光ったものを身に着けようと、忍びとして影に生まれ、影で育った自分にはない何かが…

もちろん多くを持つ者として、その責務は重く、道は持たぬ者には想像もつかないくらい険しいものになるのだろうが。

(…ま、重荷でつまずきそうになったら、この祭りの神、宇髄天元様が助けてやるから、安心して派手に進めよ?)

眠ってしまえば年相応にあどけない顔の錆兎に心の中でそう言うと、そろそろ良い時間かもしれない眠ろうかと宇髄も静かに目を閉じた。





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