…さびと…?
と、まず中を覗き込むと、見えるのは白いついたて。
その向こうにベッドがあるようだ。
そこで義勇は部屋に入りドアを閉めると、そろりそろりと奥へと歩を進め、ついたての向こうを覗き込んだ。
自分が寝ていたのと同じ簡素な寝台
だがそこに横たわる錆兎は頭にも肩や腕にも痛々しい包帯が巻かれていて、その目はしっかり閉じていた。
あれは夢じゃなかったんだ…と、義勇はそれを見て思う。
初の任務で先輩隊員はみんなやられて、死を覚悟した村の中央広場。
そこで大鬼の攻撃から自分をかばって、錆兎は大怪我を負ったのだ。
…ごめん…弱くてごめん……
義勇はヘナヘナとその場に座り込んで、静かに涙を零した。
本当は大声で泣きたかったが、重傷の錆兎の前だ。
うるさくしたくはない。
俺なんかかばわなくて良かったんだ…俺が怪我をすれば良かった…
そう思いながら義勇は泣いた。
泣いて泣いて泣いて…こんな自分なんか涙と一緒に溶けてしまえば良いと思いながらまた泣いた。
あまりに泣きすぎて頭が痛くなって、なんだかクラクラしてきた。
怪我もしていないのに身体の節々が痛い気もする…。
それでも義勇はそのまま泣いて泣いて泣いて…そのままどのくらいの時間泣いていたのだろうか……
──錆兎……ごめん……
と、見上げた寝台の端に見える錆兎の手に震えながら手を伸ばした、その時である。
突然、まさに本当に突然にパチっと錆兎が目を開けた。
そして、いきなり横を向く顔。
唖然として見上げると、しっかり目と目が合って、次の瞬間錆兎が飛び起きた。
──…っ!…
と、息を飲む気配。
いきなり飛び起きたものだから、さすがに一番ひどかったらしい肩の傷に響いたのだろう。
「…さびとっ…起きちゃだめだ…まだ起きちゃだめ……」
と、そこで我に返ってそれを止めようと義勇は立ち上がろうとしたが、何故かクラリと目眩がして、身体が揺れる。
ふらり…と後ろに倒れそうになる身体は、しかし寝台から身を乗り出した錆兎の怪我をしている方とは反対の手でガシッと支えられた。
そして
「起きたら駄目なのはお前のほうだろうがっ!!」
と、何故か怒られる。
その後、驚いたことには、錆兎はそのまま片手で義勇を今まで自分が横たわっていた寝台にひきずりあげると、自分はそこから飛び降りた。
え?え?え?と思いながらも、義勇だってここは錆兎が寝ていなければならないところだということはわかる。
わかるから起き上がろうとするが、なんだか力の入らない身体を錆兎の片手がしっかりとベッドに押さえつけていて、どうやっても起き上がれない。
ちょうどその時だ。
包帯を替えようと部屋に入ってきた医療班の女性が悲鳴を上げる。
そりゃあそうだ。
さきほどまで意識不明の重体だった錆兎が普通に起き上がっているのだ。
慌てもするだろう。
だが、
「ちょっと、あなた何をしてるのっ!!
まだ起きちゃだめよっ!!」
と、バタバタ駆け寄ってくる女性に、錆兎はきっぱり
「俺は大丈夫だっ!男だからなっ!このくらいの怪我、気合で治せるっ!!
それより義勇がすごい熱だっ。診てやってくれっ!!」
と、起き上がろうと小さな抵抗を続けている義勇を片手でしっかりと寝台へと押し付けながら言った。
しかしながら、さすがにいつも鬼殺隊員を診ている医療班の彼女は、女性と言ってもなかなか気が強い。
あの錆兎を
「男でも女でも関係ありませんっ!!
あなたは重傷なんですっちゃんと寝てくださいっ!!」
と、ぴしっと怒鳴りつけた上で、それでも気持ちは汲んでくれるつもりらしい。
「あとでこの部屋にもう一つベッドを運ばせますっ。
それで良いですね?」
と、ため息交じりに言った。
そんなやりとりがあってから、数時間後のこと……哀れな少年が1人…また騒動に巻き込まれようとしていた………
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