そしてその周りには多種多様な多数の鬼。
まるで鬼の品評会のようだ…などと、その現実感のない光景に、義勇は目をぱちくりさせた。
正直怖い。
前世ではあれほど持たなかった感情だが、今生になってからはとにかくよくそう思う。
本来自分は臆病なのだろう。
13の年に錆兎を失くすまでは、そう言えば恐ろしいと思うものが驚くほど多かった。
そうかんがえると、おそらく自分が水柱にまでなれたのは、錆兎を亡くして、恐怖を含めた全ての感情が消えてしまったからかもしれない。
前世の戦いを思い出すと、なんでそんな無茶をできたんだ、じぶん、と恐ろしくなってくる事が多々ある。
あれは鬼を滅するという意味では良い人生だったのかも知れないが、確かにお館様が言うように、義勇個人のためのという意味で言うなら、本当に全てを犠牲にした人生だった。
今はこうして、怯え惑い、震えているし、目前の敵は強そうだからあるいはここで命を落とすのかも知れないが、それでも錆兎をそこに感じる事ができているのだから、ひたすらに強かっただけの前世よりは、数段幸せな人生だと思う。
少し離れたところで同じく中央の様子を視認していた錆兎は、やはり敵の強さとその中で生き残る困難さを実感したらしい。
クルリと義勇を振り向くと、自分が頭につけていた狐の面の紐を解いて、義勇のそれと取り替えた。
そうしておいて、義勇をぎゅっと抱きしめて言う。
「俺のわがままに巻き込んですまん。
でもこれでもし死ぬことになったなら、来世では絶対に義勇を探し出して埋め合わせをするから、許せ」
耳元で聞こえる錆兎の切なげな声に、こんな時なのに腰が抜けるかと思った。
今自分は絶対に真っ赤になっている自信がある。
せっかくやり直した人生を、わずか数ヶ月で終えるかも知れないというのに、幸せすぎてめまいがした。
色々言いたいことはたくさん湧いて出たが、結局口下手な義勇が言葉にできたのは、一言だけ…
「…錆兎、好きだ…大好きだ…」
この年まで何かに付けて口にしてきた言葉だが、やっぱり最後になるかもしれないやりとりで出るのはその言葉だ。
言いながら知らぬ間に泣いていたのだろう。
いつもそうであったように錆兎の指先があふれる涙をぬぐってくれる。
しかしいつもと違うのは、錆兎の綺麗な顔が近づいてきて、頬を柔らかな唇がかすめていったこと。
そしてそのまま耳元に寄せられた唇は、まるでとても大事な隠し事を伝えるように、小さな小さな声で
──俺もだ…世界中の誰よりも……いつもいつまでも義勇が好きだ…
と、宝物のような言葉を耳に落としていった。
それは本当に一瞬で、すぐに離れた錆兎は眩しいくらいの笑顔で
「さあ、行くぞ!」
と、刀を抜く。
義勇が選んだ鋼で作られた太陽に照らされた明るい海のような色をした錆兎の刀。
それを手に中央の巨大な敵を見つめる錆兎は、まるでおとぎ話に出てくる勇者のように凛々しくかっこよかった。
「うん。錆兎なら勝てる。絶対に勝てるから」
と、それが難しいことを知りながらも言ってしまうのは、もう仕方ない。
だって錆兎は義勇にとってはいつだってこの世でただ1人の主人公なのだから。
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