続・現在人生やり直し中_思いもかけぬ危機_1

──なんだよ、どうりで強いわけだよ…

と、村田は今ようやく謎が解けた思いだった。

何故こんな強いやつが同期に混じってんだよ…とずっと思っていたその謎が…




あれは最終選別の時、鬼のいる山で7日間生き延びろというだけのルールで、みな、鬼に見つからないようにと各々隠れ場所を探してさまよっている中、1人、鬼を退治しながら他の参加者を助けて回っていた少年がいた。

これが自分と同い年くらいなのに、べらぼうに強い。

村田が選別が始まってすぐくらいに3体の鬼に囲まれて、もうだめかと死を覚悟した時にいきなり現れたその宍色の髪の少年は、なんとも見事な水の型で3体の鬼の首を一気に切り落としたのだ。

もうこれだけで入隊試験を受けているレベルの人間としてはあまりに規格外だ。
何故こんなにやすやすと鬼を倒せるのにこんなところにいる?と声を大にして言いたかった。

なのに単に強いだけじゃなく、その後、その少年錆兎は色々仕切り始める。

拠点を決めて、そこに村田を待たせておいて、他の候補者を次々助けては戻ってきた。
おかげで参加者全員が大きな怪我もほぼなく拠点に無事集合できた。

そのとんでもないリーダーシップを発揮している錆兎の横には義勇と言う名の綺麗な顔をした大人しそうな少年が常に寄り添うように立っている。

まあ大人しそうなだけで、こいつも実は自分たちなんかとは比べ物にならないほどとてつもなく強いのだと、最後に2人がとんでもなく強い鬼と共闘した時に知ったのだけれど……

とにかくありえない。本当に何者だ?と最終選別後もずっと不思議に思っていたら、今日の初任務で総指揮をとっている丙の先輩隊員矢吹の言葉でその謎が明らかになった。
2人はなんと元水柱の弟子、つまりは継子のような存在らしい。

そりゃあ強いはずだよ、と、村田は息を吐き出す。

矢吹いわく、錆兎は今は確かに癸だけどそれは未熟だからじゃなくて、単に入隊したらみな最初は癸になるからというだけで、実力的には中堅の隊員よりはるかに強いとのこと。

しかも今回は理由はわからないけど、かなり上の方の人が錆兎に1隊任せてみろと命じてきたらしい。

丙の矢吹が自分よりもはるか上というからには、もう柱かお館様自身か…とにかく、もう思い切り幹部に認知されている実力ということなのだろう。

自分なんかとは何もかもが違いすぎる。


ということで錆兎はみんなにとって命の恩人で、今日の初任務先で錆兎の姿が見えた瞬間、みんな大喜びだった。

もちろんその横には当たり前に義勇もいる。
再会を喜ばれて自身も嬉しそうに同期たちと話す錆兎の横で、まるで愛らしい少女のようにニコニコと微笑みながら…


…うん、2人、相変わらずしっかりと手なんか握って……


前にも思った。
こいつらなに?どんな関係?

聞けば兄弟弟子だと言う返事が返ってくるのだろうが……
それにしてはあまりに距離が近い。

前回も何かにつけてやたらと額と額を合わせたり、抱きしめ合ったり…会話もなんだか甘酸っぱい。

これが異性同士なら確実に恋人同士なのだろうと思うが、どんなに愛らしい顔をしていたとしても義勇も男だ。

………
………
……よな?

うん、たぶん男。格好は男だし。
…脱いだとこみたことないから、絶対にとは言えないけど……

自分で色々思い出して考えていて、村田は一瞬ちらりとそんな事を思ったが、確認のため脱いで見せてくれなんていったら、たぶん義勇は普通に少し困った顔をしたあと脱いでくれそうだけど、錆兎に確実に殺される。

なんだか錆兎は義勇をそれはそれは大切にしているふしがあるから。
それに対して義勇も錆兎大好きオーラが満載だ。


今だって、二つの入口の守備にあたるため、癸を壬の先輩が仕切る1班に合流する5人と錆兎が仕切る2班に入る10人に分けようかとなった時、みんな錆兎と一緒の班になりたいと言うので、ではジャンケンでということになったのだが、錆兎が当たり前に

「悪い。義勇だけは外させてくれ。
こいつがいないと俺が機能しない」
と、特別扱いだ。


これが他のやつだったら結局決定権は錆兎にあるから了承はするものの不満は残るが、みな、義勇なら仕方ないか、と、納得してしまう。

錆兎には義勇が必要なんだなと、なんとなく思ってしまうような空気があるのだ。



とりあえず、村田自身はなんとか錆兎の班に潜り込めた。

これで大丈夫。
元々ベテラン勢が村の中心部の鬼を討伐して、守備勢はそれを逃れて入口辺りに来た鬼を倒すだけなのでさして危険はないはずだが、さらに錆兎のしたにつけたら、もう楽勝だ。


──初任務だし、まだ死んだり大怪我したりしたくないもんな。
と、胸をなでおろし、壬癸混合の1班と分かれて、錆兎率いる2班の担当の北の入り口で待機する。


「あ~、なんか前回で慣れてて使いやすいんで悪いんだけどな、村田」
と、一応軽い任務とは言ってもあたりを警戒しながら言う錆兎。

そしてぽいっと腰につけた袋を投げてよこした。
それは前回の時にも渡された、救急道具が入った袋だ。

「コレ頼む。
万が一が絶対にないとは言えないのが現場だからな。
そうなると、俺は敵を見ることで手一杯で、戦闘員以外の人間を気にする余裕がない。
俺の面倒は義勇がみるけど、他に怪我人出たらお前が面倒みてやってくれ」

本当に…あっさり自分の分を全部そのまま渡す錆兎に

お前の分を全部俺に渡しても、お前が怪我した時は義勇が同じもの持ってるから…か?」
と、笑うと、

「そうそう。そういうことだ」
と、錆兎もにやりと笑った。


錆兎は確かにすごいやつで、命令口調で言われると絶対に従わなくてはならないと思わせる迫力のようなものもあるのだが、それでいて、そういう必要のある緊急時以外は、そんな実力や立場の差をまったく感じさせないくらい、気さくで親しみやすい男だ。

だから圧倒的な実力の差があっても、みんなに距離を取られることなく慕われる。

錆兎と村田のそんなやりとりに、周りのみんなも一定の緊張を保ちながらもリラックスしているし、非常に心地いい空気だ。


そんな2班の面々をみていて、村田は秘かに壬の率いる1班にいった同期に同情した。

上からの命令、そしてそれに文句を言うことも憚れるほどの後輩の実力を語られて、あちらは随分とピリピリしていたから、今頃、敵じゃなくて味方に精神力をこ削ぎ取られているんだろうなと思う。

まったく実にご愁傷さまだ…この任務が終わったら団子の1つでも奢ってやろうか…などと村田がそんなことを呑気に考えていたときである。

突然、キン…!と緊張が走った。

しかし周りの仲間を見ても誰も気づかない。

でも錆兎が明らかに緊張した気がする。
まだ刀には手をかけていないが、村の中央方面を見る視線が厳しい。

義勇もさすがに気づいたようだ。
それまで楽しげに錆兎の手をとって遊んでいたのだが、ふと、その指先を止めて、不安げな視線を錆兎に送っている。

「錆兎、何かあったか?」
と、村田が駆け寄れば、錆兎が驚いた顔で振り返る。

「…俺…そんなに険しい顔でもしていたか?」
と聞かれて、確かに気づいているのは義勇と自分だけだな、と、村田自身も不思議に思った。

「…まあいい。まだだ…まだ状況が全部つかめてないから、動くのは尚早だが……」
と、錆兎の目はまた中央に向く。

その視線の先を村田も追ってみるが、何も見えないし、何も聞こえない。

その時、不意にびゅう…と風が吹いて錆兎の長めの宍色の髪を揺らした。

能力が圧倒的すぎることと、いつも隣にいる義勇が愛らしい顔をしすぎているので気づきにくいが、錆兎自身もかなり整った顔をしている。
少女のような綺麗さの義勇とは対象的に、凛々しく男らしい顔立ちではあるが…

そんな風に村田がなんとなく錆兎の顔を観察していると、錆兎はきりりとした眉を少し寄せた。
そして言う。

「…村田…中央がまずいかもしれない…。
もし俺と義勇が本部からの増援が来るまで中央に足止めに行くとしたら…またついてきてくれるか?
俺達と守備隊の間での伝言係が欲しい」

唐突に振り返る錆兎の表情はどこか厳しい。
村田には見えない何かを彼は見ているのだろうか…

「もちろんだけど…何かあったのか?
俺には何も見えないけど……」
と言ってもう一度念の為に中央方面に視線をやるが、やっぱり村田には何もみえなかった。

すると今度は錆兎がまた入り口方面に背を向けて、村田の視線を追うように中央を振り返る。

「俺は人よりもかなり広範囲の空気を感じる質なんだ。
中央から怯えて取り乱している多数の人間の気配を感じる。
あとは…あまり対峙はしたくない強さの鬼の気配…」

視線は中央へ向けたまま、そう言う錆兎の言葉に、なるほどと思った。

最終選別の時も、最後の鬼は視覚でも聴覚でも当然認知できないほど離れていたにも関わらず、錆兎は寝ていたところを飛び起きて走り出していた。

あとでそれを追っていった時に、その鬼と拠点との距離を知って、何故感知できたのか不思議に思ったものだったが、あれはそういうことだったのか。

「さて…どうするか……
単に一部不慣れな隊員がいて混乱しているともとれるが、鬼の強さが想定外過ぎたという可能性も高い…
様子を見に行ってみて、状況を正確に確認するしかないな」

はぁ…と、錆兎は憂鬱そうに頭をかく。


別に緊張感がないとは言わないが、恐ろしい状況になっている可能性を口にしながらもあまりに平静な錆兎に、村田は言う。

「錆兎の言うとおりだとすると…とんでもない強さの鬼が居て、丙の先輩が仕切っている状況でも混乱している隊員がいるってことだよな?」

「まあ…そうなるな」

「そんなところに飛び込むのって怖くないのか?
そのとんでもなく強い鬼を倒せる自信があるのか?」

「怖いぞ?めちゃくちゃ怖い。
まあ俺がするのは様子見と…せいぜい逃げられない人間がいるなら逃げる時間を稼ぐための足止めまでだ。
あの強さだと倒せる気がしない…というか、おそらく無理じゃないか?」

「じゃあ、なんで行くの?
さっさと鎹鴉に言って増援頼めば良いんじゃないか?」

「さっきも言った通り、気配だけだと正確な状況はわからん。
丙で駄目なら動かしてもらうのはそれ以上の隊員、下手をすれば柱クラスになるし、必要かどうかはわからないが念の為くらいの状況で動かしていい相手じゃないだろう?
かといって、死人が出るまで様子見というわけにもいかないしな」

「無茶じゃない?」

「仕方ないだろう。男として生まれたからには無茶でもやらなければならないこともある。
義を見てせざるは勇なきなり、だな」


………出来る奴というのは、どこか思考回路が違うのだろうか…
全然会話が成り立っていない気がする。

まあ…ハッキリ言ってしまえば、ぜんっぜん怖がっているようには見えないっ!
下手をすればからかわれているんじゃ?とすら思った。

そう思い切り主張すれば、錆兎は苦笑する。
苦笑して言う。

「もう、長を任されてしまった時点で仕方がないだろう?
長が怖気付けば他が不安になる。
不安に慣れば動きが鈍る。
男ならば…やせ我慢でもなんでも、笑ってこなすしかない」

いや、無理。
俺は男だけど無理。

そう思いつつ、村田は錆兎の説得は諦めてちらりと隣に寄り添う義勇に視線を向けるが、義勇も苦笑。

「助けが必要な相手が居れば、俺がどれだけ止めようと助けにいってしまうのが錆兎だから…。
もし、そこで行かないとしたら、それは錆兎ではない。
錆兎の偽者だ」

もう義勇にまでそう言われてしまうと、村田も諦めて笑うしかない。

「なんだか夫唱婦随って感じだよな、お前たち」
と、苦笑すると、錆兎が

「それいいなっ!」
と、楽しそうに笑った。

「万が一今生で何かあったとしてもその時は義勇も一緒だから、来世では異性に生まれて義勇を嫁にしてもいいかもしれない。
もちろん義勇が嫌なら譲歩しておれが嫁でも仕方がないが…」

「…女の錆兎は見たくない。だから俺が嫁でいい」

大切にしてくれ、と、それに存外に嬉しそうに返す義勇。



なにこれ…冗談?それともノロケ?
村田はまたなんだか生温かい気持ちになってくる。

本当にこの2人は…こんな時でもこんなやりとりがでてくるあたりが、すごいと思う。
もう色々がお手上げだ。


こうして村田の肩の力も抜けきってきたところで、

「じゃ、そろそろ行動開始だな」
と、錆兎がそこで初めて他のみんなの方へと足を向けた。





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