朝は錆兎に起こされて身支度をして、3人一緒に食事を作って食べると、そこからは相変わらずの修行の日々だ。
前世が嘘のように、必死にやっても強くならない気がするが、よくよく考えてみれば錆兎の死後11年かけて全てのことをかなぐり捨てて築いたものと同じものを、たった一日二日で得られるはずもないのか…とも思う。
ただ、不謹慎だがアレは楽しかった。
最後の鬼との戦い。
錆兎とのタイミングを合わせての水の型を使った共闘。
前世でも炭治郎とそんな戦闘をした気もするがどうだっただろう…
正直、前世での義勇は目の前の鬼を倒すこと、守るべきものを死なせないこと以外のものには全く興味もなかったし、その二つですら終わった瞬間に記憶から消えてしまっている。
そんなところを同僚の胡蝶しのぶによく呆れられたものだったが…。
ともあれ、あれが少し楽しかったと思ったのは義勇だけではなかったらしい。
錆兎もそれを口にしてきたので、それからは2人は2人で同じ対象に互いに邪魔になったり重なったりしないように、異なる水の型を使う練習もした。
同じように型を使っても、錆兎のそれは力強く水しぶきをあげてぶつかっていく波のようだったし、義勇のそれは静かに揺れるなめらかな水面のようだった。
いくら義勇が錆兎のように技を出そうとしても出来なかったし、逆も然り。
それを鱗滝が
「同じ水の型でも使う者によってこれだけ違うのは珍しい。
面白いものだな」
と、興味深げに見守る。
対象的な水の呼吸の使い手…
それはその後届けられた日輪刀にも現れることになった。
2人の刀を打ってくれたのは同じ人物だった。
2人の前にそれぞれ置かれた日輪刀。
まず先に錆兎が己の前に置かれた刀を手に取った。
日輪刀と呼ばれる隊員の刀は、持ち主の性質によって色が変わるとのことで、さすがに錆兎も若干緊張しているようだ。
それでも臆するのは男らしくないということなのだろう。
ズズっと鞘から刀を取り出し、目の前にかざしてみせる。
すると鞘に入っていた時は普通の鋼の色だったその刀身は、鮮やかな青色に変わった。
前世の義勇の刀のように深い色ではなく、太陽を浴びて輝く海の色だ。
ああ、錆兎らしい…と、なんだか義勇の方が浮かれた気分になってしまう。
まさに錆兎が繰り出す水の呼吸の型のような色。
この刀を錆兎が振り回すところを見る事が出来るのだと思うと、本当に感無量だった。
もう錆兎の刀の色さえ見られれば、自分のそれにはあまり興味がない。
おそらく前世と同じように鬱蒼と暗いところにある泉のような色なのだろう。
そんな風に特に感動もなく義勇が己の刀を抜いてみると、やはり刀の色は前世と変わらない。
でもこの刀の元の鋼は錆兎が選んでくれたものなので、その分前世よりは数倍大切に思える。
「うわぁ…義勇の刀、綺麗な色だな。
静かに澄み切った森の湖のような色だ…。
本当にお前らしくて良いな」
義勇自身は興味を持たなかったその色合いだが、義勇も刀を抜いたことに気づいた錆兎がそれを見て、そう褒めてくれる。
そうか…これは綺麗な色だったのか……
前世ではなんの感慨も持たなかったが、錆兎がそんな風に言ってくれるなら、きっとそうなのだろう。
そう思うと、義勇はなんだか嬉しくなった。
生きてそこにいる錆兎の言葉ひとつひとつが、いちいち義勇を幸せな気分にするのである。
「ありがとう。…錆兎の刀もすごく錆兎らしい色合いでカッコいいな」
と、ほわほわした気分で答えると、錆兎は、そうだろう?!と誇らしげに笑う。
そう…錆兎が笑っている。
それだけでも今の義勇の人生は光に満ち満ちていた。
弟子2人がそれぞれ自分のための真新しい日輪刀を前に笑顔なのを見て、鱗滝も嬉しそうだ。
彼もまた、この光景を何度も夢に見た人間の1人なのだろう。
しかしこの刀が届いたことで、この狭霧山での静かで平穏な生活は幕を閉じることになる。
これで2人は完全に、鬼を殺す鬼殺隊の一員となったのだ。
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