途中でた鬼はのちの安全のために片っ端から錆兎が斬り伏せ、義勇はいつでも錆兎に予備の刀を渡せるように手に抱えながら、そのあとを追った。
途中何人もを助け、村田の待つ地点に誘導し、自分達も寝る時はそちらに帰って寝る。
その繰り返しを6日間。
参加者は大方揃い、残り時間もあと1日となった夜のことだった。
「あとは動き回らず、ここに来るようなら撃退という形の方が効率が良いな」
と、最後の1人を回収したあと、錆兎が言うのに全員が同意をする。
なにしろみんな鬼を相手に逃げ惑っていたわけなので、鬼を退治に行ってくれるのは良いが、唯一戦える錆兎がいないと、鬼がこの拠点に襲ってきたら、また逃げ惑うことになる。
錆兎が居れば安心だ。
誰もがホッとした。
「…俺も…この選別が終わったら頑張ろう。本気で修行するぞ」
と言う村田に、俺も、俺もと続いて言う参加者たちは皆笑顔だ。
明日には全員で最終選別をクリアできる…皆がそう思い込んでいたその瞬間だった。
連日の戦いでさすがに疲れてウトウトしかけていた錆兎が飛び起きて刀を握った。
その動きにみなが固まる。
「みなっ!夜明けまであと4時間ほどだっ!なんとか逃げ切れっ!!
義勇、行くぞっ!!」
言われて拠点にざわめきが走った。
しかしそれ以上説明することなく錆兎が走っていくので、義勇も慌てて自分のと村田から借りた刀をひっつかんで後を追う。
こうして走る錆兎の後ろをひた走っている義勇がそれに近づくにつれて感じたのは強烈な怖気だった。
今まで戦ってきた鬼とは確かに違う。
おそらく大人になってからならなんなく倒せたのだろうが、人はその時の自分との力の差に恐怖を感じるらしい。
13歳のまだ力のない義勇にとっては、近づいてくる気配はとてつもなく恐ろしく強い敵のものに相違なかった。
その頃の義勇に比べれば遥かに強くて、この山の鬼のほとんどを倒してしまうくらいの錆兎ですら、それを感じていたらしい。
──…義勇…俺が押されていると判断したら、お前も即逃げろ
と、走りながら言う。
それで義勇は察した。
近づいてきているのはおそらく前回の人生で錆兎が殺されたというあの鬼だ。
「俺は逃げない。だから勝て!錆兎」
錆兎の言うことにはたいてい頷く義勇だが、ここで頷いたらわざわざ人生をやり直している意味がない。
だからそう答えると、錆兎は小さく息を吐き出し
「確かに…戦う前から敗北を考えるなんて男じゃなかったな。すまん」
と、笑う。
そして
「よし!勝つぞ、義勇!」
と、迷いのない真っ直ぐな目で前を見つめた。
この時の錆兎はたった13歳だ…それなのにこの気持ちの切り替え、肝のすわり具合は本当に今おもってもすごいと思う。
前世の時に錆兎が生きていたら…絶対に最強の水柱になっただろう。
そうしたら、もしかしたら死ぬ仲間も数段減ったのではないだろうか。
ああ、やっぱり錆兎はカッコいいなぁ…と、義勇はすっかり13の頃に戻って、惚れ惚れと思う。
そして、自分の役割はこのみんなを守れる錆兎を死なせないこと、それだけだ、と、改めてそんな思いを強くした。
0 件のコメント :
コメントを投稿