その一瞬後、一気に西の方向へ。
そしてそこに見えた、普通の大人ほどの大きさの鬼が3体、1人の参加者を囲んでいる中に、全く臆することなく錆兎が突っ込んだ。
──肆ノ型…打ち潮
との声にうねる帯状の水が、綺麗に鬼3体の首を跳ねる。
今見ても、錆兎の繰り出す水の型には力強い美しさがあって本当に見事だと思う。
このまま生きていたら絶対に錆兎が水柱になっていたはずだ。
義勇がそんな風に感嘆している間に、錆兎は助けた参加者の少年に、できるだけ皆ひとところに集まった方が良いし、他を助けたらここに連れてくるからこの場にいるようにと指示を出す。
その圧倒的な力強さに、少年はホッとしたようだ。
ああ、よく見ればその少年は、前世で義勇が怪我をして置いていかれた時に自分を預けられた村田じゃないか…と、義勇はなんとなく懐かしくなる。
前回の人生では義勇の身体が動かなくなって戦えなくなって以来会っていないが、元気にやっているだろうか…。
錆兎は初対面なので彼に名を聞くと、
「そうか、村田というのか。
では村田、お前は後方支援の要となってくれ。
あるいは怪我をしている者も出るかも知れないし、もし怪我人が運ばれてきたら簡単にでも良いから手当をしてやって欲しい。
良ければこれを使ってくれ」
と、持参した薬や包帯などをそのまま彼に渡している。
「え?でも全部俺が預かるとお前は困らない?」
と、それに村田が言うと、錆兎は笑顔で義勇を振り返り、
「ああ、義勇も同じものを持っているから問題ない。
こいつはずっと俺と一緒に来てくれるから」
と言った。
その言葉になんだか義勇は胸がいっぱいになったが、ここで泣いてはダメだ。
泣いている場合ではないと、なんとか涙をこらえた。
そして
「そのことなんだけど…錆兎」
と、考えている事を伝えようと口を開く。
「ん?」
「鬼は可能な限り錆兎が倒してくれ。俺が極力刀を抜かないでいいように…」
「…どうした?何か怪我でもしたか?」
「いや…いつどれだけ強い鬼が出るかもわからない。
だから、もし強い鬼が出たら良い切れ味を保った状態の刀で戦ってほしいから…」
だから俺の刀は温存しよう…と、続けようとしたら、いきなり錆兎に抱きしめられた。
「さすが義勇っ!さすが俺の相棒だっ!お前、本当に賢いなっ!!」
と嬉しそうな笑顔で言われて、こんな時なのに幸せを感じてしまう。
「7日間と長丁場だから、錆兎が疲れたら俺が代わってもいいけど、あまりに強い鬼の場合はたぶん錆兎の方が倒せる可能性が高いから」
「ん。疲れた時は頼む」
こつんと額を義勇の額にぶつけて言う錆兎と、それに嬉しそうに顔を少し赤らめる義勇に、村田少年は、こんな時なのになんでこんな甘酸っぱさに居たたまれないような気持ちになっているのだろうと思うが、それはそれ。
自分も助けてもらった上で役割を与えられたなら協力はしなければならないだろう。
そう思って自分の腰から刀を外して、
「これも予備として持っていってくれ」
と、義勇に差し出した。
「え?でもそれじゃあお前が困るだろ?」
と、当たり前に言う錆兎に村田は苦笑。
「情けない話だけど…今の俺じゃ刀を持っていても鬼を倒せそうにない。
それなら使える奴が持っていたほうが良いと思う。
それにもし別の参加者がきたら、そいつは刀を持っているだろうしな」
との言葉に
「そうか。ありがたい。では借りていく」
と、錆兎が言って義勇に頷くと、義勇は差し出された刀を受け取った。
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