集合場所まで続く階段の周りには、季節外れの藤の花。
ここは山の麓から中腹まで、一年中藤の花が咲き誇っている珍しい場所で、ゆえに最終選別の場所に選ばれている。
一面の藤の花は相変わらず見た目には美しいが、懐かしいより悲しい思い出に、義勇は胸が詰まって足がもつれる。
それを緊張によるものだと思ったのだろう。
「大丈夫、ほら、手を貸せ」
と、錆兎はそんな義勇の手を握って引っ張るようにあがってくれた。
確かに同い年だというのに、義勇よりは固くて温かい、力強い手だ。
もう二度と失くしたくないそのぬくもりに、義勇の緊張はより高まっていった。
山の上には鬼殺隊の係の人間が今回の最終選別の決まりごとを説明している。
炭治郎の頃にはすでに少し大きくなったお館様のお子様たちが説明役を果たしていたらしいが、この頃は彼らもまだ生まれたばかりで言葉を話せるような年ではない。
だから説明役は本部の人間だ。
前回はこれが終わって解散後、10分もしないうちに、義勇は鬼に怯えて周りを気にしすぎてほんの一瞬錆兎とはぐれてしまい、その間に飛び出してきた鬼に怪我をさせられて離脱した。
思えばこれが悪かったのだろう。
まず最初の選択は周りを気にするよりもまず、錆兎とはぐれないことだ。
錆兎といれば、義勇が気にしないでも錆兎が鬼を認知して倒してくれる。
水柱にまでなった人間が情けないことだが、一応狭霧山で試してみたが、剣の腕はこの13歳当時に戻っているらしく、この頃の錆兎やこのあと弟弟子となる炭治郎には遠く及ばない。
だから義勇ができることは唯一つだ。
絶対に錆兎についていく。
そして…出来れば自分の刀は使わず切れ味の良い状態を保っておく。
話に聞いたところに寄ると、錆兎が負けたのは、山中のほぼ全ての鬼を切り捨てたためにボロボロになっていた刀が最後の鬼で折れたからだそうだから…その時に自分のそれを差し出せるように…。
出来ればその大型の鬼に遭遇しないように隠れているのが一番だが、錆兎の性格からして助けを求める声を聞けば行ってしまう。
義勇がどんなにとめても助けに行ってしまうのが錆兎だから……
それなら勝てるように補佐をする。
それが唯一2人で生き残る道だ。
もしそれで錆兎がその鬼に敵わなかったら、一緒に食われて2人で人生を終えるのだ。
説明が終わると、皆一斉に散っていく。
義勇は周りを一切見ずに、錆兎の宍色の髪だけを見て追った。
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