人の限界を越えた使い方をしていたからだろう。
まだ25までだいぶ間がある若さだというのに、義勇の身体はずいぶんと前から少しずつ動かなくなっていた。
今は世話をしてくれているのであろう弟弟子に感謝と詫びの気持ちを伝えることすらできない。
動けるうちはまだしも、こうなってまで命を永らえる意味はどこにあるのか…
義勇は自問自答しながら、ゆっくりと自分の身体が生から遠ざかっていき、やがて死の世界にたどり着くのを待っていた。
そうして考える他にやることのない生活の中で思うのは、
自らの使命を全うして死を迎えた時に、“彼”が迎えに来てくれるだろうか…
よくやった、さすが俺の義勇だ、と、褒めてくれるだろうか…
と、そのことばかりである。
会いたい…と、義勇は見るという本来の用途をとうになくした目からぽろりと一筋涙をこぼした。
死をとても待ち遠しいものに感じるのは、身体がこうなるはるか前からだ。
義勇にとって誰よりも大切な相手は、13の年に逝ってしまった。
それでもこれまで後追いもせず、こんな無機質な生を永らえてきたのは、ひとえに後を追う時期を逸してしまったのと、彼とともにいるのにふさわしい何かをしなければ、いつでもまっすぐに目標に向かって走っていた彼に死後の世界で絶交されるのではないかと、そんな馬鹿なことを思っていたからだ。
だから修行も死ぬほど頑張った。
水柱にすらなった。
人間のために鬼と戦い…そしていま、こうして身体がどんどん生きるための機能を失い、死を迎えようとしている。
もう良いだろう。
彼もきっと認めてくれるだろう。
自分はがんばったのだ…
錆兎に褒めて欲しい…ただそれだけの思いを頼りにして……
ああ、そろそろかもしれない…
と、義勇は思った。
弟弟子の気配がする。
すでに痛みも苦しみも義勇自身は感じていないというのに、何か悲しそうに叫んでいる気がした。
そんな必要はないのだ…と、この優しい弟弟子に伝えてやりたい。
祝ってくれ…ようやく会いたい人間に会えるのだから、何も悲しむこともなければ、泣くこともないのだ…と、伝えてやりたかったが、それもできないまま、義勇は静かに苦渋に満ちた人生を安らかに終えたのだった。
…どうやら自分は死んだらしい…
と、義勇が気づいたのは、見えなかった目が見えて、聞こえなかった耳が聞こえているからだ。
と、義勇が気づいたのは、見えなかった目が見えて、聞こえなかった耳が聞こえているからだ。
そこは真っ白な空間でなにもない。
生前の習慣であたりを警戒しつつ腰に手を伸ばすが、当然刀などあるはずもなく、それどころか自分の存在すらあやふやな気がする。
そんな中でさてどうするか…と思っていると、とうの昔に亡くなった慕わしい主の柔らかな声が脳内に響いてきた。
──義勇…お疲れ様。よく頑張ったね。君のおかげで大勢の人が救われたけれど…君自身の人生は犠牲にしてしまった。
だから大きく結果が変わってしまっては困るけど、一度だけ君が少し自分の人生を有意義に思えるよう、運命の岐路に戻してあげよう。
今度は選択肢を間違えないようにね。
君の幸せを祈っているよ…──
…え?
と、思った瞬間、視界が光に包まれる。
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