赤ん坊狂走曲_ver錆義_5

「じゃ、悪いっ!お先っ!!」

週末の今日も、いつものように勤務時間内にきちっと必要以上の成果をあげて、自身の帰り支度をしながら部下達の帰宅を見送ると、まだ残っているわずかな部下達には何かあったらメールで指示を仰ぐようにと言い渡して、錆兎は帰宅の途につく。

いつもと違うのは今日は花束とリボンのかかった大きな包みを手にしている事だろうか…。



「錆兎、今日は嫁の誕生日か何かなのかぁ?」

とその後ろ姿に学生時代の友人で錆兎と同じくこの会社の社長である産屋敷耀哉にスカウトされてこの会社に入った不死川が声をかければ、

「嫁じゃないがな。今日誕生日なのは正解だ。
あいつの好きなティディもこの通り届いたし、これから予約しておいたケーキの受け取りだ」
と、嬉しそうに箱を抱えて駆けだして行く。


「ほ~、錆兎の嫁、見た目はミドルティーンみたいだったけどなぁ、プレゼントがぬいぐるみって、本当に見た目通りの年にしても、それでいいのかよぉ…」
と、目を丸くする不死川に、ちょうど通りがかったやはり学生時代からの先輩の宇髄が

「まあティディは大人でもコレクターがいるからな。
それよりお前、錆兎の恋人みたことあるのか?」
と、こちらは別の意味で驚いたように目を丸くした。



錆兎が自身の降格を申し出たのは今から半年ほど前の事である。
いわく…子育てで早く帰りたいからとのことだった。

そういう事に関しては非常に順序を大切にしそうなのに結婚したと言う話は聞かない。
なのに子育て??と驚かれはしたものの、そういう冗談を言う人間ではないし、何か事情があるのだろうと言う事で納得された。

が、それはそれとして、会社側にすれば日中の分だけでもその仕事の有能ぶりは惜しい。
彼を前面にたてることでスムーズに行く取引関係もある。
ということで、残業をさせないという条件の元、そのまま課長職に留まらせることになった。

そんな事情があるものだから、当然周りの興味はその家族へと向かうのは不思議なことではないだろう。

結婚はしていない。
しかし恋人と一緒には暮らしていて、子どももいるらしい…。
プライベートを根掘り葉掘り聞くのはさすがにタブーなので、周りは色々な状況からそう結論付けた。


中にはツワモノも居て、

「お子さん男の子さんですか?
実は今の取引先が玩具の会社でおもちゃ頂いたんですけど、私は独り身なので宜しければ…」
などと、搦め手で特攻したら
「あ~、ありがとう。男だけど、でもうちのはまだ乳児だから」
などと当たり前に返された。


そこでさらに周りの女性社員が
「赤ちゃんっ?!いいな~。可愛いでしょうねっ!
写真ないんですかっ?!」
などと言うと、

「ああ、可愛いぞ!ほら、みるか?!」
と、上機嫌で財布の中から出した写真を見せてくるので、実は赤ん坊の顔は周りには周知されている。


ただし赤ん坊の母親、錆兎の恋人らしき人物については誰も知らない。
…というか、

「普段はママがみてるんですか?」
と踏み込んだ質問をしたら、

「…いや…母親は亡くなってるから」
と返されたのだが、そこで錆兎を狙っている女性陣が

「え?あ、じゃあ私休日子守りに行きましょうか?
赤ちゃん大好きなのでっ!」
と、勢い込んで申し出ると

「いや、同居人がみてるから…休日は俺も一緒にみてるし、家族水入らずってことで…」
と言うので、母親はいないというのは実はプライベートに踏み込まれたくないための方便らしいというのが、大半の周りの見方である。

しかしながら…実際に写真などを見た人間はなく、真偽は定かではなかったので、不死川のその言葉には聞いた宇髄以外の周りも一気に静かになって耳をそばだてた。

「え?錆兎お前には紹介してんのか?
俺には自宅に来るなとまで言ってるのに??」

と、気の置けない先輩という立ち位置の人間としては若干納得がいかずに言うと、不死川は

「あ~、たまたま休日に公園行ったら赤ん坊抱いた錆兎と弁当らしき包みを乗せたバギー押してる嫁を見かけただけだぜぇ?
錆兎が口にしねえって事は知られたくないんじゃね?と思って声はかけなかったけど、嫁は嫁って言うよりお嬢ちゃんって言う感じだったわ。
めちゃくちゃ若い…って言うより、幼い感じだったなぁ。
でも赤ん坊にそっくりな顔してたから母親なことは間違いねぇ。
あれは…たぶん錆兎らしくはねえけど、我慢できずに手ぇ出したらできちまったんじゃねえかぁ?
親が許さねえってんで、駆け落ち同然で子ども産んで一緒に暮らしてるから、まだ“嫁”じゃねえのかもなぁ」
と、あっさりと肩をすくめる。


「…うあぁ……マジかぁ…」

そのあたりは、他人は他人と、自分の事でなければ割り切る不死川と違い、身内には情の深い面倒見の良い宇髄はスルーできなかったらしい。

「それで、錆兎のやつ、不安定な環境の彼女と赤ん坊守るために自分の降格を申し出ちまったりしたわけかぁ?
おいおいおいおい!!それ早く言えよっ!!
言ってくれたら俺だって協力してやったのにっ!!」

「そうやって騒がれるの嫌で言わなかったんじゃね?」
と、それに対して不死川は冷めた反応を返すが、宇髄は勢いよく身を乗り出した。

「何言ってんだっ!
ようは親の反対押し切って一緒になったから、嫁は白無垢もドレスも着れてねえんだろっ?!
これはもうささやかでも式開いてやんのが友人ってもんだろうよっ!!」
「女子かっ」
「女子じゃねえけど、先輩様だっ!!」

とにかくサプライズだから事情は言わずにサイズ聞いておけよっ!うちの嫁達に用意させるからっ!!

と、ピシっと指を指してそう言うと、おそらく3人いるため籍はいれてないが一緒に暮らしている3人の恋人の元へだ~っと駆けだして行く宇髄を唖然と見送る不死川。

「…だから…そういうのが嫌だから……って、もう聞いてねえか…」
と、やれやれと言った風に小さく首を横に振った。




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