続聖夜の贈り物_8章12

「う~ん…どうなってんだ、こりゃ?」
こうして情報を集めて王宮にたどり着いた一行だったが、台風一過とでも言えばいいのだろうか…。南の国の王宮ではすでに一部壁が崩れ落ち、負傷した兵を運び出す作業が行われていた。



「あ~、ようやっと来たとね。」
入り口あたりで呆然と立ち尽くす一行の前に、当たり前のようにのんびりと顔を出したのは、ギルベルトが“いぬのしっぽ亭”で対峙した南の国の王、インディだ。

「あ~!アルトを返せっ!!」
ギルベルトがまず血相を変えて詰め寄って、その襟首をつかむが、インディは動揺することなく静かにその手を離させると
「遅かったばい。ついさっき東の魔人が連れ帰ったとよ」
とにこりと告げる。

うっわぁ~~~青くなって頭を抱えるウィリアムとフランシス。

(あの人…なんでこんなとこまで出向いてるかな?てか…どうやってきたんだろ??)
(それどころじゃないよ、お兄さん死亡フラグじゃない?!)
(くれぐれも僕を巻き込まないでねっ。)
(え?なにそれ?!巻き込まれてるのお兄さんの方じゃないのっ?!)

二人でこそこそそんなやりとりをしてる間、とりあえず最低限今の時点でアーサーの身の安全が確保されているとわかったギルベルトは、来る道々気になっていた事を問い詰める。

「アルトに変な事したり、変なモン使ったりしてねえだろうな?」
「した…いうたら?」
ギルベルトの剣幕に臆することなく、インディはクスリと笑みをこぼした。

「許さねえ…お前ごとこの国滅ぼしてやる」
ギルベルトの身体が光って、次の瞬間紅のロングソードが姿を現す。

「おお~、こんが炎の石の力たいね」
目の前に突然現れた最強の武器にもやはり動じる事はなく、インディはむしろ感心したようにしげしげとそれを眺めた。

「いったい何をしたんだ…」
冷ややかにキレかかるギルベルトの声に、インディはようやくギルベルトに視線を戻した。
そしてにこりと微笑む。

「あんたには感謝されてもよかことよ?」
「…どういうことだ?」
「うちん国には白蛇様ちゅう精霊がおるんやけんど、100年に1度使えるその白蛇様の呪術をちょぉ使ってみたんやけんど…」

「解けっ!」
インディの襟首を再度つかむギルベルト。

「解いてええん?」
インディはまたゆっくりその手を外す。

「まあ一度かけたら本人が死ぬまで解けんのやけど、悪いもんやなかよ」
「呪術がいいなんて事あるかっ!」
「ん~その呪術、最初に身体繋げたモン以外と身体繋げることばできなくなるちゅうもんなんやけんど」
「…へ?」

「私がしようとしたらできんかったばい。あんたやないん?相手」
「……」
ギルベルトの白い頬がカ~ッと赤くなった。

「ほんとか?本当にそれだけの呪術なのか?」
「残念やけど、そうじゃね。
東の魔人がずぅっと大事にしまっとったけん、よもやもう手ぇつけられちょるなんて思わんかったばい、これで手に入れられると思ったんやけんど、自分で自分の首しめてしもうたと」

苦い笑みを浮かべる若き王にほっと息を吐き出すギルベルト。

「わかった、それならいい」
と踵を返そうとしたあたりで

「あほか~いっ!!」
と、どこから出したのか、ロヴィーノがハリセンでぱこ~ん!とギルベルトの後頭部を張り倒した。

「お前馬鹿かっ?!話よく聞いとけよっ?!こいつはな、アーサーと最初にやればもうあいつが他の奴とできなくなるからあいつをモノにできると思って呪術かけてんだぞ?!」

「実害なくて、今後実害がでなくなったならそれ以上はもう追求しても仕方ねえだろ。
無駄な敵増やすのは合理的じゃねえ」

「もういいっ!お前はそういうやつだよな…」
は~っと諦めの息をついて肩を落としたロヴィーノは、目の前に落ちた影に顔をあげた。

「ああ?なんだよ?」
ジ~っと見下ろすインディの黒い瞳をにらみ返したロヴィーノの顎を、褐色の指がクイっとあげさせた。


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