続聖夜の贈り物_8章13

「ああ…あんたも綺麗な翡翠なんやね」
「はぁあ??」
ぽか~んとするロヴィーノに、インディはずいっと一歩近づく。


「あんたは確か西の貴族やろ?」
「ああ。だから?」
思わず一歩引くロヴィーノに、インディはまた一歩詰め寄った。

「上ん立つもん同士仲よぉしとったら争いも起きんばい…」
闇色の瞳でじ~っと顔を覗きこまれて、ぞわわっと背筋に悪寒が走ったロヴィーノはまた一歩引こうとするが、腕をしっかりつかまれているため動けない。

「私らが仲良ぉしとったらええと思わんと?」
吸い込まれそうな闇色の瞳が近づいてくる。

呆然となすすべもなく立ちすくむロヴィーノ。
だがその時、

「悪いけど、うちの国の貴族懐柔するのはやめてくれない?
彼に何かしらの権限があるわけじゃないんだから、他国の王族と仲良くするのはデメリットはあってもメリットは薄いわ」
と、さらに近づこうとするインディの腕を強引に離させて、ロヴィーノを後ろにかばったエリザがインディを紅い眼で睨みつけた。
ほ~っとその後ろで力を抜くロヴィーノ。

「第一、彼は別に宝玉とか関係ないわよ?」
と続けるエリザにやはり食えない笑みを張り付けたままインディが答えた。

「私がいつ宝玉が欲しいと言うたと?
うちん国は魔法を受け付けん土地柄じゃけん、別に宝玉なんかなくてもよかとよ」
「ああ?じゃあなんで“選ばれし者”のアーサーさらったのよ?」
「綺麗な翡翠の眼ぇばしちょったからばい。
私はずぅっと綺麗な翡翠が欲しい思っちょったとよ」
「はぁぁ??」
「うちん国では宝玉より翡翠の方がよっぽど価値があると」

「え~っと…兄ちゃん次のターゲット?」
コソコソっとささやくフェリシアーノに
「怖い事言うなっ!」
と涙目で震えるロヴィーノ。

「まあ…今はまだよか。
とりあえず…また城壊しに来られても面倒ばい。
あんた達が国に戻って正式に国交を結ぶばい、そのあとにちゃんと手順踏んで口説いてみるとよ」
「ひぃぃ!」
ハンターのような目で見据えられて思わず隣のフェリシアーノに抱きつくロヴィーノ。

「それまではこれを…贈り物ばい」
ズイっと強引にエリザを押しのけてロヴィーノの前に出ると、インディはロヴィーノの両手を取って小箱を握らせ、ふわっと抱き寄せると額に口づけを落とした。

「あんたらにとってのこれの価値やったら、このくらいは許されるやろ?」
と、一瞬で離れて片目をつぶる。

「これ…?」
ロヴィーノはぽか~んと手の中の小箱を見降ろし、
「なんだろ~?」
とフェリシアーノが横から手を出して箱の蓋を開けた。

「「え?ええ??」」
双子の声がはもる。

「い、いいのかよっ?!これって…」
箱の中には風の石。

驚いて顔をあげるロヴィーノに、インディは
「私にはなんの価値もない石ころじゃけん。持っていきんしゃい」
と微笑む。

「それで少しでもあんたの帰国が早まればそれでええよ」

思いがけず手に入った二つ目の欠片。

「兄ちゃん、兄ちゃん、これ俺にちょうだい♪」
と、いきなりフェリシアーノが箱の中に手を伸ばす。

「あ、待てっ!おいっ!!」
止める間もなく、両手でそれを抱え込むフェリシアーノ。
えいっ、えいっ、と、自分の腹に押し当ててみるが無反応だ。

「ヴェ~。ウィル~、これ入らないよぉ~~」
ウィリアムに訴えるが、ウィリアムは苦笑する。

「だから言ったじゃない。石に選ばれる方がレアなんだよ。
普通“選ばれし者”の能力が介在しないと無理」
「ちぇ~、ギルベルト兄ちゃんだけずる~い」
口をとがらせるフェリシアーノ。

「まああれだ、とりあえずアルトを取り戻したら使わせてもらおうな」
「ああ、そうだな。次は…カークランド本家?」
ロヴィーノがチラリとエリザを振り向くと、エリザもうなづいた。
「とりあえずこっからだと海出た方が早いわね。
で、海から絨毯で島をぐるっと回って東の国かな」

こうして一行は南の国の西の側の海を目指すのだった。



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