続聖夜の贈り物_8章11

冷徹な東の魔人と人の良い西の傭兵王子…アーサーに縁のある二人は正反対のようでいて中身が一緒だとウィリアムは目の前の惨状を見てうんざりと思う。


偉大な魔術師と炎の石に完全シンクロする男、双方とも味方と認識した者以外に対する切り捨て方が半端じゃない。

物も人も男も女も老人も子供も皆等しく排除していくその姿は魔術師としてあまたの戦場に身を置いた自分でも空恐ろしい。

助けを求めて逃げまどう相手をかばえば自分も容赦なく排除されるのでは…と思うと止めるに止められないのは、どうやらウィリアムだけではないようだ。


「…どうしよう?」
さすがに露骨な惨状を目の前にしてフェリシアーノが震えながらルートを見上げるが、彼もまた味方に矛先が向かないようにと思えばどうすることもできない。

「とりあえず…皆戦意喪失だろうし、ギルの目につかないとこで王宮の情報集めてそれ餌にここ離れましょう」
エリザはさすがに修羅場をくぐった場数が違うのかそう言って、フランシスの肩をポンと叩いてうながす。

「そうだね。お兄さんもこの美しくない風景見てるの限界…」
真っ青な顔をしてフランシスもそれに同意すると、それぞれ逃げまどう人達の間に散っていく。

「みんなは巻き込まれないように立ちまわるなんて無理だから離れてなさいよ?」
と、エリザに忠告され、他は少し離れた所でひたすら待つ事にした。



(昔も…こんな風景みたなぁ…)
燃え上がる村を遠目にしながら、ウィリアムはぼ~っともの思いにふけった。

あの時暴れていたのはまだ自身もわずかに少年の面影の残る長兄だったのだが……。

あれは確か15年ほど前だったか…下っ端すぎて事情をよく知らない一族の者が、てっきり本当に宗家がアーサーを疎んでいるものと思って、まだ幼児だったアーサーを連れ出して他国に売り渡そうとした事があったのだ。

(あ~…あれも確か相手が南の国だったっけ…)
やっぱり南の国は鬼門だ…と、立てた膝に頬杖をつきながら思うウィリアム。

あの時の長兄は幼心にも怖かった。

他国どころか自国の村々を焼き払い、逃げる一族の者を鬼のような形相で追って追って追いつめて…南の国の者の手に渡る寸前にアーサーをその手に取り戻した時には敵味方の区別なく累々と屍が積み重なっていた。

鬼神か死神のような形相で誘拐犯の手から眠っているまだ幼いアーサーを取り戻して抱き上げた時…その表情が一転とても優しくなって、手の中のモノを本当に愛おしげに抱きしめたのもまた印象的だった。

長として冷静である事を求められて表情に乏しいように思われるが、実は非常に激しく、また愛情深い人間なのだ、長兄は…。

強すぎる義務感から気持ちを押し殺して最愛の弟につらくあたり、本人に気付かれないようにこっそり愛情を注ぐ長兄を気の毒だとは思っていた。

面倒くさいので関わりたくはないが、嫌いにはなれない相手だ。

でもそうやってつらく当たる部分しか見てないはずの末弟が選んだ相手が長兄と似たタイプというのは、案外どこかで注がれていた愛情を感じ取っていたのかもしれないな、とも思う。

まあ…報われない事は変わらないわけだが……。

そんな風に昔に思いをはせているうちに虐殺終了のお知らせらしい。
王宮の場所を聞きだしたエリザとフランシスに連れられてギルベルトが無表情にこちらへと歩いてきた。

「さて…と、王宮この勢いで破壊したら南の国終了かねぇ」
パンパンと立ちあがって埃を払うと、ウィリアムも一行にまじって歩き始めた。




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