続聖夜の贈り物_8章10

鬱蒼とした密林…それは天然の要塞にも等しい…と思っていたら、ブン!!と怒りの炎のロングソードの一振りで一瞬で炭化した。

南の国との国境で絨毯を降りたギルベルト一行。


「で?王宮ってどこだ?」
とりあえず、と、ぐるりと密林を一周炭化させてから怖い笑顔で振り返られて、ウィルはプルプル首を横に振った。
「知らない…てか、この国鬼門だって言ったじゃない。だから足踏み入れた事ないよ」
正直に言うウィルの言葉に、
「そうか…」
とす~っとギルベルトの顔から表情が消えて行く。

ああ…キレてる……
経験上察したウィルは黙ってフェリシアーノの腕をつかんで距離を取った。

「じゃ、とりあえずなぎ倒しながら行くか?」
クルリとふりむいた笑顔がホラーじみた怖さだ。

「おい…いざとなったら逃げるぞ」
いつのまにかフェリシアーノの腕をつかんでいるのと反対側の腕を掴まれて顔をあげると、そこには厳しい表情の男。

「走って国境越えて即空へ撤退だ」
という男に
「君…誰?」
と聞くと、こちらは空気を全く読まないせいか笑顔を笑顔と受け取って平然としているフェリシアーノが
「俺の大切な相手、ルートだよ♪」
と笑顔で答える。

「ああ…西の皇太子か…」
そういえばアーサー連れ戻しに行った時にいたっけ…と、思い出すウィリアム。
西の皇太子に北の貴族、そして東の魔術師の自分がこうして連れだって南の国を歩いているのも不思議だな、と、少し冷静な部分で思った。

「ふふっ、なんかさ、なんのかんので国境越えてみんな仲良しになったよね♪」
同じような事を思ったのかフェリシアーノが楽しげに言う。
その笑顔に心がほわほわと温かくなる気がして、ウィリアムは少し笑みを浮かべた。

厳しい社会の荒波にもまれてきた自分たちとはちがって、ふわふわと可愛らしい。
自他共に認める個人主義で打算的な自分ですら無条件でなにかしてあげたくなる気がする。
無垢なのもこういう風なら悪くはない。

おかげで自分は西の国に随分と気持ちが傾いている気がするし、幼馴染のフランシスがいるため、本人には絶対に死んでも言わないが、北の国にもそこそこ思い入れがある。

個人レベルで好意がつのっていけば、最終的に平和になるのかもしれない。
まあ、自分のように下っ端がいくら好意を持ったとしても、国を動かすほどの影響は与えられないのだが…。

そういう意味では、東の…少なくともカークランド一族の西への敵対心はうなぎ上りに上がっているだろう。
そして今回の事で南に対する敵対心もマックスだ。

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