だから本来武器が持っている切る力とかの他に高熱で熔解させるって力を秘めてるから、熱で加工する鉄とか金属も切り裂くんだ。
ようは…通常の武器と打ちあった場合はほぼ打ち勝てる」
「いいわねぇ!それ最強じゃないっ」
反応したのはエリザだ。
「他も何かそんな武器になるの?」
エリザの言葉にウィリアムは肩をすくめる。
「武器になるのは炎だけ。炎は攻撃を司ってるから。
水は癒しを司ってるから傷や病気とかの相手の生命力を高めて活性化させる。
風は自由の石。僕の絨毯よりも高速に人や物を運ぶ。
土は防御。自らを固くして攻撃を防ぐ。
ただし…その力は身の内に入れた人間とのシンクロ率と比例するからね。
そこの傭兵王子みたいに馬鹿みたいにシンクロする事まずないから」
ウィリアムはちらりと物珍しげにロングソードを振り回すギルベルトに目をやった。
視線に気づいたギルベルトはいったん武器を解除して、ウィリアムを見返した。
「なあ…」
「なに?」
「もうちょっと低くは飛べないのか?」
遠く下に目をやるギルベルトの言葉の言外の意味を察してウィリアムは答える。
「低く飛びすぎたら視界がかえって悪くなるし、何かにぶつかる可能性考えたらこんなスピードじゃ飛べないよ。
向こうも追われる事を想定して簡単にみつからない航路で向かってると思うしね」
「…そっか……」
がっくりと肩を落とすギルベルト。
「今回は…完全に俺のミスなんだよ。
ずぅっと一日24時間抱え込んでたのに、肝心な時に目…離しちまったから…。
アルトに何かあったらスコ兄んとこ突撃して殺されてくるわ…」
「それ…笑えない」
本人はいたって真面目なのだろうが、一日24時間抱え込んでるとかはねえよ…とウィリアムは顔をひきつらせた。
チビちゃん…なんかこういうタイプに愛されるよなぁ…。
消沈して遠く島の方角に目を向けるギルベルトの姿に、アーサーが大陸に行って以来、幾度となく塔の一番上にある元アーサーの部屋に足を運んで大陸の方を眺めていた長兄の姿が重なって見える。
思えばいつでも長兄の目は末の弟にむけられてた。
自分達に情を向けさせないため…と、昼につけた傷を夜にこっそりと癒しに通っていたのをウィリアムは知っている。
ざっくりと付いた切り傷が翌朝に跡形もなく治っている事に全く疑問を持たないような人間に育ててしまっていいものなんだろうか…とか、常々思っていたのは秘密だ。
情を向けさせない、依存させないと言いつつ、実は何もさせず、疑う事も教えず、大人になる事もさせないで、結局自分の檻の中でしか暮らしていけないように育てている事に気づいてないのだろうか…と、他人事ながら真綿で縛るような独占欲の中で育てられているアーサーをウィリアムは気の毒に思っていた。
だがその檻を抜け出したアーサーが選んだ相手がまた似たようなタイプだったりするあたりが、実はあれ共生依存だったんじゃない?もう宝玉探しなんて始めから考えないで家に抱え込んでベタベタに甘やかしてれば面倒なかったんじゃない?と、ウィリアムは呆れつつも思う。
そうしたら南の国なんて面倒な人種に関わらないでもすんだのに……
快楽主義…それがウィリアムの持っている南の国のイメージだ。
しかし快楽主義と言ってもフランシスのようなあけっぴろげなものではなく、ともすれば禁欲主義とすら思えるようなストイックな雰囲気があり、薄暗くわかりにくい。
呪術と麻薬を多く用いる彼らは、理路整然とした魔法論理を学ぶ事から始める自分達には理解しにくい、得体のしれないモノになのだ。
磁場の関係で魔法コントロールも乱れることから、あちらの方角は本当に鬼門だ。
まあ…魔法のコントロールなんてする気もないNOUKINの次兄アイルあたりなら、あの気味の悪い磁場や呪術にまみれたあの薄暗い空気の影響も受けずにいられるのかもしれないが……。
ある意味長兄が真っ白に育てすぎてしまったアーサーが、あの複雑にゆがんだ空気に取りこまれてしまったら、かなり危険なのではないだろうか…。
きちんと理論に基づいて作られる魔法の影響なら、きちんと理論を追って取り除いていく事は可能だが、あそこの空気は混沌としすぎている。
「とりあえず…最強の武器あることだし、アルトになにかあったら南の国も道連れだ!」
ぶつぶつと怖い事をつぶやくギルベルトの姿は、ウィリアムが真面目に関わりたくないと思っている某人物の行動を彷彿とさせる。
ああ、これで島から南の国が消えるかも…
ウィリアムは遠い眼をして島の将来を思いやった。
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