「うぁ~~もう来月にはスコ兄に北の国滅ぼされてるね……」
フェリシアーノからアーサーが南に拉致された事を聞いたウィリアムはそう軽口をたたくが、顔からは血の気が引いている。
「そんなに強いならさ、お兄さん達には助けてもらえない?」
フェリシアーノにしては的を得た質問だったが、ウィルは
「無理。」
と小さく首を横に振った。
「さっきも言ったけどさ…あそこは磁場が強くて、魔法に対しては自然の要塞みたいになってるんだ。
だからあそこに行っちゃうと魔術師はただの人以下。
逆に向こうもあの地域にいる限り安全だから出てこないんだけどね…。
お互い不可侵て感じの関係なんだよ」
「じゃあ…助けられないの?」
肩を落とすフェリシアーノだったが、ウィリアムはそれには答えず、チラリとフェリシアーノの向こうで前を向いたまま黙りこんでいるギルベルトに目を向けた。
「炎の力…手にいれたんだ?」
「こんなんあっても、簡単に誘拐させてたんじゃなんの意味もねえよ」
唇をかみしめて拳を震わせるギルベルトだが、それにウィリアムは
「意味なくないよ」
と、答える。
「え?」
と聞き返すのはフェリシアーノ。
「さっき磁場の関係で魔法効かないって言ったけど、正確には効きにくいってだけなのね。ついでにいうとコントロールしようにも磁場が邪魔してできないんだけどさ、唯一の例外が身の内に入れた宝玉。
本体である人間と同化してるから、磁場の影響受けないんだ。
特に炎は攻撃に特化した性質を持ってるから、本体がきちんと御し方覚えればあの地方では最強の武器になるよ」
「本当かっ?!」
「嘘言っても仕方ないじゃん。南に着くまでどうせ時間あるし訓練してみる?」
「当たり前だろっ!」
「そうか…元々宝玉の守人だったんだもんね、そりゃあ詳しいわよね」
感心したように言うエリザ。
「ああ、今のうちお前、他の欠片の情報もきいておけよ」
とロヴィーノがそれにうなづく。
「ん~とりあえず…シンクロ率めちゃくちゃ高くない?君」
ウィリアムは腕組みをしてギルベルトをジロリと見ると、呆れたように言う。
「そうなのか?自分じゃわからねえけど」
「あ~、まあ考えたら負けなNOUKINストーンだもんね、炎って。
いいや、深く考えずにまず身体の中の炎の石を意識してみて?」
「ん…」
言われるまま、ギルベルトは石のある腹のあたりに意識を向ける。
するとどんどん身体が熱くなるのがわかる。
「うわ~光るんだねぇ」
フェリシアーノが感心したように言うと、ウィリアムがやっぱり呆れたように言った。
「普通は光るまで行かない…ってかシンクロしすぎ。
“選ばれし者”を介在しないで石に即選ばれる事もレアなのに、出会って数日で光るまでいくってありえない。
でたらめだよ、この男」
そう言えば自分がアーサーを連れ帰った時もカークランド有数の魔術コントロールを誇る自分の呪縛を一部とはいえ破ったのはこの男だった…とウィリアムは思い出した。
そんな常にはない何ががあるこの男が“選ばれし者”であるアーサーと出会ったのはただの偶然ではなく必然だったのかもしれない…。
「で?次どうすればいいんだ?」
考え込んでいたウィリアムはそういうギルベルトの言葉でハッと我に返った。
「ああ、うん。じゃあさ、無理だとは思うけど武器の具現化行ってみようか。」
ウィリアムの言葉にギルベルトは黙ってうなづく。
「そのまま石を意識した状態で、なんでもいいや、自分に一番なじみのある武器を思い浮かべて見て?」
魔法の訓練を受けた自分達でさえ、イメージの具現化などそうそうできるものではない。
半分以上期待しないで言ったウィリアムだったが、次の瞬間、ギルベルトが手にした紅いロングソードを前に目を丸くした。
「ええ?なんでぇ?!」
「ロングソードじゃだめか?」
驚いて叫ぶウィリアムにぽかんと首をかしげるギルベルト。
「そっちじゃなくて…なんで武器出しちゃってるの?」
「いや、お前が言う通りにしてみただけだけど?」
でたらめだ…とウィリアムは心の中でつぶやく。
「君さ…魔法とか何かの訓練受けて育ったの?」
「いや?何も?東の国じゃねえんだから、そもそも訓練施せるようなやつがいねえだろ」
「……」
目を丸くして言葉をなくすウィリアム。
「で?これどうしたらいいんだ?」
ぶんぶんとロングソードを振り回すギルベルト。
「うん。扱った感じは普通のロングソードとそんなに違わねえなぁ」
全然ちげえよ…とウィリアムは心の中でつぶやいたあと、
「もう…いいや。うん。NOUKINだもんね。考えたら負けだよね」
と、大きく息を吐き出した。
Before <<< >>>Next (5月3日0時公開予定)
0 件のコメント :
コメントを投稿