続聖夜の贈り物_8章7

「薬って……なんだ?」

エリザの口から出てきた“薬”という言葉。


もちろんそれが治療薬だなどとおめでたい事はギルベルトとて思わない。
ただ信じたくない、考えたくない、そんな気持ちでギルベルトは聞き返す。

「拉致のための睡眠薬…くらいで済めばいいんだけど…」
言いにくそうに言葉を濁すエリザ。
その脳内には“麻薬”という言葉がうかんでいるのだろう。

「とりあえず…船出してくれ」
ギルベルトはフランシスの腕を掴んで立たせると、出口へとうながす。
一刻の猶予もならないと思う。

「ちょっと待った。とりあえず港に連絡取る。
で、船が出港してるようなら、特急便使うから。
…まあ…なんというか…使いたくないんだけどねぇ。
使っても使わなくてもお兄さん死亡かなぁ…」
ブツブツ言いながら、フランシスは配下を呼び寄せ、指示をする。


イライラと待つ事数十分、
船の出航を確認した。

「しかたない…。島戻るよ。でも全員はたぶん無理。船じゃないから」
「何人くらいいけるんだ?」
「ん~~どうかな~~3人くらい?」
「じゃ、俺とルートで決まりだねっ」
勢い込んで言うフェリシアーノに、本人以外の生温かい視線が集まった。

「ギルベルトとルートは良いとして…お前行ってなにできんだよ?」
皆が遠慮する中、そこはさすがに兄弟。
ロヴィーノが的確な突っ込みを入れる。

しかしさらにそこはさすがに王子様育ち。
フェリシアーノは堂々と言い放つ。
「だって俺アーサーの親友だし、俺がいるとルートは2倍強くなるって言ったもん」

言ったのか…お前そんなこいつを調子に乗らせる事言ったのか?
と、今度は全員の生温かい視線がルートに向けられる。

「…あ~……」
何と言っていいのか、ルートの方はさすがに気まずそうに言葉をなくす。

しかし結局
「あ~、もういいっ!俺が戻れればあとは何でもいい!早くしてくれっ!」
と、焦れたギルベルトの言葉によって切り上げられ、結局フランシスの邸宅までは全員で行く事になった。

ハルバードの柄でゴンゴン急かされ、痛い痛い叫びながら自宅に連行されるフランシス。

「とりあえず…お兄さん先に事情説明するから…お願いだから余計な事言わないでね」
と、邸宅のとある部屋の前でフランシスが懇願する。
「もうそんなんどうでもいいわ。とにかく急いでやっ!」
「はいはい、お兄さんだって急がないと自分の身が危ないから急ぎたいよ。
だから余計な事言わないでね」
本気で半泣きでフランシスは部屋のドアをノックした。


「あっれ~、ウィル来てたんだ~♪久しぶり~♪」

フランシスがドアを開けた瞬間、中にいる人物の姿を認めたフェリシアーノはタタっとかけよって、ウィリアムの両手を取り、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

「フェリ~、久しぶりだね~」
とこちらも嬉しそうに手を握り返すウィリアム。

「ウィル…お兄さんに対する態度と差ありすぎ。なんでみんなこんなに愛がないのよ」
「え~、だってフェリの方が可愛いし?」
「お兄さんだって美しいでしょ?!」
「髭キモい。全部抜いてからなら検討するっ」

「あ~!!!もうそんなことどうでもいいっ!!早くしてくれっ!!!」
そんなやりとりにギルベルトがキレた。

「あ~そう!そうだよっ!!ウィル、お願いっ!南の国まで連れて行って!!」
そこでハタっと我に返ったフェリシアーノが手を合わせると、ウィルは
「いいけど?」
とあっさり了承する。

「でさ、何人くらい乗れる?」
「ん~フェリのお願いなら何人でも?
でもさ、あそこ磁場のせいで魔法効かなくなるから、国境までになるけどいい?」
「うん!お願いっ!」

あっさり交渉が可決して、フランシスは
「お兄さんの立場は?何?そのお兄さんの時との差は…」
とつぶやく。

「髭は放置でっ。とりあえず急いでるみたいだし、事情は空で聞くと言う事でいい?」
と、ウィリアムは空飛ぶ絨毯を呼びだした。

そこで全員乗りこみかけて、ウィリアムはふと視線をマシューに向けた。
「そこの子供はやめておいたほうがいいね。
あそこは磁力の干渉がひどくて魔法生物は下手すると壊れるから」

伊達に魔術師一家で育っているわけではないらしい。
ひとめでマシューを人間じゃないと見抜いたウィリアムはそう忠告する。

「どうしよう?誰か残る?」
とフェリシアーノ。

「僕なら一人で大丈夫なので…」
と言いつつ少し涙目なマシュー。

「あ~、ならあれよ。行きがけにあいつに預けて行きましょ」
エリザがポンと手を打つ。

こうして…行きがけにマシューを預かってくれるようオランに頼む一行。

「大丈夫。お兄ちゃん、珍しく煙草に火ぃつけるくらい喜んでるさかい」
と、謎の言葉で請け負うベルの言葉を信じて、マシューを預けると、7人は再び故郷の島へと向かった。


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