「わ~、嬉しいな♪ありがとう、おばちゃん♪」
アーサーが行方不明になったあの日にギルベルトから紹介されて以来、すっかり知り合いが増えたフェリシアーノは、朝市をのぞいて歩くのが日課になっていた。
“選ばれし者”のアーサーや炎の石を身の内に取りこんだギルベルトと違ってこれと言って何かあるわけでもなく、また故郷の島と違って大陸では王子ではなく一般人なので、普通に買い物が楽しめる。
ついでに世間話がてら情報があればラッキーという感じだ。
今日も果物屋のおばちゃんと世間話に興じ、ギルベルトに抱え込まれて宿にいるであろうアーサーのお土産にと美味しそうな苺を買うと、フェリシアーノは鼻歌交じりに宿への道を歩いている。
朝市の建ち並ぶ街の中心街から少し外れた“ねこのみみ亭”に帰る途中、フェリシアーノは来た時にはなかった変わったテントを見つけた。
占い師のテントらしい。
それは現在恋愛真っ最中なフェリシアーノの気を惹くには十分で……
「ルートとの事を占ってもらっちゃお♪」
と、フェリシアーノは当たり前に気軽にそのドアをくぐった。
(うわぁ…雰囲気あるなぁ…)
入った途端エキゾチックな香の香りがたちこめるテント内は薄暗く、ろうそくの火だけがゆらゆら揺れている。
「ようこそ。身分に違いのある男性との恋に悩んでますね?」
と、いきなり声をかけてきたのは、正面に置かれたテーブルの向こうに座った若い男だ。
西の国の人間よりもさらに濃い褐色の肌の端正な顔立ちの男である。
どうぞ?と勧められるまま、男の正面の椅子に腰をかけるフェリシアーノ。
「どうしてわかったの?」
と言うフェリシアーノの無邪気な問いに、男はにこりと微笑む。
「占い師だからですよ」
と、答えになっているのかなっていないのかわからない返答ではあったが、元々深く考える習慣のないフェリシアーノは
「へぇ~、すごいんだねぇ~」
と素直に感心した。
そんなフェリシアーノに男はまたにこりと笑みを浮かべる。
「これば覗きこんで下さい」
と、長い指先で撫でるのは掌に余るくらいの大きさの水晶。
その横には白い煙が一筋立ち昇る香炉。
水晶に煙がゆらゆらうつりこむ。
揺れる煙を追ってフェリシアーノの茶色の目もゆらゆら揺れた。
やがて…パタリ…と、テーブルに突っ伏すフェリシアーノ。
「まずは第一段階成功…やね」
男の深い黒い瞳が細められ、薄い口元が笑みの形に弧を描いた。
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