前門のカークランドに後門の傭兵王子?
なに?それお兄さんの死亡フラグ?
ギルベルト達に合流したエリザがまずした事は、近くに居を構えていたフランシスに連絡を取る事だった。
巻き込まれたくない…と渋るフランシスにこっそりと刃を突き付けて脅すのはエリザではない。
秘かにボヌフォア家の別宅に居候中のアーサーの末兄ウィリアムだ。
「もしチビちゃんに何かあったら…まず滅ぼされるのはフランの城のある北の国だろうね♪」
と、語尾に音符付きで可愛らしく笑うものの、言っている事は全然可愛くない。
こうして半ば強引に全員が集合している“ねこのみみ亭”のロヴィーノ達の部屋に連れてこられたフランシス。
二人並ぶとクルンと跳ねた髪がハート型に重なるのが可愛らしいヴァルガス兄弟。
ふわふわサラサラのプラチナブロンドにこぼれおちそうなくらい大きな蒼い瞳の可愛らしい幼児を膝に抱いている、子供よりは少し落ち着いた金色の髪と長いまつげに縁取られた新緑色の瞳のアーサーの姿は、まるで一枚絵のように美しい。
美をこよなく愛するフランシスとしては、眼福なはずのその光景も、目の前で露骨に怖い顔で睨んでいるムキムキと、笑顔なのに何故か殺気を放っている傭兵王子のせいでカオスな空間となり果てている。
「もちろん、協力してくれるわよね?」
と疑問形ではあるが、拒否権は与えないとばかりに、フライパンの素振りをかかさないエリザの事は言うに及ばずだ。
ああ、この3人がいなければいくらでも協力は惜しまないのに…と、切実に思う気持ちは口には出さないでおく。
フランシスとて命は惜しい。
「で?なんでお兄さん、ここに呼ばれてるわけ?お兄さん何にも関係ないよね?」
下手な事を言えば命はなさそうだから言えないが、とりあえず呼ばれた理由くらいは聞く権利はあるだろう。
おそるおそる聞くフランシスの握りこんだ手はびっしり汗をかいている。
「関係ない?フランたら無関係通すつもりなの?」
暴力に訴える気満々でフライパンの素振りをするのはやめて下さい、エリザさん…とは怖くて言えず、フランシスは無言でブンブンと首を横に振った。
「そうよねぇ?こんなに可愛い子が大変な思いしてんのに手ぇ差し伸べる気ないなんて、人間としてありえないわよね?
そんなんだったら人間やめた方がいいかもしれないし、なんなら私が手伝ってあげるけど?」
もうどこのヤのつく自由業の方なんでしょうか?
貴方様は将軍家のお嬢様では?
とは当然怖くて言えない。
「ぜひ協力させて頂きたいのは山々なんですが…何ができるかお教え願えないでしょうか?」
もうプライドとか色々かなぐり捨てて、思い切り下手にお伺いをたてる。
命は一つしかないのだ。大切にしなければ…。
「あ~、なんだったっけ?ロヴィ。
アーサー君の大事だって事は聞いてたけど、細かい事把握してない。説明はまかすわ」
って…意味もわからず脅してたの?!お兄さんの人権てその程度の軽さ?!と、心の中で涙するフランシス。
「ああ、うん。お前そういう奴だよな。ギル、説明してやってくれ」
フランシスに同情の視線を送りながら、ロヴィーノがギルベルトをうながした。
「ようはな、あと西南北の方が国あるっつ~事以外なんにもわかんねえ宝玉の欠片を探さなきゃなんねえんだ」
とりあえず宝玉の事から4つの欠片の事、アーサーが宝玉の“選ばれし者”である事、欠片の一つである炎の石をギルベルトが取りこんでいる事などを説明した後に、ギルベルトはそう説明した。
「もう思い切り情報ねえからな、とにかく情報集めて現地飛んで聞きこみしてって感じで、いくら手があっても足りねえわけだ。
幸いお前はこっちに基盤もあるし、あちこちに家もあるし、あちこちに女もいそうだし?
利用できるものは利用させてもらわねえとやってられねえよなって事だ」
「…お兄さんのメリットは?」
とりあえず気心は知れているエリザの方は交渉しやすいと、こそりとエリザに近づいて小声で聞くと、エリザはにやりとあくどい笑みを浮かべた。
「ああ?あんたがカークランド本家とつながってて、カークランドの三男があんたの別宅にいるって事をあたしが知らないとでも?」
こちらもフランシスにだけ聞こえる小声でささやく。
もう…こいつらやだ…と、フランシスは涙した。
いったいお兄さんが何をしたって言うの?みんな愛が足りなさすぎっ!
とは思うものの、繰り返すが命は一つしかない。当然惜しい。
「はいはい。降参ですよ。お兄さんも参戦してあげるよ。で?まずは?」
思い切り脅しに屈して、半分やけになって聞くフランシス。
「とりあえずは情報収集?
あと現地に飛んだ時の宿の手配とか…必要なモノの調達もね。
あ~、もちろん現地までの交通手段も確保してよね」
お兄さん…思い切りやばい人達に絡まれてます。
脅されてます。
たかられてます。
誰か助けて!
フランシスの心の声を聞く者はなく、聞こえたとしても助ける者も当然ない。
いったい何が悪かったやら、東西の貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんに関わるとろくなことがない…と嘆くフランシス。
そして…今度は東西に加えて南のせいでこの先奔走させられる事になるとは、この時フランシスも予想もしていなかったのだった。
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