続聖夜の贈り物_7章3

「このうすら馬鹿が変な事聞いて悪かったわね」
エリザはマシューのフワフワの髪をソッとなでると、マシューはフルフル頭を横に振る。


「え?俺?俺のせい?確かに始めたのは俺だったけど、途中からはエリザが…」
というロヴィーノの訴えは、エリザがにっこりと手にしたフライパンを前に

「あ~、うん。俺が悪かった。ごめんな」
と、黙らせられる。

そうして静かになったところで、エリザはようやくまた話を再開させた。

「あなたのマスターはカトル・ビジュー・サクレを探しに来たって言ってたけど、結局みつかったの?
あと、何かそれについて知ってる事ってある?」

過去は過去として、今未来に向けて聞きださなければならないのはそのあたりだ、と、エリザは思う。

マシューはエリザの言葉に顔をあげた。
ふくふくとした頬に残る涙のあとが可愛らしくも痛々しい。

「えっと…ごめんなさい。
思い出したらちょっと感傷的になっちゃいました。もう大丈夫です」
とまず子供のような風貌に似合わず謝罪を述べたあと、
「カトル・ビジュー・サクレについて…ですかぁ…」
とぽよぽよの眉を少し寄せて考え込む。

「願いをかなえる宝玉って言われてますけど、実は4属性、炎水風土の力を増幅させるモノだと聞いてます。
4つに分かれた欠片は身の内に取り込む事でその属性にあった力を与えるらしいんですけど、属性と著しくシンクロ率が高い人じゃない場合は自然に力を引き出す事は難しくて、大抵の人は宝玉自体とシンクロ率が高い“選ばれし者”に一時的にシンクロ率を高めてもらうという方法でしか力を使えないそうです。
炎の石は情熱、活力、攻撃。
水の石は慈愛、癒し、治癒。
風の石は無邪気、自由、移動。
土の石は忍耐、耐久、防御をそれぞれ司っています。

例えば…炎の石の場合、情熱という性質にシンクロすれば、活力に満ちて疲れ知らず、攻撃力も強くなる、そんな感じですね。

マスターも最初の一年は宝玉を追っていて、それぞれ大陸の東西南北の方向に欠片の力を感じたらしいんですが、細かい範囲までは確定できないまま森にこもっちゃったので、手元には欠片はありませんでした」

「あ~、あんたが調べてさせたの、大まかな部分ではあってたってことね」
と、出発前に披露されていたデータを思い出してチラリとロヴィーノに目をやるエリザ。

「当たり前だろ」
「ま、大雑把だけどね」

「まあそれは良いとして…」
エリザがいったん話題を切ると、今度はロヴィーノが黙る。

「これちょい重要なんだけどね、」
と、エリザがマシューを振り返った。

「確認しときたいんだけど」
「はい。なんでしょうか?」
「結局今でもあなたは宝玉手に入れたいの?」
「あ~、そのことですか」
マシューは言って小さく首を振った。

「本当に願いがなんでも叶うならマスターとまた暮らしたいっていう願いはありますけど、実際はそういう類のものではないので僕は特に欲しいとは思ってません。
森の外に出てきたのは本当に暮らしていけなくなったのと、アルが他に迷惑かけないうちに連れ戻さないとと思ったからで…」

「…わかる」
その言葉でロヴィーノが眉間に手をあてて大きくため息をついた。

「暴走気質の弟持つと苦労するよな」
「はい。…ロヴィーノさんも?」
「ああ、やっぱり弟なんだが、これがちょっと暴走しかけてて…。
ああ、そうだ、そいつとその同行者一行が炎の欠片は手にいれたらしい」
「わ~、そうなんですか。すごいですねっ。
炎は確か東だったから…あとは西南北の地域ですか…出発しちゃう前に追いつかないとですね」
「あ~、そうだな。それがあったか。
明日馬車乗り過ごさねえようにしないと。今日は早めに休むか」

ちょうどマシューがケーキを食べ終わったので、エリザが勘定を払っている間にロヴィーノがマシューの口を拭いてマントを着させる。
瞳の色に合わせた淡いブルーの生地の首元に白いファーのついたマントは、街についてからロヴィーノがマシューに買ってやったものだ。
こうして自分より小さい子供の世話をしてみると意外に大変さよりも楽しさが勝っている。

「じゃ、行くわよ」
エリザは勘定をすませてくるとそう言って、ロヴィーノが握っているのと反対側のマシューの小さな手を当たり前につかみ、3人はマシューを真ん中にして食堂を出た。



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