男の人なんですけどね、手芸が趣味で、同じサイズの僕らの服や持ち物には必ずマスターが名前刺繍してくれてたんですよ。
庭は前庭と裏庭があって、裏庭は食料になる野菜とかを植えてたんですけど、前庭はマスターが丹精込めたバラが咲き誇る綺麗なローズガーデンでした。
家の中にもドライフラワーとかポプリとかがあふれてて、お茶を淹れるのが上手だったマスターはバラをお茶にして飲ませてくれたりもしてました。
そんな風に、僕たちはずっと花とお日様の匂いのする居心地の良い家で暮らしてたんです。
マスターはとてもすごい魔術師だったらしいんですけど、ほとんどそんな風に僕らと森の中の小さな家で暮らしてたんで全然そんな感じしなくて、優しくて繊細で、ちょっと涙もろくて…力仕事とかもダメで、むしろそういうのは力持ちのアルが中心にやってた感じで…なんだかお父さんというよりはお姉さんみたいな感じでした」
マシューはその頃を思い出したのか、ほわほわした微笑みを浮かべた。
「家事は完璧で、僕らが知りたい事はたいてい知っていて教えてくれて…でも料理だけはちょっと壊滅的で……。今にしても思えば僕らは魔道生物だったので健康被害とかはなかったんですけど、マスターの教えてくれた知識から推察するに、普通の人間だったらたぶん健康に影響を及ぼすレベルでのコゲを食事のたび摂取していた気がします」
「健康に影響及ぼすレベルのコゲって…どんだけだよ」
呆れた声をあげるロヴィーノに、マシューはちょっと小首をかしげて考え込む。
「ん~~僕らしばらく、生じゃない食べ物って黒い色をしているものだっておもってました」
「ひでえ!」
とロヴィーノ。
「あ~、でもジャムとかはとても上手だったので、ケーキやスコーンにはたっぷりジャム付けて食べるのが習慣でした。だから…オヤツとかいつも苦酸っぱい感じ?」
「……食え。いいから。俺の分食っていいから」
ロヴィーノがハンカチを目頭にあてながら、自分の分のデザートのケーキをマシューの皿に移した。
マシューはありがとうございます、と、ペコリと頭を下げた後、嬉しそうにそれを頬張りながら続ける。
「そんな感じで僕らは生まれてから20年ほどマスターと暮らしたんですけど、丁度僕らが生まれて20年目の春…マスターは1か月くらい寝込んでそのまま…」
「結構年だったの?」
黙り込んだままのロヴィーノと対照的に淡々と聞くエリザ。
「いえ…成人してすぐこちらに寄越されて1年後に僕らを造ってるので、亡くなった当時マスターは実年齢でもまだ36才くらいだったと思います。でもすごく若く見える人だったので、見た目は20代半ばくらいに見えました」
「そりゃまた若いわね」
「はい。魔力は強かったけど身体はあまり丈夫じゃなかったみたいなので…」
しょぼんとうつむくマシュー。
大きな蒼色の瞳からじわっと涙があふれてくる。
「…会いたいです…」
そう言って小さなまだぷにっとした手を握り締めて、コシコシ涙をぬぐった。
そうしていると本当に親を恋しがるただの子供のようだ。
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