イーストタウン行きの馬車が出るのは1週間に1便。
フェリシアーノの不穏な手紙を受け取って心配して大陸まで様子を見に来たロヴィーノとその護衛のエリザ、そして途中で拾った見かけは子供な魔道生物マシューの3人は馬車が出る日まで田舎街の宿に滞在していた。
無駄遣いをするなという割に、ロヴィーノのチョイスは高くはないが安くもない普通の宿で、やはり王子様だけに安すぎる宿は嫌なのかと思ったエリザだが、それに対して返ってきたロヴィーノの答えは
「俺だけなら一番安い宿にすんぞ。決まってんじゃねえか。
馬鹿なちょっかいかけてくる奴がいたら必死こいて逃げれば良いだけだからな。
でも強いとは言っても女のお前とガキ連れだとある程度の宿じゃねえと変な奴に目つけられたら面倒だからな」
だった。
ぶっきらぼうに見えても弟のいる兄だということだろう。
自分よりも小さい子供に対してはマメな男だ。
宿内の食堂で食事をしている最中もマシューの襟元にナプキンをかけてやったり、熱いモノを冷ましてやったりと忙しくしている。
「子供といっても、僕一応300歳以上ではあるんですけどね」
というわりに、たどたどしい仕草でスプーンやフォークを使っているマシューの言葉に、ロヴィーノの手が一瞬止まった。
「わりい。つい見かけで判断しちまってたけど、こういうの嫌だよな」
少し眉尻を下げるロヴィーノの言葉に、マシューはほわんと可愛らしい笑みを浮かべる。
「いえ、ただ申し訳ないな~というだけで、世話してもらえるのは嬉しいですよ。
こんな風に誰かに世話してもらうの280年ぶりくらいなので」
「あ~、それに身体が小さいと物理的に大人みたいに器用にできないのは確かよね」
とエリザが言うのにも
「はい。確かに大人用のスプーンとかだと大きく感じます」
とうなづいた。
「もともと僕ら、器用じゃないんです。
生まれてからマスターが亡くなるまでは日常の世話とかマスターがやってくれてましたし。いつもこうやってこぼさないように襟元にナプキンつけてくれたり、熱いモノ冷ましてくれたり…だから、なんだかマスターと暮らしてた時みたいで、ちょっと懐かしいです」
フフッと微笑みながら、マシューはたどたどしい仕草で大きめのスプーンでスープをすくい、小さな口に運ぶ。
「マスターはどんなやつだったんだ?」
ロヴィーノの質問に、彼が自分のナプキンでマシューの口の端についたスープをぬぐってやっていたナプキンを置かせると、エリザはパコーンとロヴィーノの後頭部をはたいた。
「なにすんだよ?!」
「うるさいっ!親亡くした子どもに親どんな人だったかなんて聞く馬鹿がいるっ!」
「あ~、でも腫れものに触るようにつきあっても仕方ねえだろ。必要な情報は得とかねえと」
そんな二人のやりとりをぼ~っと見ていたマシューは、おっとりワンテンポ遅れて反応する。
「あ~、はい。僕は大丈夫です。話しますよ」
「あ~、悪い。無理しねえでいいぞ?」
とそれでも言うロヴィーノに、ほわほわとした髪を揺らしながらマシューは小さく首を横に振った。
「えと…なんだか少しロヴィーノさんに似たところがあって、懐かしいんです。
弟のアルは最後ちょっとわずらわしがってた時もあったんですけど、僕はマスターがいつも僕達を子供として扱ってくれてて色々してくれるのが嬉しくて、大好きでした」
そして、僕のマスターは器用だったけど不器用な人だったんです…という一言でマシューの話は始まった。
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