続聖夜の贈り物_6章4

「はあ?」
「やっぱりそうなのね」
とロヴィーノとエリザはそれぞれ反応を返した。
そして不思議そうな視線を向けるロヴィーノにエリザが説明する。


「えっとね…普通に王宮で暮らしてたあなたはあんまりそういうの気にした事ないかもしれないけど…この子は普通の人間にしては妙に存在感ないのよ。
あるべき気配がないっていうの?
あたしはそこそこ戦場とか危険な場所も渡り歩いてきたから、無意識に周りの気配って気にしてるんだけど、さっきもこの子があまりに気配がないもんで、何か意図があって消してるもんかと思って警戒してたの。
でもこうして見えて話してる時点で、姿隠してないわけだから、意図的に気配消す意味ないでしょ?
だからこの子は普通に人間なら当然あるべきものがないってことなんだ」

「ほ~?」
エリザの説明を聞いてロヴィーノが視線を子供に向けると、子供はうんうんとうなづいた。

「はい。僕達のマスターは僕達を限りなく人間に近いモノとして作ったんですけど、僕達は“生きている”んじゃなくて“動いている”に近いんです。
例えば機械とかは動いている時は存在を認識されるけど、ただ動かずそこにある時はしばしば存在を忘れられるじゃないですか。
そんなイメージと捉えて頂けるとわかりやすいと思います。」

にわかには信じがたい話ではあるが、確かに今話している事自体が、4,5歳の子供の言葉ではない。
ロヴィーノもうなづくしかなかった。

「で?そのマスターは誰で、なんであなた達を作ったの?」
ロヴィーノが納得したところでエリザがうながす。

「えと…元々マスターは東の島でカトル・ビジュー・サクレという宝玉を守護している魔術師の一族の一人でした。
で、ご存じかもしれませんが、その宝玉は当時、その一族の内通者を含む、その力を欲した4人の人間によって4つの欠片に分かれた状態で大陸にもちこまれたんです。
で、マスターはそれを追いかけて大陸に渡って来たんだそうです。

僕達はマスターがその4人を探すための助手としてマスターに造られました。
マスターは魔法に関してはすごく優秀な魔術師だったんです。

でも知る人もいないこの広い大陸でバラバラに逃げた4人を探す術なんてありません。

しかも他にも4人を追ってきた一族の人達が無差別に魔法で攻撃して大陸の人に4人を差し出させようとかしたんで、一族の者であると言う事を隠して生きないといけなくなったんです。
そんな状態でしたから僕達を造った時にはマスターはもう故郷に帰れないって言う事を知ってたんですね。
だから寂しさを紛らわしたかったのかもしれません。
マスターは故郷に残してきた自分の双子の弟達に似せて僕達を造ったみたいです。

マスターは優秀な人だったから植物の原理で光合成と水くらいで命をつなぐ魔法生物も造れたはずなんですが、僕達はあえて人間と同じ食べ物を糧に動くように造られ、人間の親が人間の子供を育てるように育てられてきました。

本当は宝玉を探す道具として造られたはずなのに、マスターは僕らの事をとても可愛がってくれましたし、僕も弟もマスターの事が大好きで…でもマスターは人間だったから僕らと同じ時を歩む事はできなかったんです。

もちろんマスターには僕らの時を止める術もあったと思うんですが、それをしなかったんです。
生まれてからずっとマスターのためだけに生きてきた僕らに、せっかくこの世に生まれてきたんだから自由に外に出て楽しい経験をいっぱいしろって。
それでも僕らはマスターと生きる以外、どうしたらいいのかわからないって言ったら、人間は死んでもいつか生まれ変わるから、そうしたらまた会おうって。
その時にはまた生きている間家族として暮らして、また死んだらそれぞれすきにして、また生まれ変わったら一緒に…そうやって繰り返して行こうかって。

だから僕達はずっとマスターと暮らした家でマスターを待ってたんですけど、アルが…あ、弟なんですけどね、
『ここで待っててもあの人抜けてるから戻ってこれないんだぞ。
俺はあの人を探しがてら、ついでにあの人が探してた宝玉も集めておいてあげるんだ!』
って、止めるのきかずに出て行っちゃって…。
それはいいんだけど、ありったけの畑の作物を容赦なく掘り出してお金にして、コツコツ貯めてたお金も全部持って行っちゃったから、僕暮らせなくて…」

「…そりゃあ泣いていいんだか呆れていいんだか怒っていいんだかわかんない話ね」
最初は少し目を潤ませていたエリザが、最後のオチに複雑な顔をした。

「ほんっとに昔から自分勝手なんですよ、アルは!」
ぷんぷんと頭から湯気を出す様子も可愛らしいわけだが、これが本当なら関わってしまった以上放ってもおけない気はする。
なによりこの子供は…カトル・ビジュー・サクレに関わっているらしいというのもある。

「あ~、実はだな、俺の馬鹿弟も訳あってそのカトル・ビジュー・サクレを探しに東の島から大陸にきてんだよ。
それで俺は暴走気味の弟のストッパーになりに追ってきたわけなんだが…同じモン探してんなら、いつかお前の弟に会う事もあるかもしれねえし、俺らと一緒にくるか?」

「いいんですか?」
ロヴィーノの言葉に子供はホッとしたように顔をあげた。

「ああ、俺はロヴィーノ。で、こっちがエリザ。お前は?なんて呼べばいい?」
なんのかんので面倒見の良いロヴィーノにとっては幼い子どもを放っておくという選択肢はなく、エリザの意見は聞かないらしい。

まあエリザにしても可愛らしい男の子は大好きなので、異論はないわけなのだが…

「僕、マシューです。よろしくお願いします」
ぺこりと丁寧にお辞儀をする子供。

「んじゃ、とりあえず宿探して明日には馬鹿弟達のいるイーストタウンに出発だ」
こうしてロヴィーノ、エリザに加え、もう一人マシューを加えた3人は、今日の宿を探しに街の雑踏へと戻って行ったのだった。



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